コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

黒人であること、それが意味すること『Project Management: the Black Experience』

書き手はどんな人間で、どんな人生を送ってきて、なにを表現したくて書いたのか? この本については簡単に答えられる。著者はバージニア州出身のアフリカ系アメリカ人で、コールセンターからITプロジェクトマネジャーに転身した経歴の持ち主で、黒人マネジャーとして働くとはどういうことか、どうすればうまくやれるか、己の経験談を分け与えるためにこの本を書いている。白人男性よりも用心深く、自制し、敏感な話題を避け、”黒人らしい”生活習慣を出さないようにし(チキン好き、ラップ音楽をよく聞くetc) 、そして二倍優秀でなければならないからだ。

Men from underrepresented groups, such as African-Americans, Latinos and Native Americans, were most likely to leave due to unfairness (40%).

ーー少数グループの男性、例えばアフリカ系やラテン系、ネイティブ・アメリカンの男性は、不公平さのために離職する確率がもっとも高い(40%)。

マイノリティは常にステレオタイプの偏見にさらされるのが現実だと著者はいう。チームでただ一人の黒人であることは珍しいことではなく、その状況自体がストレスフルであるうえ、自分の評価が「黒人」全体への評価とされてしまうため気が抜けない。日本では人種差別を目のあたりにすることは少ないが、たとえば女性差別ーー男性正社員が大多数の会社でなにかミスをすれば「これだから女は」と陰口をたたかれるーーなどを考えれば想像しやすいだろう。それでも著者があきらめなかったのは、マネジャーは給与が高いからだ。

著者自身がプロジェクトマネジャー経験ゼロからの転職を成功させた経験から、最初のプロジェクトマネジャー職に就くために役立つことを、スキルの棚卸しと人脈づくりだとまとめている。これ自体は目新しいことではないが、「白人相手に」とつくと途端に心理的ハードルが高くなる。統計上7割近い白人男性が、黒人のビジネスパーソンの知りあいがいないという研究結果もあるとか。

 

この本を読んだあと、形容しがたい気持ちになった。差別される側の人間が、自らの行動を制限し、差別する側の人間と同じようにふるまうことで成功に近づくことを説く。なんと悲しくてやりきれない現実だろう。

著者は決してそれが正しいとは思っていない。黒人差別についてやりきれなさを抱えながら、白人主流社会で稼ぐためにはそうすることが必要なんだ、魂を売り渡すのではなくうまくいくようふるまうんだ、と繰り返す。

このやりきれなさは誰もが抱えているのではないだろうか?  黒人だから、女性だから、一流大学卒業じゃないから、などなど…。現実は優しくないことを知りつつ、あきらめず可能性をさぐり、それを本にまとめた著者は、強く、魂の美しさを感じさせる人間だ。