コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

金もうけこそこの世の正義『虚栄の黒船-小説エンロン』

エンロンアメリカのエネルギー会社であり、2001年に当時最大の簿外債務隠蔽が明るみに出て倒産したことで、コーポレートガバナンスで必ず話題に出るようになった会社。この会社で起こったことを、十数年間の国際金融経験があり、のちに小説家に転身した著者が、豊富な金融知識を背景に、半ばフィクション、半ばノンフィクションのように小説に書いた。

著者の筆の下で、エンロンはまさにアメリカ資本主義の権化のように描写されていく。もともとテキサスの中規模天然ガスパイプラインでしかなかった会社が、金融手法を用いて銀行融資を取り付け、ガス会社や電力会社を買収し、赤字資産を子会社(のような組織)に売却して本体から切り離し、高利益を演出する…と、まさに現代金融市場の錬金術のような離れ業を次々演じていく。だが実態業務ではなくただ信用取引であったために、いったん損失隠蔽が明るみになれば株価はまさに雪崩を打つように落ちこんでいった。社長と財政部長は逮捕され、不正に加担した会計事務所も信用を失って事業破綻し、重役達は投資家から訴えられて被告人席に立った。

この小説を読むと空恐ろしくなってくる。

当事者たちの金儲けへの狂気染みた執着、損失を子会社に飛ばせる会計処理手法を思いついたと得意になる態度、「法で禁じられていなければなにをやってもいい」と肩をすくめる不遜さ、そして高額の手数料と引きかえに会計士達に口をつぐませるやり方。

大金がからめば人はこんなことをするのか、と、唖然となる。結局のところすべては金融市場のゲームにすぎないのに、一生どころか何度か転生しても使いきれなさそうな大金を手に入れてなお、もっと稼ぎたいと血道開ける。(一方で稼いだ金を慈善事業につぎこむビル・ゲイツのような人もいるわけだが)

金融用語は少々難しいが、アメリカの資本主義の虚偽も、金儲けに突き進む人間のなりふりかまわなさも、それにふりまわされる人々の悲しさも、すべてを書いたいい小説。