新訳 ハイパワー・マーケティング あなたのビジネスを加速させる「力」の見つけ方
- 作者: ジェイ・エイブラハム,小山竜央
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2017/10/27
- メディア: 単行本
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尊敬するブロガー、トイアンナさまが絶賛していたため購入してみた。トイアンナさまのブログは以下からどうぞ↓(本の紹介はブログではなくトイアンナ (@10anj10) | Twitterです)
ゆっくり味わいながら読むつもりだったのに、気がつけばさくさく読みすすめてしまう。内容が水の流れのようにするりするりと頭の中に入ってくるような不思議な感じ。
私の読書方法は、まず一回目に最後まで流し読みして「ここは覚えておきたいな」という内容をつかむ。二回目は「ここは覚えておきたいな」と思ったところだけをつまみ読みして、ブログに読書感想を書く。三回目以降に読むときに、本の内容を参考にしてどのように自分の思考・行動を変えることができるか、本格的に考え始める。
一回目の流し読みでしばしばあることだが、「今読んだ内容にはちょっと賛成できないな」と思ったらいったん読むのをやめてどうして賛成できないのか考える。あまりにも頻繁に立ち止まるようだったら、本を最後まで読むべきかどうか考えどころだ。たいていの本は、読み終わるまでに何度も立ち止まるのだが、この本ではそれがほとんどない。つまり書いてあることがとてもわかりやすく、納得できるということだ。
この本の内容はとても示唆に富んでいるが、もしひとつだけメッセージを書き出せと言われたら、「あなたにしか提供できないものがあり、それがあればクライアントが今より幸福になれるということを、クライアントに知ってもらいなさい」ということだと思う。
考え抜くべきは、自分が提供できるものの強みと弱み、それと、クライアントが真に望むものはなにか。たとえばクライアントがカメラを買う時にはただ写真が撮りたいわけではなく、「産まれたばかりの子どもの思い出を写真に残したい」という望みをかなえるためかもしれない。そのことに気付けば、たとえば「赤ちゃんが成長する速度は目を瞠るほどに速いものです。昨日できなかったことを、今日はできるようになっていた、ということがたくさんあるでしょう。つまり、たくさん写真を撮る機会があるかと思います。しかし、もし、メモリーがいっぱいになったせいで写真を保存できないようなことがあれば、残念でたまらないでしょう。この大容量メモリーカードも一緒にご購入いただければ、そのような心配をせずにすみますよ」というセールストークができるだろう。
少し脇道にそれるが、この本を読みながら、アーサー王物語「The Wedding of Sir Gawain and Dame Ragnelle - 円卓の騎士ガウェイン卿とラグネルの結婚」を思い出した。「ある対象の欲しいものをあててみよ」という問いかけに、これほど見事に応えた物語はない。
アーサー王が邪悪なる騎士に打ち倒され、邪悪なる騎士は一年以内にある質問の答えを見つけることができなければ王国を差し出せと条件を出した。その質問とは”to discover what women desire the most - 女性がもっとも欲するものはなにか見つけること”。アーサー王は数多くの女性にこの質問をしたが、美貌、お金、若さ、子供、とみな答えがバラバラであった。
期限が近づいてきたころ、アーサー王は醜い老婆ラグネルから取引を持ちかけられる。自分は答えを知っている、ガウェイン卿と結婚させてくれれば教えよう、と。ガウェイン卿は承知し、ラグネルは答えを口にした。
“女性が渇望するのはsovereyntéだ”
この言葉の直訳は「主権」。アーサー王物語の翻訳はさまざまあるが、私は「自らの運命を司ること」という訳が好きだ。女性に財産権を含めたあらゆる権利が認められず、家柄がつりあう家の息子と結婚することが義務付けられ、父親や夫に庇護されることでのみ生きることができた時代。女性が自分の運命の主人となることは、天の星に手を届かせることに等しかった。
アーサー王の質問に答えた女性達は自らの主人たることを望んでいなかったわけではない。気づかなかったり、言葉にできなかったりしたのだ。ラグネルは彼女達が自分自身でさえ気づかなかったことを言語化してみせた。それが” sovereynté “だ。言われた瞬間、これこそ欲しかったものだと確信できる。それと同時に、欲しくて欲しくてたまらなくなる。アーサー王物語と同じように、セールスパーソンがすべきことはクライアントの望みを見つけ出すこと。そして、それが欲しくてたまらないと言うクライアントの望みをかなえることだ。
アーサー王物語はここでは終わらない。
婚礼の夜。醜い老婆であるはずのラグネルは絶世の美女に変化した。驚くガウェインにラグネルは問う。自分は呪いを受けており、一日の半分を美女の姿、もう半分を老婆の姿ですごすが、昼と夜、どちらで美しい姿を見せてほしいかと。ガウェインは最終的にこう答えた。
「おまえの好きにするがよい」
この言葉によってラグネルにかけられた呪いが解け、ラグネルは昼も夜も美しい姿のままでいることができるようになった。
ガウェインはラグネルの真の望みをかなえることで絶世の美女を妻とした。14-15世紀の騎士道物語としては最高のご褒美といえる。同じように、クライアントが心底望むこと(しばしばクライアント自身気づいていない)をかなえることで、クライアントの信頼とともに、信じられないほどの成功を得ることができる。この本はそのことを教えてくれる。