コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

負け組の逃げ先としての海外留学〜テレビドラマ原作小説『小別離』

中国でいまもっともアツいテレビドラマの原作小説『小舍得』(未邦訳)の作者、魯引弓(ルー・インゴン)が、『小舍得』を含む中国教育小説シリーズとして書いたのが『小別離』。2016年に英語タイトル"A Little Separation" でテレビドラマ化された。

『小舍得』は小中学校のお受験戦争を扱っているが、『小別離』が焦点をあてるのは、高校からの海外留学である。

中国では海外留学は2種類ある。優秀な成績で一流大学を卒業した子が、より広い活躍の場を求めて海外大学に進学するパターンと、中国国内の熾烈な受験戦争に負けた子が、敗者復活をねらって海外留学をめざすパターンだ。『小別離』に登場する3つの家庭の子どもたちは、後者。

 

家庭①: 林紅(リン・ホン)家。娘をオーストラリアの私立高校に留学させている。高額な学費を稼ぐため、夫が単身赴任している。夫が勤める不動産会社の女社長が大学の先輩であり、学生時代には恋愛関係になりかけたこともあるため、夫が浮気しないかと林紅は気が気ではない。

家庭②: 方園(ファン・ユェン)家。一人娘は中学三年生。成績はまずまずだがトップクラスの高校に入れるかどうか心許なく、方園はアメリカに住む妹を頼って娘を私立高校に留学させようとする。しかしなかなか思うように話が進まないため、妹や両親との関係がぎくしゃくする。

家庭③: 呉佳妮(ウー・ジャニー)家。シングルマザーで、中学三年生になる一人娘はあまり成績がふるわない。娘を高校留学させたくても、高額な私立高校の学費を支払うあてはない。彼女は、娘をアメリカに住む姉と養子縁組させて、アメリカの公立高校に通わせることを思いつくが、離婚した夫が親権放棄に猛反対している。

 

それぞれの家庭の悲喜こもごもは、なんとか子どもによい未来を与えてやりたいという親心から来ている(そのためにわが子を姉と養子縁組させるという発想はすごいが)。子どもたちは親の望むままに親元を離れるが、留学した先で彼女たちがどんなふうにすごすことになるか、小説ではほとんど書かれないため、わたしとしてはかなり物足りない読後感を抱いた。海外留学はゴールではなくスタート地点なのだから。