コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

FinTechの衝撃 金融機関はなにをすべきか (城田真琴著)

 

FinTechの衝撃

FinTechの衝撃

 

 

「銀行の機能は必要だが、銀行は必要か?」(マイクロソフト創設者 ビル・ゲイツ)

「グーグル、フェイスブックが今後のわれわれの競争相手になる」(JPモルガン・チェースCEO ジェイミー・ダイモン)

FinTech(フィンテック)とは金融機関に押し寄せるデジタル化、テクノロジー化の波である。

フィンテック企業は、金融機関が使うシステムをつくる、いわば金融機関の下請け企業ではない。自らがインターネット上で決済・送金・融資サービスを提供し、金融機関のライバルとなる企業だ。グーグル、フェイスブック、アマゾンはすでにこうしたサービスに乗り出しているし、多くのスタートアップ企業も生まれている。金融機関は強固な参入規制に守られてきたからこれまで革新的なテクノロジーに破壊されなかったが、これからはそれも徐々に崩れていくだろうと著者は見ている。

金融機関の機能をテクノロジーで代替する企業について、著者はていねいに紹介している。それらは大きく二つに分けることができる。人工知能などの先端技術を駆使したサービスと、「マッチング」によるサービスだ。前者には人工知能ビッグデータを利用した短期間、低コストの投資審査や与信判断があり、後者には個人投資家と資金調達者のオンラインマッチングがある。

フィンテックの中でも著者がもっとも注目しているのは、ブロックチェーンだ。ビットコインの基礎となったこの技術は、中央集権的な金融機関ではなく、インターネット上の分散型台帳の仕組みで、送金の信頼性を保証するという発想が秀逸だ。このため莫大なコストがかかる中央集権システムが必要なくなり、コスト削減に絶大な効果がある。

分散型台帳は「参加者にある問題を提示し、最初に解けた人に台帳更新権限を与える」という仕組みになっている。解けるためにはコンピュータ演算が不可欠で、解けた人は報酬としてビットコインを受け取れる。問題の難易度は10分程度で解けるように調整されていて、ある一人がずっと台帳更新権限を維持することはできないようになっている。

……これを設計するのに必要な数学的理論力はどれほどだろう。ブロックチェーンはSatoshi Nakamotoなる正体不明の人物の論文を基礎としているが、人間の頭脳から生み出せるものには感嘆するしかない。

 

ここまで書いて、ふと「ソードアートオンラインに似てる?」と感じた。

ライトノベルソードアートオンライン」シリーズは、機械から直接脳に電気信号を送ることで五感のすべてをバーチャルリアリティで体験出来る世界での物語だ。この技術は天才的プログラマーで量子物理学者である茅場晶彦によるもので、バーチャルリアリティ技術のほぼすべてが彼の理論によって組み立てられている。

茅場晶彦が設計した「ナーヴギア」を用いて、主人公を含む10000人のプレイヤーがゲーム「ソードアート・オンライン(SAO)」にログインした。だが彼らはやがてログアウトできないことに気づく。戸惑うプレイヤーたちに茅場晶彦は伝える。このゲームから自発的にログアウトするのは不可能で、ログアウト手段はゲームクリアのみと。そして、ゲーム中での死、すなわちゲームオーバーは、現実世界でのプレイヤーの死亡を意味すると。

「この世界を創り出し、観賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた」

デスゲームを宣言した茅場晶彦はそう語る。彼の設計が意味するものに誰も気づけなかった。気づけないまま、ゲームに囚われた。

 

こんな突拍子もないことを連想すると、ブロックチェーンの発明そのものが陰謀論のようだが、そうではないだろう。実際、最初の理論はSatoshi Nakamotoが提唱したが、その後の技術はさまざまな企業により進歩を続け、いまや「Satoshi Nakamoto氏であってもビットコインを支配できない」という。

この荒唐無稽な連想は、理解できないものに感じる、ある種の警戒と恐怖のせいだ。たとえそれがどれほど便利に見えても。