コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

不動産投資を考えるならば失敗例も知っておきたい〜小林大貴『知らないと取り返しがつかない 不動産投資で陥る55のワナ』

仕事柄「どういう事故や失敗が起こりうるか」という視点からものを見ることが多い。本書も、不動産投資での失敗例について知るために読んだ。

著者は住友不動産出身で、現在は賃貸用不動産経営と不動産投資コンサルタントをメインに活動している。住友不動産時代に営業を経験したこと、不動産投資コンサルタントとしてさまざまな成功例と失敗例を知る機会があったために、本書でとりあげられている不動産投資でありがちな55のワナをまとめることができたという。

ワナはすべて【実例】に基づいている。もちろん実例を事細かく書くわけにはいかないので、かなり一般化されてはいるが、エッセンスはちゃんと込められている。どんな【実例】から「このようなワナがある」という教訓を得られたのか、想像してみるのもたいそう面白い。

ここで大事なのは、「“戦術”は“戦略”が決まらなければ設定できず、“戦略”は“目標”と“現状”が見えなければ設定できない」ということです。

(01 目標の決め方を間違える罠)

あくせく働くのではなく不労収入で楽々暮らしたい、不動産投資が流行っているみたいだからやってみたい、自分の年収より低いのに不動産投資で成功している人の本を読んで心が動いた、とにかくアパート一棟買えとあおる雑誌特集を読んだが実際のところはどうなのか……著者は無料相談やセミナーでこういうことを言われてきたのかもしれない。あるいは著者自身や業界仲間がこのような方法で投資家の心を動かしてきたのかもしれない。「目標」「現状」を深く考えず、ともかく不動産を買うことをめざしてしまうと失敗する。著者はそういう人々を見てきたのだろう。

あなたの目標(理想)が現実(相場や業界通念)と著しく乖離していないかどうかわからないといけません。そのために必要なのは、……不動産投資を生業とし続けている人に聞くことが一番です。一気に難易度が上がりましたね。実際に人と会って話さなくてはなりません。

(04 現実と理想をマッチングする過程での罠)

ここでの真意は「会って話すことは大切だが、盲目的に鵜呑みにしてはいけない」ということ。悪徳業者の営業トークにのせられるがままに不動産を買ってしまい、うまくいかなくなって、不動産投資コンサルタントに相談する人が後を絶たないのだろうか。あるいは業界噂話として「カモられた」ケースが耳に入るのだろうか。そんな想像をしてしまう。

大事なのは、「業者がリスクの説明をしていないのでは?」という疑いの頭を持つこと。また、リスクの内容を想定して自分からヒアリングできることです。投資をするからには、最低限自衛のための知識は必要です。

(16 提案内容にリスク面が入ってこない罠)

これにはしっかり事例が付けられており、紹介された物件が借地物件であったにもかかわらず、それとは説明せず、お客様が借地物件であることや借地権のリスクを知らないまま契約に至ってしまったケース。ちなみに借地権とは「建物は買主のものになるが、土地は買主のものにならず、地主から借りている」状態。地主には地代を払わなければならず(その代わり固定資産税は地主負担)、建て替えやリフォームには地主の許可が必要になる場合もあり、もちろん期限が来れば土地を返さなければならない。賃貸用不動産にとっては知らないでは済まない重要事項だが、これを説明しない不動産業者もいるのである。重要事項説明書にはもちろん(小さな字で)書いてあるが……。これ以外に築年数、再建築不可物件のこともぼかされやすいらしい。

「2016年◯月完成予定」という資料を鵜呑みにし、「ここで引き渡しがあるんだ!」と思い込んでしまうことがよくあります。しかし、この完成予定スケジュールは守られないことも多いのです。

(34 工期などあってないような認識の罠)

近所に建設中の集合住宅があるが、このまんまの状況である。大手不動産会社が手がけており、完成予定は今年春だったが、まったく完成する気配がなく、素人目で工事現場を見ても、新型コロナの影響がなくても一年以上予定オーバーするとしか思えない。建設業界ではそこまで珍しいことではないのかもしれない。

不動産投資は大家業を兼ねることが多いけれど、街を歩いていると、この本で触れられているような失敗例に関係しそうなアパートや賃貸マンションを見ることがある。不動産投資を考えるなら、こういう本を読みつつ、自分の足で街を歩くことが必要だ。