藤原竜也、伊藤英明W主演で映画化されたことで、この小説のことを知った。
1995年1月14日から始まる5件の東京連続絞殺事件は、被害者の家族を拘束したうえで目撃者とする残酷極まりないものだった。4月27日の事件を最後に、犯人逮捕が果たされないまま時効を迎える。それからさらに7年後、三流暴露本を主に出版する帝談出版社に勤める川北未南子の前に、信じられぬほどに美しい容姿と上品な物腰の曾根崎雅人が現れてこう告げた。
「私が殺人犯です」
曾根崎が未南子に渡したのは手記の原稿。素晴らしい文章で、殺人犯本人しか知り得ぬ細部にわたる事件描写がなされていた。
手記本はたちまちセンセーショナルな話題となり、曾根崎本人の容貌の美しさもあいまってカルト的人気を集めた。だが一方で被害者遺族は塗炭の苦しみを味わうことになる。捜査段階で先輩刑事が自分の身代わりとなって殉職した記憶を抱える刑事・牧村航もその一人だった。
「すべての国民が、この男に狂わされる。」
映画のキャッチフレーズがこれほど身に迫る小説も珍しい。
惜しいのは後半あまりにも展開が乱高下して、ラストにたどり着く前に振り回されることにいささか疲れてしまったこと、劇場型犯罪は宮部みゆき『模倣犯』を連想させ、展開がある程度読めてしまうことか。