コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

珠玉のエッセイ集『倒れるときは前のめり』

有川浩はとても好きな作家のひとりだ。どう紹介したら有川浩ファンじゃない方がこのエッセイ集を読みたくなってくれるのか、頭をひねらせるのもまた楽しい。

このブログは私の読書記録をつけるために立ち上げたが、面白い本にどんどん出会うにつれて、またほかのブロガー様が絶賛していた本を読んでみたらめちゃ好みだったという経験が重なるにつれて、私がこのブログで紹介した本を、誰かが読んでくれればいいなと思うようになった。本屋で見かけたらふと手に取りたくなるような紹介を書きたいと思った。

そんな試み第一弾に、好きな作家のエッセイ集をもってくるのは悪くない。

 

この本単体で「面白いから読んで!」とすすめるのはちょっと難しい。なぜならこのエッセイ集は、新作発売時に雑誌に書いた作品紹介だったり、好きな本や映画を紹介しようという企画だったり、東日本大震災時の呼びかけだったり、はたまた郷土愛満載だったり、文字通り「その時々になんらかの目的で書いた短文のよせ集め」なのだ。最初からテーマを決めてまとめて書き下ろすエッセイ集とは違い、この本は作者がこれまですごして来た作家人生の折々の一瞬を気ままに切り取ったもの。ファンであれば「ああ、あの作品のあの登場人物ね」と膝を打つけれど、読んだことのない方はこの楽しみ方ができない。

だけど、読んだことのない方は、エッセイ集でふれている有川浩の作品のうち、気になるものを読むという楽しみがある。たとえば「有川浩的植物図鑑」でいきなり野草、それも食べられるものをやたら紹介するエッセイがあるけれど、なんだこれ?  と思ったら『植物図鑑』を読んでみるとか。タイトルはこれだけれど中身はベタ甘恋愛小説兼一風変わったグルメ紹介な、エンターテイメントが味わえる。

私のおすすめは、故児玉清さんも一読者として楽しんでいた『図書館戦争』シリーズ。児玉清さんとの思い出はエッセイ集冒頭に、思い入れの深い文章で書かれている。

もし有川浩さんの小説に興味を覚えた方がいれば、なにも探しにいかなくてもいい。エッセイ集の最後に短編小説が二編収められている。「ゆず、香る」はバンダイから発売されたゆず入浴剤とセットの「ホット文庫」に書き下ろした短編小説で、現在入手困難。それがエッセイ集で復活したのは嬉しいかぎり。有川浩さんが書く恋愛小説がどういうふうなのか、ちょっとつまんでみるのにぴったりだ。