上巻に続き、物語はどんどん薄暗い方に流れていく。山本弥生の夫健司を殺した容疑者として逮捕され、証拠不十分で釈放された佐竹が、暗い情熱をもって健司殺しの真犯人を探し始める。
山本弥生。ギャンブル狂で家庭内暴力をふるう夫がいなくなってから解放されたように化粧しはじめ、近隣住民にひそひそされる。夫健司の保険金5000万円で第二の人生を夢見るも、佐竹に追い詰められて金をすべて失う。
城之内邦子。借金で首が回らなくなり、弥生を脅迫して金を引き出そうとするも思い通りにいかず、業を煮やして街金担当者・十文字彬に自分達が健司の死体をバラバラにしたとぶちまけたあげく、悲惨な末路をたどる。
吾妻ヨシエ。ようやく金を手に入れながらも娘和恵にすべて盗まれてとほうにくれ、どんなことをしてでも金を手に入れると雅子の「仕事」に手を貸す。最後になって、彼女は幾ばくかの救いを手にできたのかもしれない。
そして香取雅子。彼女は十文字彬が持ってきた死体解体の「仕事」に乗った。家庭内崩壊が進んでおり、夫良樹は雅子がいなくなってもきっと探さないと口にする。薄暗い状況の中で、雅子だけは、死体解体の「仕事」を引き受けると決めることで、自分からより深い闇の中に足を踏み入れていった。
最も深い闇は夜明け直前に生じるという。雅子が踏み入れた闇のその先にあるのは、果たして雅子が望んだ通りの自由だったのだろうか。物語はそれがわかる前に終わる。
読み進めて絶望感を感じるのは、ここまでしなければこの物語の女性たちは息苦しい薄闇から逃れることができなかったのだろうか、ということを考えずにはいられないからだ。夫やパートナー、親や子どもなどの問題にがんじがらめになりながら、閉鎖的な深夜の弁当工場で働いてわずかなお金を手にすることしかできない。お金があれば彼女たちが抱える問題はかなりの部分解決できるのに、女性というだけで、まっとうな手段でお金を得る手段がごく限られている。あまりにも自然にそう設定されているそこに!悲劇の根源がある気がしてならない。