コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

あなたの可能性、日本で発揮できますか?『日本に殺されず幸せに生きる方法』

独裁国家でもあるまいし、日本に殺されるとはなんぞや?

首をかしげる一方、「保育園落ちた日本死ね」に代表されるように、少子化が叫ばれながら、特に共働き子育て家庭にとって日本社会は決して生きやすくはない。なんだか真綿で首が締められている気もするけど、まだ窒息していない…そんな日本社会のことを書きたいのかなと思いながら読み始めた。

読んでみたところ、日本に物理的に殺されるのは大げさだとしても、可能性を殺されるという意味で警鐘を鳴らしているのは、なるほどと思えた。

 

本書の著者はめいろま(めいろま@May_Roma)の名前でツイッターご意見番として名を馳せ、バックパッカー、国連職員、国際結婚などの豊富な海外体験をもとに「ここが変わらなければならないよ日本人」についてインターネットで発信し続けている。彼女の本を読むのは二冊目。

二冊とも、さまざまなデータを駆使しながら「日本社会の仕組みは時代遅れでうまくいかないところが多々出てきている」「日本のやり方以外にも選択肢はある」「だからそれに目を向けよう」と主張するものだった。

 

日本では言語障壁があるから海外の英語情報は行き渡りにくいし、翻訳されたものはその時点で訳者の考えに影響される。つい最近起こった大坂なおみ選手のコメント誤訳報道などがそうだ。

【検証】なぜ大坂なおみ選手の誤訳報道が起こってしまったのか?(菊地慶剛) - 個人 - Yahoo!ニュース

大坂なおみ選手については、ハイチ系アメリカ人の父親と日本人の母親の間に生まれ、英語を母語としているという意味では従来の日本人像に合うとはいえないけれど、彼女の偉業ゆえに「日本人はスゴイんだぞ!」と言いたい人々が、なんとか彼女に日本人的な振る舞いをさせようとあれこれ誘導しては失笑を買っているという印象。

このように日本人は日本のやり方に固執し、日本にやってきた外国人たちにもそれを強要するけれど、同調圧力が強すぎるところにイノベーションが起こりにくいことはすでに散々指摘されているし、わたし自身の体感としても実感できる。これこそ日本の宿痾ではないだろうか。

著者始め、海外に出た人々はそのことを知っているから「そうではない社会もあるんだよ」「今の仕組みだとそろそろうまくいかないのがわかってきたでしょう」「新しい考え方を入れないと社会は発展しないよ」と発信し続けている。

著者の指摘は鋭い。

日本で、特に女性に強くあるのが「同調圧力」です。何か新しいことを始めると言うと 「やめなよ。うまくいきっこないから」と言ってくる人が9割です。それは、本気で心配して言っているのではありません。 「自分と同じと思っている人がうまくいって上のレベルに行くのは面白くないから、足を引っ張ろうとしているだけ」なのです。

(中略)

みんな自分が大事で、他人にはさして興味もありませんから、あなたに言ってくることのほぼすべてが自分のために言っているか、適当に思いついたことを言っています。

同じようなネット記事をこのところよく見かける。それだけ、同調圧力に違和感を覚える人々が増えてきたのかもしれない。

帰国子女の娘がクラスで浮いた存在に… 鴻上尚史が答えた戦略とは? (1/7) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

 

同調圧力は両刃の剣だと、わたしは思う。

みんなが同じであればみんな仲良くしていられるし、東日本大震災時に見られたような壊滅的天災のなかでなお保たれる秩序が生まれる。だがそこから外れた瞬間に「自分たちとは違う」という理由で激しい差別を受けるリスクがある(これが怖いゆえにみんなと同調しているともいえる)。この環境からイノベーションが生まれにくいことは言わずもがな。また、判断基準が「みんなやっている」「言われたからやる」になると、たとえば検査数値偽造や統計調査偽造などの犯罪行為にも平気で手を染める。
同調圧力の強い社会に生きる」ことは、「自分独自の判断基準を放棄させられる」ことと同義だ。

社会が経済成長を続けて豊かであれば、それでも生きていくことはできよう。だが、経済が衰退して社会福祉が面倒を見てくれなくなり、自分自身で食べていかなければならないとなると、独自の判断基準のなさが最大の弱点になる。

幸いなことに、独自の判断基準は自分の中に育てることができる。「みんながやっているから」を理由にせずになぜそうするのかを考え続ける、思考停止をしないという決意と、さまざまな本を読むなり多国籍の友人と交流するなりして、多様な考え方にふれるための少しの時間、そして自分自身と異なる価値観でも否定せず「そういう考え方もあるのか」と受け入れる寛容さがあればいい。

これらはみんな、時間をかければ、長くても数年で身につけることができる。身につけることが、できた。