コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

李可《杜拉拉升职记》(テレビドラマ原作小説)

八咫烏シリーズを読み進める前に、ちょこちょこ書きためていた書評を完成させてブログに載せることにした。三冊だけだから多くはない。

 

中国職場小説の草分け的存在であり、「ホワイトカラー(営業または人事担当者)が出世していく物語を通して、職場の複雑な人間関係を生き残る智慧を明らかにする」という、中国での職場小説の方向性を決めたといってもいい本。

この本の舞台はアメリカ系外資企業”DB”。CEOの名前は「ジョージ・ゲイツ」で、明らかにビル・ゲイツを意識しているが、ソフトウェアではなくネットワークが主力商品だ。とはいえ主人公のキャリアウーマン杜拉拉(ドー・ララ)は行政部(日本企業でいう総務部に近いか)と人事部兼任。企業のメインストリームであるソフトウェア営業にはあまり触れず、後方支援業務をしている。それはすなわち、部門間調整を始めとする社内の人間関係にまともにぶつかるということ。

 

杜拉拉は大学卒業後、最初は中国系企業に入ったが、社長のセクハラを受けて退職。転職を繰り返したのち、外資系企業の行政部に入った。

彼女は仕事熱心で出世にはあまり興味ないが、まわりの上司や同僚はみな腹に一物持つ。直属の女性上司・ローズは、自分の地位が脅かされないよう重要なノウハウを彼女に教えようとしない。ローズの上司は定年間際の事なかれ主義で、訴えてもローズに注意一つしない。

ある年、CEOジョージ・ゲイツが中国市場を視察することになった。彼が来る前にと、設備が古びてきた上海オフィスを全面リニューアルすることになるが、このタイミングでローズが妊娠、切迫流産の危険性ありとして休暇に入る。リニューアル業務が杜拉拉に重くのしかかる。保証期間を過ぎたネットワーク、オフィス賃貸契約更新と賃料上昇、レイアウト刷新、低予算…さまざまな困難、複雑な人間関係をくぐり抜けながら、杜拉拉も自分自身を守るために図太くなっていく。

 

(作中では妊娠が本当かどうかわからないと暗示している。妊娠期間中はポジション据置きで解雇できない。ローズがこのタイミングを狙っていなくなるのは、オフィスリニューアル業務が大仕事であることを承知でやりたくない、リニューアル業務を滞らせる嫌がらせ、などの理由が作中から読み取れる。おまけに杜拉拉が業務を大体終えたところでローズは「結局流産した」と言いながら出社し、上司として彼女の仕事成果を見事にかっさらってしまう。えげつない)

 

惜しいと思うのは、職場小説の草分け的存在であるためか、人間関係やキャリアのノウハウが豊富に盛りこまれているものの、エンターテイメントとしてはそこまで面白くないことだ。ストーリーを使ったビジネス書として読んだ方がいいかもしれない。だが切迫流産騒ぎからもわかるように、ストーリーはかなり生々しく人間臭いものだ。