- 作者: クリス・アンダーソン,小林弘人,高橋則明
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2009/11/21
- メディア: ハードカバー
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本を毎日読むようになって、自分自身の好みがはっきりしつつある。私はどうやら三種類の本が好きらしい。
① まったく知らなかった世界を目の前に広げてくれる本。地政学がまさにそれだ。
② 自分自身ではなんとなく感じていたけれど言葉にできなかったことを、明快に解釈してくれる本。
③ある方法を実践するにあたってぶつかる壁(それは必ずある)とそれをどう乗り越えていったかについて書かれた本。
この本は①②を兼ねている。だからとても面白い。
今日、市場に参入するもっとも破壊的な方法は、既存のビジネスモデルの経済的意味を消滅させることだ。つまり、既存ビジネスが収益源としている商品をタダにするのだ。すると、その市場の顧客はいっせいにその新規参入者のところへ押しかけるので、そこで別のモノを売りつければいい。
強烈な主張を展開していながら、なるほど確かにとうなずきながら読み進めずにはいられない。このデジタル時代、料金を取らないことで大金を稼いでいる人びとがいる。誰でもすぐに面白いコンテンツを公開して広告費用で荒稼ぎしている有名ユーチューバーやブロガーを思い浮かべるだろう。経済学者はそれを「内部相互補助」(他の収益でカバーすること)と呼ぶ。
著者はフリーを四種類に分ける。
① 直接的内部補助。無料商品で消費者の気をひき、ほかのものを買ってみようという気にさせる。格安エアラインのビジネスモデルもこれに近い。飛行機のチケット料金を低く抑え、その他のサービスを有料にする。
② 三者間市場。いわゆるユーチューバー。メディアが消費者にコンテンツを無料提供し、そこに広告を入れるために広告会社がお金を払う。
③ フリーミアム。いわゆるゲーム課金だ。基本版無料、プレミアム版有料とすることで、一部のヘビーユーザーの収益でほかのユーザーを支える。
④ 非貨幣市場。これにはいくつもの形がある。コンテンツを無料提供することにより、評判、関心、名声、尊敬等を集めることができる。それがやがてビジネスチャンスを生み出す。有名ブロガーが本を出版したり講演会をもったりするのもこれだ。
面白いのは、無料と(たとえ1円でも)低料金の間には大きな心理的隔たりがあること。無料であれば人びとは気軽に手を出すが、わずかでも課金すればたちまちそれが料金に見合っているのか考え始め、結局面倒になって無料に走るという。
さらに、無料であれば人びとはそれに手を出したついでにさまざまな利用法を自分で見つけてきてくれる。インターネット黎明期にはブログもSNSも動画投稿サイトも、もっといえば個人が情報発信する手段はなにもなかったのだ。だが今や大手メディアが事件第一報をツイッターにあげた人物にメッセージを送り、投稿内容を使ってもいいか聞く時代である。
フリーサービスとして私はKindle Unlimitedを愛用している。より正確には、最初は一カ月無料体験だけのつもりだったが、今は月々料金を支払って利用している。
理由は紙より持ち歩きやすいこと、賛否両論あるとはいえそれなりの良書があること、無料だから普段読まないようなジャンルでも試してみようと思えること、書店や図書館に行けない状況でも新しい本にアクセスできること、と、ざっと並べただけでもこれだけある。この本もkindle unlimitedで読んだ。
しかし、Amazonにとって利益に結びつくのは、月々支払う利用料金だけではなく、電子書籍が選択肢に入ったことそのものだろう。以前は本を買うのは書店と決まっていた。しかし今は、ウェブ書評で興味をもちすぐにでも読みたくなった本を、たまに電子書籍で購入することがある。たとえ数ヶ月に一度程度でも、そもそも電子書籍が選択肢にもあがらないよりはるかにいいに違いない。すべてのきっかけはkindle unlimited、つまり無料だ。