コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

トマ・ピケティを図表から読もう〜髙橋洋一『たった21枚の図で「21世紀の資本」は読める!図解ピケティ入門』

なぜこの本を読むことにしたか

トマ・ピケティの《21世紀の資本》を読みたいとずっと思っていたが、経済学を学んだわけでもない私が、分厚い経済専門書をいきなり読み始めれば挫折しかねないため、まずざっくり概要をつかんでから本丸にとりかかりたいと思った。

本書を選んだのは〈図表〉という方向から切りこんでいるから。学生時代に指導者から「論文を読むときはまず図表だけさっと眺めれば、内容はだいたいつかめる、そこから本文を読めばよい」と教わったからだ。

 

本書の位置付け

トマ・ピケティの名著《21世紀の資本》の解説書。原著はひじょうに分厚く、読み通すためには経済学の専門知識も必要になることから、一般向けに原著をやさしく解説するための本がいろいろ出版されているが、この本もそのうちのひとつ。《21世紀の資本》に掲載されている重要な〈図表〉を解説するという形でまとめているのが特徴的。

 

本書で述べていること

本書では《21世紀の資本》から21枚の図表をピックアップし、以下の順番で解説を加える。

  1. 世界の経済成長の推移
  2. 資本 (capital) とはなにかという説明
  3. 資本の推移を資本/国民所得比率(1年の国民所得に対する資本の比率)の観点から考察
  4. 資本収益率r(国民所得に占める資本所得の比率を求めるための係数)の説明
  5. 「歴史的推移として(一時的な例外を除けば)資本収益率はGDP成長率より大きかった。今後もそうであろう」というピケティの結論

ときどき、著者自身の解説として、「~の内容からピケティは〇〇論者(例: デフレ論者)ではない」という解説が入る。経済学は諸説あり、しかも経済政策策定(および批判)に利用されることから、経済学者としてピケティがとる立場をわかりやすく示している。またコラムでは《21世紀の資本》を読むために助けとなる情報「三面等価の原則」について情報を与えている。

最後に著者は、《21世紀の資本》の学術的意義を明らかにしている。

より広く、長い時系列のデータを地道に並べてみたことで、ピケティは、ノーベル賞を受賞したクズネッツの理論を覆してしまった。これが、『21世紀の資本』のもっとも面白く、画期的な点である。

 

感想いろいろ

gを(定義上はGDP伸び率だが、GDPの7割くらいは労働所得が占めるから、大まかに)労働所得の伸び率とみなし、rを(公的資本と民間資本を含むが、民間資本の方が圧倒的に大きいから、大まかに)資本所得の伸び率とみなして比較している、という解説は非常にわかりやすい。図表から入るという点も視覚的にわかりやすい解説本だと思う。

一読してまずよくわからないのは、経済の下支えとなる人口について、ピケティがなぜ「2100年までにアジアは-0.2%の人口減に転ずる」と考えているか、という点。アジアには中国とインドがあり、インドネシアパキスタンバングラデシュも人口は億越えだ。中国は20世紀から続く一人っ子政策(2016年に撤廃)と経済発展による出生率低下から、今後、急激な少子高齢化が進むと予測されているけれど、インドをはじめとする南アジアの国はまだまだ発展途上であるし、現段階では出生率も高い(2021年時点でパキスタン3.5、インドネシア2.3、インド2.2、バングラデシュ2.0。ちなみに中国は1.7で日本は1.4)。中国が失速したところで、マイナス転落するのかという点が疑問。《21世紀の資本》本文になんらかの説明があるかもしれない。

「より高い資本の蓄積には、より低い成長率(GDP増加率)が条件となる」というのもよくわからない。資本蓄積について〈資本/国民所得比率〉を指数として参照するのであれば、分母が小さくなれば値が大きくなるのはあたりまえだが、たぶん「国民所得が小さくなれば、〈資本/国民所得比率〉が大きくなり、つまりは資本家との格差が広がる」ことを説明するのに重要な考え方なのだろう。これも《21世紀の資本》本文の説明に期待。

ピケティは《21世紀の資本》を「資本と権力の歴史について多面的に解説した書」だと言っている。またある講義では「経済のことはよくわからないと言って済ませてしまうのは安易すぎる。他人任せにしてはいけない」と話したという。《21世紀の資本》が、政治制度と資本との関係を論ずるところに重きをおくのであれば、ぜひ原書にあたりたい。