コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

私、社長ではなくなりました。ワイキューブでの7435日 (安田佳生著)

 

私、社長ではなくなりました。 ― ワイキューブとの7435日

私、社長ではなくなりました。 ― ワイキューブとの7435日

 

 

2011年3月10日、東日本大震災前日に、ワイキューブ民事再生を申請した。中小企業の新卒採用コンサルティング及び企業ブランディングを業務内容とする会社で、負債総額は四十二億円だった。本書は、ワイキューブ社長の安田佳生が自身の社長として歩んできた道を振り返ったものだ。

安田氏は子供のころから他人の価値観にあわせることに意味を見出せず、満員電車に乗らなくてすむように社長になりたかったというような人物だ。この本の中で安田氏はこう述べている。

誰かが勝手に決めた常識や既成概念から自由になりたい。思い切りラクに生きたい。そのために必死にもがいてきた。それが、これまでの私の人生だったのだ。 

ただ安田氏の凄いところはやりたくないことをただ避けるのではなく、やらずに済むような仕組みをつくることを真剣に考えたことである。例えば安田氏は営業電話が大の苦手でやりたくないのだが……。

自分がやりたくないことを社員にやらせて、自分はそれを見ているだけというのは居心地が悪かった。そこで社員が営業電話をかけなくてもいいように、顧客から問い合わせがやってくるような仕組みをつくった。

ということをやってのけている。ここが安田氏の一番凄いことだと思う。

 

 

(2019/06/01 追記)

最初にこの本を読んだ時は、はっきり言って、それほど感銘を受けたわけではなかった。

なぜわたしがこの本を読み返したかというと、「会社倒産」がどういうときに起こるかを知りたいと思ったときに、たまたまこの本を思い出したからだ。

最初に読んだとき、わたしは、なぜ著者が起業したのか、どうやって会社を大きくしていったのかに興味があった。だが今回は、どういうときに会社を潰さなければならないのかという、真逆の視点から読んだ。当然感想もちがう。

 

本書に書いていることによると、まず業績が傾いていったのが始まりだったという。財務担当役員が退職したのをきっかけに、社長である著者自らが会計を確認したところ、会計処理に無理があり、黒字決算だと言っていたのが、実は赤字決算だとわかった(これは粉飾ではないか?)。

こうなると銀行の態度は一変する。貸付金を一括返済してほしいといわれ、著者はその対策に右往左往した。そこにリーマンショックが被さり、会社売上が激減。金利分も返済できなくなり、にっちもさっちも行かなくなった。

ただ、著者が会社倒産を決めたのは、金策がうまくいかなくなったからではなく、「ついていかざるをえない従業員がかわいそうだ」と言われたからだという。(会社は不渡りを出すなどすれば強制的に倒産となるはずだが、ワイキューブの場合は、就職用教材という形にしにくいものを売っていたため、「不渡り」ということはなく、従業員給与や銀行借入金を払っていれば存続できたということか?  だとすればそれは会社制度の欠陥では?)

 

もう一度読んで、この著者はそもそも「経営」というものととことん相性が悪かったのではないかと思うようになった。なぜなら著者は、利益を残すことに興味がないからだ。ここ最近の内部留保を手厚くする大企業とはまるで反対である。

そもそも私は利益を残すことに興味がなかった。どういう商品をつくり、どうやって集客するかというところは必死で考えたが、どうやって利益を出すかについてはほとんど考えたことがなかったのだ。むしろ、売上が伸びれば利益はおのずとついてくるものだと思っていた。

そうであればこそ、財務担当役員は運転資金を確保しようと無理な借入れを重ねたのかもしれない。著者は「利益をあげて会社を存続させる」ことをあまりにも考えなかった。

これが著者の会社が破綻した根本原因ならば、単純に、著者は会社経営に向かず、それをサポートする立場の人間でもフォローできなくなったときに、会社は存続できなくなった、ということになろう。