コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

アラビアの夜の種族 (古川日出男著)

尊敬するブログ「わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる」の中の人に選ばれた徹夜小説。

『スゴ本』中の人が選ぶ、あなたを夢中にして寝かせない「徹夜小説」5作品 - ソレドコ

ハードカバーは二段組みで659頁もある大著だが、いやはや面白い。現代版アラビアンナイトともいおうか。記事ではなるべく前知識を仕入れずに読めと厳命されているが、なにも知らずに物語に没頭することが至福だ。

ほんのわずかほのめかすならば、エジプトの首都カイロの街で、読むものを身に迫る破滅にさえ気付かぬほど夢中にさせるため〈災厄の書〉と呼ばれる書物、その年代記が、美しい女物語り師から語られ、口述筆記されるさまに、われわれは立ちあう。物語は深遠、話術は絶妙、登場人物達の運命はあまりに味わい深い。

だが、最高の魅力があるのは年代記ではない。最後の一文まで飲み干すように読んだとき、きっとわかる。

記事の最後にあるように。

二重底、三重底に秘められた現実と物語が、文字通り「ぐにゃぁ」と歪み・融合し、脳内で融け合う、解け合う、とろけ合う様に、恍惚となれ。

 

わたしは物語を読み、最後の一文の意味をすこし経ってからわかった。わかったときに文字通りとろけあうさまを味わった。現実と物語の境界が、はじまりと終わりの境界が、歴史と現在の境界が、自分自身とそうでないものの境界が、メビウスの輪のように、ウロボロスの蛇のようにぐにゃあと渾然一体となった。そのさまを味わってほしい。