コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

いわゆる「当たり前の幸せ」を愚直に追い求めてしまうと、30歳サラリーマンは、年収1000万円でも破産します (小屋洋一著)

この本のメッセージは明快だ。

「今現在、みんなお金を使いすぎていますよ。 『自分は普通に暮らしている』と思っているあなたこそ、生活を改めないと、破産してしまいますよ」

著者がいう「普通の暮らし」とは、結婚して、子供を作り、家を買って、保険にも入ることだ。まさに親世代から、まわりの話から、テレビドラマや雑誌特集などから、結婚適齢期の人々が幸せの理想形として刷りこまれてきたことだ。

著者はさまざまな政府統計を参照しながら、この時代、これらがいかに贅沢で時代に合わないかを説明する。

まず資産形成。よく「家を買うか賃貸に住むか」が比較されるが、著者によればこれは金額だけで比較すべきことではない。家を買うことが「投資行動」であるのに対し、賃貸に住み続けることは「消費行動」であり、両者はまったく違った性質のお金の使い方だからだ。

日本人が保有している金融資産のかなり大きな部分が、実は不動産評価額だ。マイホームとして購入した不動産が値上がりしたので、親世代はある程度の資産を築くことができた。だが高齢化、人口減、住宅供給過剰、経済停滞が進むこの時代に、過去のような不動産値上がりはもはやありえない。なにも考えずに不動産購入しても、利回りが高いとは限らず、慎重に投資判断して購入しなければならない。

次に専業主婦。専業主婦を夢見る女性はまだまだ多いが、著者に言わせれば専業主婦は究極の贅沢だ。数千万円から数億円にのぼる女性側の生涯賃金を放棄し、その分つましい生活を選ぶことにほかならないからだ。子供に教育費をかけようとすればさらに家計が圧迫される。

著者はなにも不安をあおりたてているわけではない。著者が言いたいのは、「そういうことすべてを理解したうえで不動産購入/専業主婦選択/子供教育/保険加入を決めていますか?  なにも考えずにそうしても家計が破綻しない、経済が右肩上がりだった幸せな時代はもうとうに過去のもので、これからそうしたいのなら、よほどうまくライフプランをたてないと、家計破綻のリスクがありますよ」だ。それがこの時代の現実だ、と。

しかし、刷りこまれてこの幸せの理想形を追求する人がまだまだ多いのは事実だ。とても仕事ができる女友達が、「結婚したら家庭に入る、お母さんが専業主婦で私は幸せな家庭で育ったから」と主張するのを聞く。彼ら彼女らは、幸せな家庭で育ち、自分も親世代と同じようにすれば幸せになれると、素直に信じている。お金やライフプランの問題ではないのだ。それがとても難しい。