コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

歴史・現代社会

現代社会に生きる女性たちの危なっかしさをえぐり出す『依存症の女たち』

ノンフィクションライターの衿野未矢さんの著書は、何冊か読んだことがある。いずれも現代社会に生きる女性たちが抱える問題をとりあげている。文章はしっかりしていながら説教臭さがまるでなく、取材対象の女性たちへのこまやかな観察、いつわりのない関心…

快挙のうしろには地味な作業と確固たる信念がある『文春砲 スクープはいかにして生まれるのか?』

ベッキー不倫騒動をはじめとするスクープをかっとばし、「文春砲」と恐れられた週刊文春の編集長と特集班デスク担当、特派記者らによるノンフィクション。スクープが週刊文春に載るまでの苦労や、週刊文春としてふさわしい記事はなにかという信念、どのよう…

21世紀情報戦争の一部としてとらえるべき『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』

これまでフェイクニュースといえばデマや風評被害のようなもので、すぐにネットで検証されてウソがばれるから気にしなくてもよい、程度の認識しかなかった。 その認識がものすごく甘いことを、読書開始後3分でつきつけられた。 ネット世論操作は近年各国が…

光が強いほど、影も濃い『アメリカ下層教育現場』

世界一の軍事大国、イノベーションの源泉、最先端テクノロジー、アメリカン・ドリームなどなど、アメリカを形容する華やかな表現はたくさんある。 一方で貧富差が激しく、銃規制が進まずたびたび殺傷沙汰が起こり、医療保険や福祉制度の質が低いゆえに緊急入…

はい上がれないということ『東京貧困女子』

東京貧困女子。: 彼女たちはなぜ躓いたのか 作者: 中村淳彦 出版社/メーカー: 東洋経済新報社 発売日: 2019/04/05 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 貧困というキーワードにはむかしからそれなりに関心があった。けれどその時関心があったのは発…

異国にて故郷を想う『二つの祖国を持つ女性たち』

ロサンゼルス在住の著者が、出身国や職業がバラバラな移民一世の女性たちに33の全く同じインタビューをして、その結果をまとめたもの。いわゆる移民あるある苦労話の寄せ集めではなく、客観的であることに努め、女性たちの話に感情的に入りこみすぎないよう…

【おすすめ】専門技術よ、大衆のためにあれ『プロフェッショナルの未来』

プロフェッショナルの未来 AI、IoT時代に専門家が生き残る方法 作者: リチャード・サスカインド,ダニエル・サスカインド,小林啓倫 出版社/メーカー: 朝日新聞出版 発売日: 2017/09/20 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 【読む前と読んだあとで変…

あなたの可能性、日本で発揮できますか?『日本に殺されず幸せに生きる方法』

独裁国家でもあるまいし、日本に殺されるとはなんぞや? 首をかしげる一方、「保育園落ちた日本死ね」に代表されるように、少子化が叫ばれながら、特に共働き子育て家庭にとって日本社会は決して生きやすくはない。なんだか真綿で首が締められている気もする…

みずからの力で生き残れ『日本人の働き方の9割がヤバい件について』

本書の著者はめいろま(めいろま@May_Roma)の名前でツイッターのご意見番として名を馳せ、バックパッカー、国連職員、国際結婚などの豊富な海外体験をもとに「ここが変わらなければならないよ日本人」についてインターネットで発信し続けている。 わたしが…

国家に潰されるということ『A3』

A3 上 (集英社文庫) 作者: 森達也 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2014/11/07 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る A3 下 (集英社文庫) 作者: 森達也 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2012/12/14 メディア: 文庫 購入: 1人 クリック: 1回 こ…

【おすすめ】日本の未来予想図『Chavs: the Demonization of the Working Class』

Chavs: The Demonization of the Working Class 作者: Owen Jones 出版社/メーカー: Verso 発売日: 2016/04/26 メディア: ペーパーバック この商品を含むブログを見る 【読む前と読んだあとで変わったこと】 イギリスのニュース(主にBBC)、イギリスの福祉…

現代中国を理解するための良書『中国2017』

ぜひ読んでほしい一冊。 著者は中国籍の女性経済学者、ジャーナリスト。中国国内で政治的に敏感な話題に踏みこむ言論活動を貫いたため、国家安全当局による常時監視、尾行、強制家宅捜査をはじめとするさまざまな圧力を受け、二〇〇一年に中国を脱出してアメ…

庶民階級の美しさ『印象派で「近代」を読む』

「怖い絵」シリーズの著者が、絵画を軸に近代史を紹介する本。テーマがちがうため「怖い絵」シリーズのような意外性や物語性があるわけではないが、近代史の軽い読み物にはぴったり。 かつて絵画は王侯貴族のためのものであり、神話や聖書物語や教養がふんだ…

俺はまだ学ぶぞ『「絶筆」で人間を読む -画家は最後に何を描いたか-』

《怖い絵》シリーズで人気の中野京子さんは、これまで「絵は見て感じるもの」と言われてきた絵画に、時代背景、画家の思い、歴史事情などの知識を加えることで、より楽しむことができると教えてくれた。 以前、私はブログにこう書いた。だがそれだけではなか…

目に見えぬ運命を見えるものに『中野京子と読み解く運命の絵』

《怖い絵》シリーズで人気の中野京子さんは、これまで「絵は見て感じるもの」と言われてきた絵画に、時代背景、画家の思い、歴史事情などの知識を加えることで、より楽しむことができると教えてくれた。 《怖い絵》シリーズでとりあげられる絵は見た目が怖い…

ギリシアの神様はとんでもないやつばかり『知れば知るほど面白いギリシア神話』

聖書とともに西洋社会の二大精神支柱と呼ばれるギリシア神話だが、さまざまな物語が口伝で伝えられてきたため、内容にまとまりがなかったり違う物語が流通したりする。本書はギリシア神話の一般的な内容をまとめたもので、入門書としてさっと読むにはぴった…

宗教と社会との結びつき『世界は宗教で動いてる』

著者が慶應丸の内シティキャンパスで行なった講義をまとめた本書は、目からうろこの宗教知識が盛りだくさんで、西洋社会だけではなく、インド、中国、さらには日本の宗教を理解するうえでのお役立ち情報満載。 世界史知識として、西洋社会がキリスト教の上に…

司馬光《資治通鑑》巻百八十一: 隋紀五

《資治通鑑》。全294卷、約1300年にわたる中国の歴史を記録したものであり、権謀術数渦巻く宮廷権力闘争を学ぶには最適だと毛沢東も愛読していた。 あまりにも長編ゆえ、気がむいたときに少しずつ読んでいく。順不同で興味が向いたところを読んでいくつもり…

司馬光《資治通鑑》卷百七十七: 隋紀一

歴史は繰り返すといわれるように、ある国家の現在を理解し、未来を予測しようとするならば、その国家が過去歩んできた歴史をひもとくのが近道である。 アメリカとの熾烈な貿易戦争で注目を集めている中国だが、この先どうなるのか、さまざまな憶測が飛び交っ…

いまの職場から逃げたくなったときに読む『The End of Jobs: Money, Meaning and Freedom Without the 9-to-5 (English Edition)』

少し長い前置きになるが、私がインターネットを通したビジネスに本気で興味をもったのは、勤務先 (日系企業) での会議がきっかけだった。 その会議で、「重要な設計図の内容にリスクがある。プロジェクト全体に影響するかもしれない。リスク管理をどうお考え…

小難しいけれどためになる『バブル 日本迷走の原点』

この本は日本経済新聞を読み慣れていなければ難しい。 著者は40年間、経済記者として市場経済を見続けてきた人物。それゆえか著書も新聞記事風だ。書き方は簡潔明瞭、事実および事実に基づく推測に終始するけれども、たとえ話などの「同じことを別の言い方で…

【おすすめ】語ることを禁じられた時代の記憶《ワイルド・スワン》

ワイルド・スワン(上) (講談社文庫) 作者:ユン チアン 発売日: 2007/03/06 メディア: 文庫 ワイルド・スワン(中) (講談社文庫) 作者:ユン チアン 発売日: 1998/02/26 メディア: 文庫 ワイルド・スワン(下) (講談社文庫) 作者:ユン チアン 発売日: 1998/02/26…

明日からの世界を生きるために知っておこう『昨日までの世界(下)』

昨日までの世界とは、現代西欧社会とは違う伝統的社会のこと。伝統的社会と現代社会を比較して、お互いから学べることを見つけたいというのが本書の主旨で、下巻の宗教について書かれた章でもっともよく生かされている。 21世紀に起こったさまざまな出来事を…

明日からの世界を生きるために知っておこう『昨日までの世界 (上)』

寝苦しい夜に目覚めて、夜明けまでの退屈しのぎにこの本を読んでいる。 昨日までの世界とは、現代西欧社会とは違う伝統的社会のこと。人類は300万年前にチンパンジーから進化し、1万1千年前にしだいに古代文明を発展させた。現代社会の礎ができたのはつい数…

稀代の悪女、それとも?『西太后秘録』

西太后秘録 上 近代中国の創始者 (講談社+α文庫) 作者:ユン・チアン 発売日: 2018/05/18 メディア: 文庫 西太后秘録 下 近代中国の創始者 (講談社+α文庫) 作者:ユン・チアン 発売日: 2018/05/18 メディア: 文庫 【上巻】 歴史に名を残す人物の評価はたいてい…

蒙曼 《蒙曼说唐:武则天》

最近中国の人気テレビ番組《百家講壇》をよく見ている。さまざまなテーマについて専門家が一般向けにやさしく講義するもので、内容は主に歴史、文学、現代社会。画面下に字幕もついており、中国語聞取りにも歴史学習にももってこいだ。中国の歴史教育は「な…

“The Millionaire Next Door” (by Stanley Ph.D, Thomas J)

とても面白い本だが、前半ではいささか退屈するかもしれない。読みながら「贅沢せずにお金を貯めれば億単位の資産を築くことも夢ではないというごくあたりまえのことを、どうしてこうも念押ししているの?」と思ったものだ。だがそのうち気づいたーーアメリ…

楽しいプロパガンダ (辻田真佐憲著)

「プロパガンダ」という単語を見ると思わず身構える。 著者がこの本の一番最初で述べているように、プロパガンダは 「政治的な意図に基づき、相手の思考や行動に(しばしば相手の意向を尊重せずして)影響を与えようとする組織的な宣伝活動」のことだ。それ…

もうひとつの京都 (アレックス・カー著)

もうひとつの京都 作者: アレックス・カー 出版社/メーカー: 世界文化社 発売日: 2016/09/17 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 10代の頃、京都に住んでいたことがある。盆地の中にある街だから、夏は暑く冬は寒かった。通学途中で毎日のように古…

40連隊に戦闘技術の負けはない (二見龍著)

アメリカ国籍をもつ鹿児島出身の戦闘インストラクターであり、FBIへの戦闘技術訓練などアメリカで戦闘技術指導経験を積んだイチロー氏が、福岡県北九州市に駐在する陸上自衛隊第4師団第40普通科連隊に世界標準の戦闘技術を手ほどきする過程について書いた本…