コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

美女たちの西洋美術史 肖像画は語る (木村泰司著)

日本にいると、キリスト教の影響力を感じるのはクリスマスくらいだけれど、西洋美術史キリスト教抜きでは語れない。この本のテーマである肖像画もそうだ。人間は神より劣り、肉体は魂や精神よりも劣ると考えられているキリスト教において、個人の肖像は軽視されたという。14世紀ルネサンスまで、肖像画美術は長い冬の時代を強いられた。

面白いのは、肖像画で人物の向いている側が、地域や時代によって違ったことだ。イタリアでは古代ギリシャ・ローマの伝統を汲み、横顔の肖像画を主に描いた。一方北ヨーロッパでは斜め前を向いている肖像画が主だった。またカトリックでは正面像で描かれるのはキリストだけであったが、聖像崇拝を禁じるプロテスタントはあえて正面像を肖像画に取り入れた、など。

この本に登場するのは美しき王族の女性達だけでなく、公式寵姫、すなわち王の愛人であるディアーヌ・ド・ポワティエやガブリエル・デストレ、ポンパドゥール夫人なども登場する。彼女達の人生は王妃以上に波瀾万丈だ。次の王が玉座につけばお役御免、領地に下がって余生を送るか、運が悪ければ目の敵にされて暗殺される。けれども肖像画の中の彼女達は、そんな運命をみじんも感じさせない、匂い立つような美しさをとどめていて、それがなんとも言えずもの哀しい。