すぐれた戦争論の書。著者は喝破する。世界の覇権構造の「現状維持」と「現状打破」のいずれを容認するのかがルールの根本なのだと。
戦争の基本的な原因は、価値観の相違が生む『怨念』と、軍事力の空白や不均衡に乗じて自己保存と繁栄を追い求める『欲望』である。
これを世界情勢に置き換えれば、さしずめ今の北朝鮮の脅威が「(金正恩政権の)現状維持」で、湾岸諸国とカタールとの国交断絶が「(カタールが湾岸諸国と足並みをそろえない)現状打破」にあたるだろう。
著者は名将の思考過程に必要な四つの要件を、次のとおりとする。
⒈状況の特質の把握
⒉全感覚の活用
⒊連想的・直覚的決定
⒋合理的説明の創造
とくに重要なのは⒈で、作戦環境の特性を体験と戦史などの追体験などの修練に基づいて把握し、戦いの様相を直覚的に想像する。この作戦環境の特性には、地形、気象条件などはもちろん、そこに暮らす人々の特性までも含まれる。敵か、味方か、無関心か。思考は海洋性向なのか大陸性向なのか。将来に立ち向かうために、いま何をすべきなのか。
見方・考え方のもっとも影響力の大きな要素は判断者の経験のもととなった「環境」である、というのが著者の主張である。とくに海洋性向なのか大陸性向なのかがもっとも大きいという。これは地政学的に学ぶべきであって、海洋性向であれば制海権を握ることを重視するし、大陸性向であれば支配地域拡大や支配体制維持を重視するように、作戦の立て方がまったく異なる。
戦争学を説く本は日本には少ない。だが戦争の考え方からは、国際社会の動きを読み取るすぐれた知識を学べると、教えてくれる一冊だ。