コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

あなたはどれほど知っている?〜谷本真由美『世界のニュースを日本人は何も知らない』

 

谷本真由美さん(@May_Roma、めいろま)は元国連職員、IT監査専門、アメリカ・イタリア・イギリスで就学や就業経験があり、Twitterで切れ味鋭い意見を投稿するお方。グローバルに活躍できる女性が大好きな日本人にウケがいいかと思いきや、日本はここがおかしいという意見も容赦無く飛ばすから、「グローバルに活躍できるのは日本人女性としての美徳のおかげでゴサイマス」というのを勝手に期待するネット民とよくぶつかりあう。しかし著書『世界のニュースを日本人は何も知らない』は12万部売り上げという痛快さ。わたしは普段からCakesの連載「世界のどこでも生きられる」を愛読している。

世界のどこでも生きられる|May_Roma|cakes(ケイクス)

続編『世界のニュースを日本人は何も知らない2』は発売当日に買った。ふだんからめいろまさんがCakes連載やTwitterで言っている内容が結構含まれているので、「そうそうこんなこと言ってた!」「英国王室を京都にたとえたことが面白かったのに、入っていなくて残念」というように面白く読ませていただいた。ハリー王子とメーガン妃の王室離脱騒動についての女王陛下の声明を「正しく」訳したくだりは笑いころげながら読ませていただいた。そうそう京都言葉を「正しく」訳すとこうなるよね!!

 

お年寄り向きのゆる〜い散歩番組に飽き飽きして、テレビを見るのは映画や正月特番くらい、ふだんの情報収集はネットニュースというのがわたしのスタイル。

ネットニュースを見ると、新型コロナウイルスへの政府対策について、非難がうずまいている。対策が後手後手にまわっている、医療崩壊を阻止するために緊急事態宣言を出せ、補助金を手厚くせよというのはまだわかるが、「コロナのせいで新規バイトを採用できなくて、元からいるバイトでまわしていたら、働きすぎて103万円の壁を越えそうだ困った」というネットニュースはマジで何を言いたいのかわからなかった。

そんな日本だが、「新型コロナウイルスをかなりうまくおさえている」というのがめいろまさんの主張。アメリカやヨーロッパの国々はマスクをする習慣がなく、マスクをする人を変人扱い、WHOや政府機関も「マスクが感染防止出来る実証データがない」という状態だったため、いまに至るまでも半数近い人々がマスクを拒否している。しかも密集集会あたりまえ、ソーシャルディスタンス完全無視だから、感染拡大を止められない。その理由はこう説明されている。

アメリカや欧州でマスク着用が進まなかった理由のひとつが、マスクの効果に対して明確な研究の裏付けがない、ということです。(…)イギリスをはじめ、アメリカや欧州の人々は実証主義で、データの確実性を重視するため、政府も専門家も確固とした裏付けがない場合、特に医学的な事柄に関しては「これをしなさい」ということをはっきりと言えません。

彼らはデータで証明されていることや、裏付けがあることのみを信用するという、非常にプラグマティックな考え方をする人々です。これはビジネスでも同じで、たとえばオペレーションの仕組みを変更する際に、日本だと経営者や管理者の思いつきで変えることがありますが、イギリスの場合は一定規模の会社なら、まずはデータを収集して本当に効果あるかを検証し、それから導入を考えます。

まさにこの通りと深く深くうなずかされる。アメリカやイギリスの顧客と仕事したことがあるが、重箱の隅も隅、裏付けをとことん要求されて辟易した。ただ、これを新型コロナウイルスに発揮されると、前例も裏付けもないために、うまくいかなくなってしまう。

アメリカなどは民主主義を大絶賛して、独裁政権を批判しまくっているが、槍玉にあげられている中国は、こと新型コロナウイルス感染抑止対策についてははるかにうまくやっている。健康アプリ導入(スーパーなど不特定多数が集まるところの入口、公共交通機関乗車時、アプリ画面を提示しなければならず、感染疑いがある人は利用・入場不可)、市区役所レベルの住民移動監視(地元出身者以外は、氏名・身分証番号・出身地・現住所・電話番号等が入ったリストが地域担当者に配布される)、などなど。移動の自由も個人情報保護もどこ吹く風である。

根幹にあるのは「もののわからない国民は、もののわかった政府が管理しなければならない」という考え方だ。わからずやどもを自由にさせたらなにをしでかすかわからない、だから父親が子供たちを監督するように、政府は国民を監督し、その行動を規制しなければならない。中国政府の基本スタンスだ。新型コロナウイルス対策ではこれがうまくいったと,認めなければならないだろう。

自由であることの代償は、ときにとても高くつく。

『世界のニュースを日本人は何も知らない2』で書かれている各国のコロナ初期対応をみていれば、このことを考えずにはいられなくなる。アメリカなどではマスクをしない自由を求めてデモが起きた。その結果感染拡大している。フランスでは公共交通機関でのマスク着用が義務付けられたあと、マスクをしない乗客に注意した運転手が暴行の果てに殺されている。こういう話を聞くたびに、いろいろ考えさせられる。こういう考え事にうってつけのエピソードが本書には山盛りだ。

 

日本人の諸外国への勝手な期待、そのくせ諸外国の本当の姿を知ろうともしない姿勢、そういうところは、海外暮らしが長い著者にはよく見えるのだろう。

人は自分が見たいものしか見ないというが、自分の意見を相手に押しつけて、期待通りでないからとキレられても相手は「そんなん知るか」である。

わたしがついこのあいだ知ったこと。中国では、日本の戦争関係映像作品には侵略国への謝罪を期待しているから、すずが号泣する『この世界の片隅に』は反省と謝罪の色ありと賛美され、『火垂るの墓』は謝罪がないから中国国内公開NGなんだとか。「はあそうですか」としかいいようがない。これだけ見れば馬鹿馬鹿しい話だが、日本人も似たようなことをやっている。それを書いたのがこの2冊だ。

日本人の思いこみに痛快に切りこみ、考えるヒントを与えてくれる2冊。年末年始の読書にぜひどうぞ。