コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

お金のことを学ぶのは恥ずかしいことではない、早ければ早いほど良い〜ボード・シェーファー『マネーという名の犬』

家を買いたい、というのが夫がよく言うことだ。

どうやら親戚が東アジアの某国で買った投資用不動産が値上がりしており、その成功体験をよく聞かされ、「不動産を買いなさい」とせっつかれているらしい。

夫の希望は土地付一戸建て。土地付は譲れないらしい。

日本の不動産市場状況では、投資用不動産としての土地付一戸建てなんてよほどの都市部でもなければない、とくに新築なんてのは入居してすぐに資産価値2割減もざら、数年もすれば上物の資産価値はほぼゼロ、どうしても買うなら古くからの高級住宅街などで駅近築浅中古を狙え。

私はことあるごとに口を酸っぱくしてこう反論している。夫は耳を傾けてはいるものの、やはり親戚の成功体験も捨てがたいようで、それこそ路線価や不動産評価額を目にしなければ、ほんとうには納得しなさそうだ。(保育園もそうで、いくら住んでいるところは保育園激戦区だと説明しても、実際に保育園全落ちするまで、夫はどこか「保活なんて大げさな」という雰囲気だった。)

こういうわけでここのところ、お金について学びなおしている。お金、投資、不動産についての本を、入門書、専門書問わず読みなおしている。

 

本書は小中学生向けにお金について物語風に書いたもの。主人公キーラがある日、人の言葉を話せる白い犬「マネー」を飼うことになり、その犬から色々教わるお話だ。雰囲気としては『ソフィーの世界』に近い。主人公の女の子が、ある日突然出会っただれかから、大切なことを学びはじめるという設定が似ている。

『生涯投資家』を書いた村上世彰さんが本書を監修しており、前書きにこう書いている。

ぜひ、夢アルバムを作って、君の夢や目標について真剣に考えてみてほしい。そして夢貯金箱を作って、どうやってお金を貯めていくか、貯めるために何をして稼いでいけばいいか考え始めてほしい。そのときに、人が困っている問題を見つけること、その問題を解決するために自分に何ができて、何が得意で、何をしているときが楽しいのかということを、時間がかかってもいいから、いっぱいいっぱい考えてほしい。

そして何か考えついたら、ぜひそのアイディアを形にするために、努力と準備を進めてほしい。

夢アルバムも、夢貯金箱も、主人公のキーラがマネーのアドバイスを受けてはじめた子どもらしいことだ。まずはお金があったらかなえたい夢を決める。あまり多すぎず、一番大切な夢を3つくらいがいい。次に夢の数だけアルバムを用意して、そこにかなえたい夢についての写真や雑誌特集など、視覚化できるものを貼り、毎日見返して、自分が夢をかなえるところをイメージする。そして、夢の数だけ貯金箱を用意して、それぞれの貯金箱に、夢をかなえるためのお金を貯める。そこまでできれば、夢貯金箱にどうやってお金を貯めるのか、貯めるためになにをしてお金を稼げばいいのか、考え始めるときだ。本書ではお金を稼ぐために考えるべきことをズバリ言い切っている。

『いつもほかの人のために問題を解決しようとしなさい。そうすれば、どんどんお金をかせげるようになる。それから、自分が何を知っているか、自分には何ができるか、何が備わっているかをつねに考えなさい』

主人公のキーラは最初、お金とのつきあい方がわからなかったけれど、犬のマネーと出会い、マネーの飼い主であるゴールドシュテルン氏に出会い、大好きな犬のお世話をすることでお金を稼ぐようになり、少しずつお金について知っていく。キーラのいとこのマルセルもお金を稼ぎはじめていて、彼はキーラに大切なアドバイスをする。

「でもな、大事なことを二つ言わせてくれ。第一に、一つの仕事だけをあてにしちゃいけない。おまえが思っているより早く終わりになるかもしれないからな。すぐに追加の仕事を探すことだ」

「第二に、きっと何か問題が起こる。予想もしなかったような問題がね。そのときに、おまえがまぬけ頭の意気地なしなのか、それともおれのようにお金をかせぐのにふさわしい人間なのかがわかる。順調なときは誰だってお金をかせげる。トラブルに直面したときにこそ、そいつがほんとうに持っている力がわかるんだ」

お金を稼ぐことははずかしいことではない。お金があればすべて解決出来るわけではないけれど、うまくいかないときにはどうしたってお金が必要になる。本書ではこのことが何度も繰り返される。小中学生向けのやさしい物語ながら、お金とのつきあい方を知らない大人たち、そんな大人たちを親に持つ子どもたちにメッセージをとどけるために。

小中学生向けであるから、得意なことをして両親やご近所からお小遣いをもらうことはよく出てくるものの、株式投資などはひかえめ……かと思いきや、ちゃんと出てくる。会社、配当金、株式市場、投資信託がやさしく説明されている。著者は投資信託推しだ。祖父母がキーラに「株なんてすぐにやめなさい」という場面もちゃんとでてくる。

お金があると心の余裕がちがう。やりたいことをできるようになり、やりたくないことをやらずにすむ。けれどお金を得るために、お金を失わないために、どう投資するべきなのかはきちんと学びつづけ、考えつづけなければならない。

本書は大人にはすこし物足りないかもしれないが、初めてお金について学ぶ小中学生にぴったり。夏休みの読書感想文にいかがだろうか。