コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

不動産会社社長がすすめる不動産投資〜市川周治『ゼロから始める不動産投資』

不動産投資、日本編。

著者は岡山県岡山市で不動産売買・賃貸・投資を手がける不動産会社を経営している。みずからも不動産投資の経験を持ち、投資用不動産の仲介も会社業務のひとつ。ゆえに本書はある程度ポジショントークとして読むべきだと思う。

 

本書は不動産投資、イギリス編の本 "The Complete Guide to Property Invrstnent" と同時に読み進めた。比較対象がほしかったし、イギリス社会は日本社会の未来の姿ともいわれるなど似通ったところが多々あるから。

もっとも大きな違いは、イギリス編では個人のライフプランの一部として、不動産投資を通してどのような状況を目指しているか(「5年後に不動産を売却して利益を得たいのか、数十年間、腰をすえて家賃収入を得たいのか?」)を考えさせ、それにあわせて投入資金や購入物件などの戦略をたてるべし、という章が最初に来ている点。

日本とイギリスのスタイルのちがいなのか、本書にはこのシナリオ・プランニングともいうべき章がない。代わりに「お金持ちはお金を働かせる仕組みをもっている」「不動産投資を通してお金持ちになることができる」などと、ゆるふわな言葉を重ね、読者に不動産投資をさせようとしている。日本の読者は、イギリスの読者ほど不動産投資に興味がないから、まずは行動を起こしてほしい、ということかもしれない。

また、本書では「相場よりもいかに安い物件を手に入れるのか、これが不動産投資で成功するための王道」としているが、イギリス編の本 "The Complete Guide to Property Invrstnent" では「そもそも市場価格というのは(理論としては)その物件の価値を正確に反映しているものであるはずで、いわゆる相場より安い物件には必ず理由がある。その理由を探らなければならない。また、いかに相場より安いように思える物件であっても、それがみずから定めた不動産投資戦略に合わなければ、無理に手を出すことはない」というスタンス。あくまで戦略ありき。

とはいえ共通点ももちろんある。不動産投資で中古物件がよく活用されるのは、日本もイギリスも変わらない。日本では新築物件の値下がりがはげしいのでなおさらだ。日本では、海外ほど中古物件取引がさかんではないらしいが、今後伸びていくのだろう。

新築で販売される物件は、日本人が住宅に対して新築指向が強いので、購入した瞬間に1~1・5割値下がりするのが当然です。物件にもよりますが、だいたい15年で半額ぐらいになります。

年間の住宅流通に占める中古住宅の割合は、イギリスが約8割、アメリカが約9割、フランスが約6割を占めています。それに対して、日本は2割以下の約15%。新築が85%と圧倒的です。

 

不動産投資にはさまざまなやり方があるだろうが、本書では家賃収入を得ることを前提に「マンションの1室などの区分所有でまずは賃貸の経験を積む→木造アパート1棟を買う→鉄筋コンクリートのマンション1棟に手を出す」ことを王道としている。

投資用不動産は、家賃収入を得るために貸し出されることになるわけだけれど、実際に賃貸物件を経営するのはかなり大変。だからまずは1室でためしてみて、うまくいくようになったら比較的安い(といっても2000万円程度)木造アパート、さらにうまくいったら鉄筋コンクリートマンションを1棟経営するとよい、という理屈だ。

なにより、何度も物件購入をしているうちに、不動産会社とパイプができ、優良物件を優先的に紹介してもらえる可能性が高くなる。優良物件というものは、インターネットサイトに載る前に、内々で買い手がついてしまうものだから。本書でもそのあたりは念押しされている。

そもそもお宝物件の情報は、投資初心者にはなかなか目に触れることはありません。最高ランクの物件は不動産会社が自社で購入してしまいますし、優良物件のほとんどは、すでにパイプのある常連客が紹介や口利きで押さえていきます。

日本では不動産会社を通して、物件探しはもちろん、金融機関、賃貸会社、管理会社、さらにはリノベーション業者等とのつながりをつくることになるから、仲介となるよい不動産会社を選ぶのがとても重要になる、というのがこの本のメッセージ。

もちろんそのとおりなのだけれど、不動産会社とつきあうにあたってはこちらもある程度専門知識が必要になるはずで、その辺は本書ではにおわせる程度になっている。(もちろん、不動産会社経営者である以上、そう簡単にノウハウは明かせないだろう)本書は全体像をつかむための入門書としては申し分ない。それ以上深く知りたいと思えば、より専門的な本をあたらなければならない。