コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

限界集落株式会社 (黒野伸一著)

新しい試み。難しい実用書を読むときに、内容に関わりがある小説を一緒に読むとうまく頭に入るかもしれないと思いついたので、コーポレートファイナンスの本と一緒にこの「限界集落株式会社」を読んでみた。

やってみると結構いい。実用書を読みつづけると疲れてきて内容が頭に入らなくなるが、小説を少し読むと気分転換になるし、小説の中の展開が、ファイナンスの視点から見るとどういう意味があるのか考えてみることで、今読んだばかりの知識を使う練習にもなる。

この小説自体は地域活性エンターテイメントだ。起業のためにIT企業を辞職した主人公の多岐川優が、のんびりしたいと思い、BMWに乗って、亡くなった祖父の家があるど田舎の小さな集落に立ち寄るところから物語は始まる。最初は本当に立ち寄るだけのつもりだったのが、人口3桁を割り、行政からも見捨てられつつある集落を存続させ、発展させていくために、優は力を注ぐことになる。六本木で億ションを所有するほど稼いでいた優が、バスさえ通っていない寒村で地元発展のための事業を起こす。当然価値観がまったく違うのでぶつかりあいの繰り返しだが、しだいに村人たちも優を受け入れるようになる。

優がやったことには適材適所、効率化、宣伝、マーケティングと、経営の教科書に載りそうなことがふんだんに詰めこまれ、しかも現実にも応用できそうなことばかりだ。例えば産地直送を売りにして採れたて野菜をレストランに売りこんだり、ゆるキャラをデザインして集落の日常をつづりネット上で人気を集めたりと、なるほどこういう手があるか!  と発見していくのがとても面白い。文庫本一冊分だけではもったいないと思う。個人的には麓の町の内情ももっと書いてほしかった。