コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

食べるラー油ならぬ食べる文章『小林カツ代のお料理入門』

小林カツ代さんの本に出会ったのはかなり昔だ。最初に読んだ本のタイトルももう思い出せない。けれど「小林カツ代さんは美味しい文章を書くひと」ということはずっと記憶にあった。

なんというのか、お料理について書いたエッセイを読んでいると、まるで本当に食べているような気分になってくる。しかもどれもこれも美味しい。炊きたてご飯を茶碗によそって、塩をふって食べることを書いたエッセイでは、電気釜の蓋の重み、立ちのぼる湯気、炊きたてご飯の香りがわっと広がる光景が、匂いつきで目の前に浮かぶ。お料理の味加減じゃないけれど、匂い、感覚、味の描写が絶妙。

小林カツ代さんがこの本で書いたお料理は、どれもこれも手間いらず、なんだったらちょっと手を抜いたりして、一人暮らしにぴったりな分量ながらとても美味しい。まるで初めて一人暮らしをする子どもにお母さんがレシピを伝授しているよう。一緒に作りながら「こうすれば美味しいんです」とニコニコしている昭和のお母さんがしっくりくる。

もともとのタイトルは「実践 料理のへそ!」。へそは胎内にいる赤ん坊と母親を結ぶ大切な命綱だから、料理のへそは、そんな命にかかわる大事な意味もあってつけたそう。味のカギを握るところにポイントを置いていて(とはいっても「砂糖はパパパッと肉の上全体にふりかけてから」というように全然難しくないこと)、こうすれば美味しい!

料理研究家である前に、「美味しいものを食べたい/食べてもらいたい」がエッセイに凝縮された小林カツ代さんの本。お腹が空いているときに読めば、お腹がぐうぐう鳴って、すぐに台所に立って料理したくなること請けあいだ。