コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

10年前のエネルギー社会と今〜D. Yergin “ The Quest”

エネルギーについて学ぶための本。

 

なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。

①世界の見方を根底からひっくり返す書物、

②世界の見方の解像度をあげる書物、

③好きだから読む書物

この本は②。産業活動と現代社会生活に直結するエネルギーの世界情勢、今後のあり方についてまとめあげられた良書。2012年出版だから現代から見ればいろいろ状況が変わっており、次作"The New Map"(2020年)と比較しながら読むのがおすすめ。"The New Map" の感想は別記事にまとめた。

エネルギー社会の来し方行く末〜D. Yergin “ The New Map” - コーヒータイム -Learning Optimism-

 

"The Quest"は最初からではなく、"The New Map"と比較しながら興味があるところを拾い読み。気候変動問題のところがとくに気になった。

そもそも気候変動の研究が始められたのは、温暖化ではなく、氷河期の再来を恐れたためだということをわたしは知らなかった。最初はだれも温暖化を気にしていなかったこと、それどころか「農業効率が上がる」と歓迎していたこと、温暖化効果を再評価するきっかけになったのは核実験効果分析のための海洋学研究だったこと、ノルマンディー上陸作戦を通して天気予測の重要性を痛感したアイゼンハワー大統領が後押ししたために気候を含めた地球物理学研究が進歩したこと。著者は次から次へと面白いエピソードを出してくる。
とはいえ、温暖化がほんとうに問題視され始めたのは、アル・ゴア元副大統領を含め、のちに政界入りする人々が大学の授業で温暖化について学ぶようになってからである。イギリスのサッチャー首相は、炭鉱労働者の強力な労働組合と戦うにあたり、気候変動を利用し、発電所のエネルギー源を石炭から天然ガスーー北海油田で豊富に産出されていたーーに切り替えていった。

1992年にリオデジャネイロで開催された地球サミットで、ブッシュ米大統領が国連気候変動枠組条約を締結した。1997年の京都議定書排出権取引制度が盛り込まれたあたりから、環境問題は本格的に経済対策と結びついた。一歩ずつ進んでいくさまを、著者はドラマチックに描写している。
2021年現在では、IEA (International Energy Agency、国際エネルギー機関)が2050年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を達成するための工程表を発表し、新たな化石燃料供給プロジェクトへの投資を一切禁止すること、原子力の割合を2020年の5%から2050年の11%に引上げることなど、数百もの提言をしている。各国政府や国際的大企業が(思惑はどうあれ)これまで以上に環境対策を求められることはまちがいない。1980年代以前には環境対策がいかに冷遇されてきたかを本書で読むと、たかだか数十年でここまで世の中変わるのかと、不思議な気持ちになる。