コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

沈鱼《朝九晚五》

これもちょこちょこ読みながら書きためていたもの。海外書籍の原文は3日以内に読み切るのはたいへんきびしいから、少しずつ読み進めて、読み終わったところで書評を書く。だいたい読み終わるのに数週間かかる。

 

この小説はテレビドラマ原作小説ではないけれど、ベストセラーであり、日系企業が取り上げられているから読んでみた。

中国の職場小説というジャンルは、営業、人事などのいわゆるホワイトカラーをテーマにすることがほとんどだが、この小説のテーマはヘッドハンティングである。

 

主人公の悠悠(ユウユウ)が働くのは、ヘッドハンティングや能力開発セミナーなどのサービスを提供する英国系コンサルティング会社MMI。

MMIは数年前、従業員がスタッフと重要顧客を半数以上引き抜いて独立開業するというスキャンダルに見舞われ、急遽従業員を新規採用した。女性部長・リサ(中国では、外資系企業勤務の場合、本名以外に英語名をつけるのが一般的)はその時入社したが、まもなく能力の乏しさをチームリーダーたちに見抜かれてしまう。

リサはあからさまに自分を煙たがる古株の医薬業界担当チームリーダー・ニコルをクビにし、悠悠を代わりにすることを画策して、彼女を採用した。最初から社内政治の駒として入社した悠悠だったが、結局医薬業界担当になる話は立ち消えになり、彼女は金融業界担当のヘッドハンティングチームを率いて、生来の負けず嫌いでメキメキ実力をつけていく。

物語の中でさまざまなヘッドハンティング業の現実が紹介される。人脈、候補者探し、交渉、情報交換。ヘッドハンターと就職・転職コンサルタントとは根本的に違う。ヘッドハンターを使ってふさわしい人材を探さなければならないようなポジションはたいてい部長クラス以上であり、それをこなせる経歴・能力がある者はすでにどこかで要職についていることがほとんど。彼らを見つけ、紹介してもらい、魅力的な条件を提示し、現職から引き抜くのがヘッドハンターだ。作中の言葉を借りれば「私達は、仕事に困っていない人に、仕事を紹介するのです」。

 ある日、悠悠に大きなチャンスが舞いこんだ。東南アジアで金融・投資・証券取引等を手がけ、絶大な力をもつ日系総合グループ・江川集団が、中国地区で金融・IT分野投資を専門的に手がける投資会社を設立することになり、その支社長を募るという内部情報がもたらされた。高額報酬ゆえ競争相手は10社近い。悠悠は勝負に打って出ることにした。

 

この小説はホワイトカラーとしての主人公だけではなく、女性としての恋愛物語にも重きを置いている。悠悠は大学時代のサークルである男性と恋に落ちたが、彼の幼馴染で悠悠の女友達でもある少女が、彼女に彼への恋愛感情を相談していた。ダンスパーティーの夜、ペアダンスの誘いにきた彼だったが、悠悠はさし出された彼の手に、幼馴染の手をのせてしまう。

その後彼は幼馴染と一緒になった。幼馴染は生まれつき病弱で、妊娠出産は難しいと言われたにもかかわらず子供を熱望する。一方悠悠は心痛のあまり二人から距離を置いた。そして、ある出来事がトラウマになり、彼女はますます恋愛に臆病になってしまう。

小説は悠悠がトラウマに向き合い始めたところで終わり、第二部を予感させる余韻あるもの。第二部が出たら是非読みたい。