コーヒータイム -Learning Optimism-

18歳のわが子に読書をすすめるために、まずわたしが多読乱読しながらおすすめを探しています。英語書や中国語書もときどき。

小説・エッセイ

真の読者にはとどかない寓話〜ジョージ・オーウェル《動物牧場》

動物農場 (角川文庫) 作者:ジョージ・オーウェル,高畠 文夫 KADOKAWA Amazon 中篇《動物農場》 本作は《1984》の著者ジョージ・オーウェルのもうひとつの代表作。《1984》の読書感想はこちら。 身震いするほどの不快感〜ジョージ・オーウェル《1984》 - コー…

身震いするほどの不快感〜ジョージ・オーウェル《1984》

1984 (角川文庫) 作者:ジョージ・オーウェル,田内 志文 KADOKAWA Amazon この小説はどこまで想像力による創作物で、どこからが歴史上の事実をなぞらえているのだろう? たぶん世界でもっとも有名なディストピア小説である《1984》を読みつづけてしばらくたっ…

食談とその深遠なる意図〜開高健『最後の晩餐』

最後の晩餐 (文春文庫) 作者:開高 健 文藝春秋 Amazon 開高健といえば、朝日新聞社臨時特派員としてベトナム戦争を取材したときの凄絶な体験に基づくノンフィクションと小説が有名だけれど、私はそのうち読みたいと思いつつ、残念ながらまだ読んだことがない…

護ることの重み〜中山七里『護られなかった者たちへ』

……言葉もない。 読み始めれば止まらず、ほぼ徹夜で読み終えた。 私はふだんあまりミステリーを読まないのだが、これは刺さった。葉真中顕『ロスト・ケア』『絶叫』と同系統の社会派ミステリー小説。テーマは生活保護受給者たちの声なき叫び。 あらすじを簡単…

20世紀中国の「勝ち組」と「負け組」〜余華『兄弟』

書店で余華(ユイ・ホア)の代表作のひとつ『兄弟』が復刊されているのを見かけた。我が家の本棚にもかなり前に買った『兄弟』があるけれど、積読状態だったため、この機に読んでみた。 ノーベル文学賞受賞作家である莫言(モー・イエン/ばく・げん)が心理…

リアルな出来事に芸術的視点をまぶした印象派絵画のような小説〜莫言『赤い高粱』『続・赤い高粱』

莫言(ばく・げん/モー・イエン)は2012年にノーベル文学賞を受賞した中国人作家。幼少期は1500万~4000万の餓死者が出たとされる大躍進期(*1)にあたり、その後文化大革命(*2) を経験する。この経験が彼の創作の原動力となっている。ノーベル文学賞を受賞し…

新本格ミステリーにようこそ〜知念実希人『仮面病棟』『時限病棟』『硝子の塔の殺人』

コロナ禍のさなか、Twitterで積極的に情報発信したり、ワクチン接種出来るところを紹介したりと、精力的に活動している知念実希人先生を知った。小学館が出した、コロナに関する不適切な雑誌記事をきっかけに小説作品を引き上げるという、医師としての矜持、…

歴史に人々が流されるか、人々が歴史をつくるか〜トルストイ《戦争と平和》

戦争と平和(一)(新潮文庫) 作者:トルストイ 発売日: 2017/01/27 メディア: Kindle版 戦争と平和(二)(新潮文庫) 作者:トルストイ 発売日: 2017/01/27 メディア: Kindle版 戦争と平和(三) (新潮文庫) 作者:トルストイ メディア: 文庫 戦争と平和(四)…

あわただしい人間社会の時間と、もうひとつの悠久の時間〜星野道夫『旅をする木』

わたしは、日本に生まれた人々は、生涯に一度は大陸に行くべきだと考えている。 わたしはユーラシア大陸(中国)と北米大陸(カナダ)を旅した。桂林の山水画そのもののような景観の中、どれほど川下りしてもいっこうに河口は見えず、ロッキー山脈沿いに何時…

【おすすめ】民族紛争の地に送られた無知な子供たち〜プリスターフキン《コーカサスの金色の雲》

コーカサスの金色の雲 (現代のロシア文学) 作者:アナトーリイ・イグナーチエヴィチ プリスターフキン メディア: 単行本 「1980年、みずからの体験をもとに書き上げたこの作品はソ連ではタブーとされたチェチェン民族の強制移住にふれたため発表を許されなか…

負け組の逃げ先としての海外留学〜テレビドラマ原作小説『小別離』

中国でいまもっともアツいテレビドラマの原作小説『小舍得』(未邦訳)の作者、魯引弓(ルー・インゴン)が、『小舍得』を含む中国教育小説シリーズとして書いたのが『小別離』。2016年に英語タイトル"A Little Separation" でテレビドラマ化された。 『小舍…

現代中国社会の熾烈なお受験戦争+習いごと+マウンティング〜ドラマ原作小説『小舍得』

中国でいまもっともアツいドラマは、同名小説を原作とした『小舍得』(未邦訳)らしい。「舍得」という単語はかなり日本語訳しづらいのだけれど、ここでは「子どもの将来のためならば、心は痛むけれど、いまの苦労を惜しんではいられない」くらいの意味。 テ…

ナイジェリアとイギリスの価値観が出会うとき〜チアヌ・アチェべ《崩れゆく絆》

崩れゆく絆 (光文社古典新訳文庫) 作者:アチェベ 発売日: 2015/06/26 メディア: Kindle版 ノルウェー・ブック・クラブが選出した「世界最高の文学100冊」(原題:Bokkulubben World Library)の一冊。わたしにとっては初のアフリカ文学。 Library of World L…

【おすすめ】全身全霊でおすすめする半自伝小説〜G.D.ロバーツ《シャンタラム》

シャンタラム(上) (新潮文庫) 作者:グレゴリー・デイヴィッド ロバーツ 発売日: 2011/10/28 メディア: 文庫 シャンタラム(中) (新潮文庫) 作者:グレゴリー・デイヴィッド ロバーツ 発売日: 2011/10/28 メディア: 文庫 シャンタラム(下) (新潮文庫) 作者:グ…

法治社会ははるか遠くに〜張平『凶犯』

本書も米原万里さん『打ちのめされるようなすごい本』で紹介されたもの。絶賛されているので読んでみた。 小説自体はとても面白い。中村医師が『アフガニスタンの診療所から』で、アフガニスタンの内情について、古くからの部族法や慣習法に従うのがふつうで…

読者の声〜有川浩〈シアター!〉〈もう一つのシアター!〉

有川浩脚本集 もう一つのシアター! (メディアワークス文庫) 作者:有川 浩 発売日: 2011/05/25 メディア: 文庫 シアター! (メディアワークス文庫) 作者:有川 浩 発売日: 2009/12/16 メディア: 文庫 シアター!〈2〉 (メディアワークス文庫) 作者:有川 浩 発売…

【おすすめ】読まずに死ねない〜ドストエフスキー《カラマーゾフの兄弟》

なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。 ①世界の見方を根底からひっくり返す書物、 ②世界の見方の解像度をあげる書物、 ③好きだから読む書物 この本は③…と言いたいところだが、①②についても期待している。東大教師が新入生に薦める100冊では堂々一…

SF小説、謎解きミステリー、哲学的思考実験としてもすばらしい〜劉慈欣『三体』

三体 作者:劉 慈欣 発売日: 2019/07/04 メディア: Kindle版 三体Ⅱ 黒暗森林(上) 作者:劉 慈欣 発売日: 2020/06/18 メディア: Kindle版 三体Ⅱ 黒暗森林(下) 作者:劉 慈欣 発売日: 2020/06/18 メディア: Kindle版 わたしはめったにSFを読まないが、この話…

【おすすめ】アガサ・クリスティ版毒母〜《Absent in the Spring(春にして君を離れ)》

Absent in the Spring 作者:Christie, Agatha 発売日: 2017/06/15 メディア: ペーパーバック 春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) 作者:アガサ・クリスティー 発売日: 2004/04/16 メディア: 文庫 最近読んだ『毒母ですが、なにか』のイギリス…

タイトル泣かせ〜阿部智里『楽園の烏』

八咫烏シリーズの新刊が出ると知り、すぐに買おうかどうか迷ったけれど、結局買い、一気に読みきった。 本書は大人気和風ファンタジー〈八咫烏シリーズ〉の第二部第1巻。八咫烏とは人の姿形と鳥形を取ることができる〈神の御使〉。人間世界と幾つかの門で繋…

母親が与えたものと娘が欲したものが、すれ違うとき〜山口恵以子『毒母ですが、なにか』

最後の一文まで読んで思ったこと。 「『アラビアの夜の種族』『82年生まれ、キム・ジヨン』より前に読めばよかった……」 小説のプロローグは1972年8月26日。 男女の双子を産み落とした直後、主人公のりつ子がもらしたモノローグは、小説のタイトル『毒母です…

美味しいエッセイをめしあがれ〜米原万里『旅行者の朝食』

旅先でのごはんは、海外・国内問わず旅行の楽しみのひとつで、美味しいものをつづったエッセイを読むとそれだけで現地までとんで行きたくなるけれど、本書はまさにそれ。 お菓子好きのわたしとしては、本書に登場するハルヴァを食べてみたくてしかたがない。…

ひねくれ者世にはばかる、そこが好き〜フミコフミオ『 ぼくは会社員という生き方に絶望はしていない。ただ、今の職場にずっと……と考えると胃に穴があきそうになる。』

フミコフミオ氏は有名なブロガーだというけれど、私は彼のブログを読んだことがない。この本を手にとったのをきっかけに読んでみた。うーん、今年入社したとある後輩のブログとどことなく雰囲気が似通っている。後輩くんも20年後にはこういうブログを書いて…

あなたの知らない平安時代へようこそ〜山本淳子『平安人の心で「源氏物語」を読む』

私が初めて『源氏物語』にふれたのは、記憶もおぼろげなむかしのこと、おそらく小学校低学年頃。たまたま手にとった本にあった、よくわからない言葉(おそらく古文原文)につづく一節。古文にふれたのもこの時が最初だった。当時は「なにこれ呪文?日本語?…

信じていたものが根底から塗り変わる瞬間〜フラナリー・オコナー《フラナリー・オコナー全短篇(上)(下)》

フラナリー・オコナー全短篇〈上〉 (ちくま文庫) 作者:フラナリー オコナー 発売日: 2009/03/10 メディア: 文庫 フラナリー・オコナー全短篇〈下〉 (ちくま文庫) 作者:フラナリー オコナー 発売日: 2009/04/08 メディア: 文庫 尊敬するブログ「わたしの知ら…

【おすすめ】華やかに、挽歌として〜山本淳子『枕草子のたくらみ』

枕草子のたくらみ 「春はあけぼの」に秘められた思い (朝日選書) 作者:山本淳子 発売日: 2017/04/10 メディア: 単行本 私がこれで読んできた中でもっともわかりやすく、もっとも人間味にあふれ、もっとも平安時代の人々の考えに寄り添った解説書。『枕草子』…

【おすすめ】最後まで読むには勇気がいる〜トルストイ《イワン・イリイチの死》

尊敬するブログ「わたしの知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」でみつけて手に取った本。 人により猛毒「イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ」: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる イワン・イリイチの死/クロイツェル・…

【おすすめ】歴史好き必読のスペースオペラ〜田中芳樹『銀河英雄伝説』

銀河英雄伝説全15巻BOXセット (創元SF文庫) 作者:田中芳樹 発売日: 2017/10/12 メディア: 文庫 【読む前と読んだあとで変わったこと】 専制政治と民主共和制度のそれぞれのメリット、デメリットについて深く考えるきっかけとなった。 現代社会であたりまえに…

1000年前に生きた女性だけれど、現代社会にいてもまったく不思議ではない〜田辺聖子『むかし、あけぼの 小説枕草子』

田辺聖子さんの名前を知ったのは、しばらく前に源氏物語「若紫」帖の定家本がみつかったというニュースが駆け巡ったとき。Twitter上で古典愛好者が大盛りあがりをみせ、定家本発見がいかにすごいことか力説する中で、誰かが田辺聖子の名前を出し、古典入門書…

女性読者は心臓を日本刀で刺されたような衝撃を受けるだろう〜チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』

韓国社会で一大ベストセラーになったこの小説を遅ればせながら読んでみた感想。 「これ、女性読者には心臓を日本刀でぶっ刺されたような衝撃を与えそうだけど、男性読者には響くんだろうか」 ストーリーは至極単純だ。主人公キム・ジヨンは夫と1歳になる娘…