コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

最も伝わる言葉を選び抜く コピーライターの思考法 (中村禎著)

 

 

この本は、35年にも及ぶコピーライター経験をもつ著者が、これから広告コピーを学ぶ人へ向けて心構えとヒントを贈るために書いた。広告コピーを書く作業には、言葉を「出す」ことと「選ぶ」ことの二つの仕事がある。著者がこの本にこめているのはいいコピーを「選ぶ」ための考え方や悩み方だ。

いいコピーはクライアントの言いたいことをそのまま表現したものではない。それは独りよがりにすぎないから。いいコピーは言いたいことを「思ってもらう」、人を動かすための言葉だ。それを「選ぶ」ためにはさまざまな講座から判断基準を吸収するのもいいが、いいコピーにたくさんふれることで、自分の中に判断基準をつくるのがとても大切だと著者はいう。

これはコピーライターだけではなく、学ぶことすべてにあてはまる。ワインでも宝石でも、ランニングでも登山でも、ある程度以上のものや経験にたくさんふれることで、しだいに「いつものアレよりいい/悪い」と感じるようになる。自分の中に判断軸ができる。目盛りができる。そうなれば軸や目盛りを磨くことでますます力を伸ばせる。

また、素晴らしいコピーに出会ったら、そのコピーがどのようにして生まれたのかを想像してみるのも著者のおすすめだ。JRのコピーだったら、ある駅で、行き来する乗客、子供を連れた母親、孫を見送るおじいちゃんおばあちゃん、旅立つ友達を見送る若者、そういう人々を見ることで思いついたコピーかもしれない。実際に出かけてその空気にふれる。コピーライターは、この場所のどこに心惹かれてコピーを思いついたのか想像する。それがコピーになることで、大勢の人が自分のように「気づかなかったけど、そうだよね」と思ったのなら、それに気づいたことで、ひとつ学んだことになる。

ちなみに私が今まで一番ガツンときたコピーは、確か岩手日報だったと思うが、今年の3月11日に目にした。

「明日が来るのは、当たり前ではない。」

これを目にした時、一瞬息が止まった。それから、家族や友人に、いつもよりもちょっと、優しい気持ちになった。

 

想像してみた。

もし私がタクシーのコピーを書くとしたらどんなものになるだろう?

まずは本文中にもとりあげられていたように「タクシー」を白紙の真ん中に書いてそこから連想出来る言葉をどんどん書き留めていく。知らない街で公共交通機関があまり発達していないところ、深夜で終電がなくなったとき、大荷物を抱えているとき、怪我でひとりで病院に行けないとき、目的地の玄関先までぴったり着いてくれるタクシーがあれば安心だ。タクシー運転手が目的地に迷っていたらとても不安だ。なんならわかりにくい入口や駐車場に慣れた様子であっさり入っていくと最高だ。私にとってタクシーを使いたくなるのはドアツードアで着いてほしいときだ。だからたとえば「あなたの街に、あなたより詳しく。〇〇タクシー」なんて面白そうだと思う。