コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

『ITの正体 なぜスマホが売れると、クルマが売れなくなるのか?』(湧川隆次/校條浩 著)

 

デジタルやITの特徴、シリコンバレーという場所の特徴的な文化、今後キャリアを築くにあたってもつべき考え方を、分かりやすく書いた良本。この本自体、株式会社インプレスR&Dが開発した、NextPublishingという電子書籍と印刷書籍を同時発行できるデジタルファースト型の新出版方式を利用している。

私は少し前まで紙書籍しか利用していなかったが、海外でしばらく仕事することになり、Kindleに切りかえた。Kindle専用リーダーを使っていたときは、紙書籍が手に入るまでの辛抱だと考えていたが、スマホKindleアプリを使うようになってから、スマホが手元にある限り、いつでもどこでもわずかな時間で本を読みすすめられるというあまりの便利さにとりことなった。今では紙書籍のほうが持ち運びに不便でおっくうだと思うほどだ。

これがデジタル化の強力な側面だと思う。専用機を必要とせず、ときには鈍器並みに重い本を持ち運ぶ必要がなく、スマホさえあればあっというまにアクセスでき、コンテンツを楽しむことができる。紙をめくることこそが読書の醍醐味という人は、これからも紙書籍を愛用し続けるのだろうが、私のようなさほどこだわりがない人は電子書籍中心になるだろう。しかもAmazonではしょっちゅう電子書籍のセールをやっており、紙書籍よりずっと安く手に入れられる。万が一スマホが破損しても、データはクラウド上にあり、新しい端末から元通り利用できるのも魅力的だ。紙書籍を水たまりに落としたらこうはいかない。いいことづくめだ。

 

こうした世の中の流れを著者らは、デジタルとはなにか、IT産業の特徴とはなにか、分かりやすくまとめている。それはデジタル産業だけではなく、アナログ産業にも広く行き渡っている。

例えばコモディティ化コモディティとは「どれでも同じ」こと。「製品の違いが普通の人には気にならないレベルにまで縮まった時」に一気に起きて、価格競争に引きずりこむ。代表的なのは家電製品だろう。「日本製品は性能がすばらしく機能も多いが、今の家電製品の主な市場は東南アジアなどの発展途上国だ。彼らは多少性能や機能が見劣っても気にせず、安い製品を選ぶ。だから韓国製品の方がよく売れる」という意見が、すでに何年も前から出てきていた。今、まさにその通りのことが起こっている。韓国製品が市場シェアを握り、逆に日本企業は家電部門をまるごと売却するところも出てきた。

この本では、IT時代を生きる4つのノウハウをまとめている。

1. 多様性 (Diversity)。ユーザーエクスペリエンス (UX) に代表される、個人の嗜好に合うようにカスタマイズされて成長できる製品。

2. 更新性 (Upgradability)。今やソフトウェアアップデートはオンラインが基本で、CD-ROMからわざわざ読みこむことを面倒だと感じる時代である。パソコンからフロッピーディスクが消えて久しいが、CD-ROM読みこみ機能もどんどん外付けハードウェアに切りかえられている。

3. 安い (Cost Effectiveness)。サービスを無料にしてほかで稼ぐ仕組みをいくらでも付加できる。ただしユーザーは無料サービスに慣れすぎているため、稼ぐ(=課金する)仕組みを慎重に設計しなければならない。シリコンバレーでは技術面と並んで、それを使ってどうやってビジネスするのかという面が重視される。

4. (Connectivity)。ITの真骨頂。SNSはもはや説明不要だ。今後は端末間、サービス間の「つながり」がますます重要になるだろう。

 

ところで、新しい仕組みを作ろうとすれば、必然的に古い仕組みとぶつかりあう。私がブログを書いている今この時、最も注目を浴びているのは、おそらく仮想通貨ビットコインと既存通貨とのぶつかりあいだろう。

こうしたぶつかりあいについて、この本で喝破した一文を引用する。

ITの普及によって世の中で起こっていることの根底にあるものは、アナログとデジタルの特徴の違いです。我々の生活の根底をなす仕組みの多くが、アナログの時代に制定されたものです。アナログ技術だって、電気の無い時代の仕組みを壊してきたはずです。古いルールや慣習をそのまま押し付けると、デジタルの良い部分がどんどんスポイルされてしまい、使いにくい部分だけが残りがちです。