コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

成田屋の食卓 團十郎が食べてきたもの (堀越希実子著)

この本の初版は2016年10月30日。

校了だ印刷だといろいろあるだろうから、きっとこの日付よりずっと前に希実子さんの原稿が上がっていたはず。それはいつだろう。

「実はこの本を書いたのは、麻央ちゃんに読んでほしかったから」

終わりの方に、ちょっと恥ずかしげに書かれた言葉。

希実子さんがこの言葉を書き留めたとき、麻央さんはもう自分の身体の異変に気づいていただろうか?

 

歌舞伎役者十二代目市川團十郎の奥方として、梨園の妻として、数十年にわたり主人を支え続け、子育てからご贔屓の挨拶回りまでをこなし続けてきた堀越希実子さん。

本の表紙で微笑む上品な老婦人が、主人はこういうものを喜んで食べていましたの、時には手ずから好物をふるまってくれることもありましたのよ、と、ちょっぴり自慢げに、懐かしむように、おばあちゃんが子供や孫に教え聞かせるように語る。ちょっぴり自慢げなのは、希実子さんが試行錯誤しながら工夫を凝らしていた手料理を、夫や子供たちが美味しいと食べていたから。懐かしむのは、夫である市川團十郎さんが三年前に闘病の末世を去ったから。

教え聞かせるようなのは、やがて十三代目市川團十郎を襲名するであろう市川海老蔵の妻となった小林麻央さんに、美味しいものを引き継いで、自分なりの一工夫を加えて、また次代に引き継いでほしかったから…。