コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

『TED 驚異のプレゼン 人を惹きつけ、心を動かす9つの法則』(カーマイン・ガロ著)を読んだ

本の紹介に入る前に、少しだけ自分の話を。

なぜ私はたくさん本を読もうと思ったのだろう?  そう自分に問いかけてみたところ、とても古い記憶が浮かんできた。幼稚園の私が同じ組のお友達の真ん中に座り、本を読み聞かせている光景だ。

教育熱心な母親のおかげで当時私はすでにある程度字が読めるようになっていた。それで幼稚園の先生は疲れているときに、私に本の読み聞かせをまかせれば、自分は少し休憩出来ることに気がついた。私の読み聞かせは決して上手ではなかったし、読めない字もたくさんあったが、お友達は聞いてくれたし、なにより自分が先生と同じことができるのが誇らしくてたまらなかった。今に至るまで、私が本をよく読むのは、かつての誇らしさが古い記憶として残っているためかもしれない。

けれど、大人になった今、読み聞かせをすることなどめったにないから、少しコミュニケーションのやり方を変える必要がある。かつては一方的な読み聞かせだったが、今は元になった参考図書は相手が自分で読める。それよりも本やさまざまな情報源から得られた【気づき】をもとに、自分自身のアイデアをまとめ、他人に伝える必要がある。なによりフィードバックを受けることが大切だ。そのための能力を身につけるべく、手探りしている。

 

Technology, Education, Design (TED) をご存知だろうか。世界一流の人々、あふれんばかりの情熱をもって仕事に取りくみ、魅力的で、信じられないくらいの成功を収めた人々によるプレゼンテーションを提供するカンファレンスだ。毎年カリフォルニアのロングビーチで開催され、【広める価値のあるアイデア】を聴衆に届けている。プレゼンテーションはインターネットでも無料公開されており、1000万回以上再生される。

この本は、そんなTEDの一流のプレゼンテーションを分析し、なぜこれほど聴衆を惹きつけるのか書いた本だ。著者はこう述べる。

どんなすばらしいアイデアでも、人の心を動かせなければ意味がない。アイデアの価値は、それによって引き起こされる行動の価値で決まるのだ。

 

著者がこの本を書いたのは、アイデアによって聴衆の行動を引き起こそうとする人々の手助けにするためだ。ビジネスパーソンに限らず、あらゆる人々は、誰かに何かをやってもらうために、説明やプレゼンをごく普通に行なっている。それらの人々にとって、本書はよいヒントを与えてくれる。

とはいえ著者は資料作りの技巧から入ったりしない(そもそもTEDではスライドを使わない人も多い)。もっと根源的な、本質的なものだ。

著者によると、魅力的なプレゼンは例外なく次の要素をもつという。

  • 感情に訴えるー聴衆のハートに触れる
  • 目新しさを出すー聴衆に何か新しいことを教える
  • 記憶に残すー聴衆が絶対に忘れないような形で見せる

どんなに美しいスライドであっても、聴衆の感情に訴えるものでなければ効果は薄い。人は論理のみでは説得出来ないものだという。「自分はこれが良いと心から信じている、だから聴衆にも知ってほしい」という情熱そのものが、聴衆のハートを惹きつける。

ボディランゲージ、シンプルなスライド、3つの法則など、学ぶべきことはこの本で多く取り上げられているが、なによりも大切な法則は「自分らしく語ること」だと著者はいう。聴衆はそれを敏感に感じとり、真実を語ることに共感するのだから。