コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

新型コロナに関するデマのファクトチェック〜ASIOS他『新型コロナとワクチンの「本当のこと」がわかる本』

 

なぜこの本を読むことにしたか

なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。

①世界の見方を根底からひっくり返す書物、

②世界の見方の解像度をあげる書物、

③好きだから読む書物

この本は②。タイトル通り、新型コロナウイルスやワクチンについて流れているデマや陰謀論を検証し、なぜそれが偽りだといえるのか解説する。

 

本書の位置付け

新型コロナ及びワクチンについて、書籍やインターネットなどで広がっているさまざまな陰謀論、マスク不要論、ワクチン不要論などを、専門家視点から検証し、なぜ誤りがあるのかを解説した、いわゆるファクトチェック本。適切かどうかわからないが、書店では〈健康〉書棚ではなく〈社会・時事〉書棚に置かれていた。

 

本書で述べていること

ワクチンデマについて、河野太郎ワクチン担当大臣(当時)がわざわざブログで一記事割いて否定したことは記憶に新しい。

https://www.taro.org/2021/06/%25E3%2583%25AF%25E3%2582%25AF%25E3%2583%2581%25E3%2583%25B3%25E3%2583%2587%25E3%2583%259E%25E3%2581%25AB%25E3%2581%25A4%25E3%2581%2584%25E3%2581%25A6.php

本書ではさらに踏みこんで、ワクチンだけではなく、新型コロナの予防、検査、診断、治療などについて巷で流れているさまざまな言説を専門家が検証し、それぞれについてQ&A形式で真偽を議論している。たとえばこんな感じ。

  • 新型コロナウイルス感染症はただの風邪と同じ?
  • マスクは効果がない?
  • 過去にはワクチンが原因で多数の人たちが亡くなっている?

それぞれの専門家がそれぞれの得意分野を担当して一章ずつ執筆しているため、最初から読まなくても、目次を見て気になるところから読むことができる。デマとそのファクトチェックのちょっとした辞書のようになっているため、使い勝手がよい。また最後に「身近な人が陰謀論にはまったときの対応」というコラムがあり、非常に大切なことが書かれている。

 

感想いろいろ

私の身近の例をいくつか。

とある友人は「コロナは風邪」論信者だが、「風邪薬でかぜやコロナをなおせる(※実際には発熱や咳などの風邪症状を緩和するだけ)」「ウイルスは抗生物質でなおせる(※抗生物質はウイルスには効かない)」など、基本知識がないために勘違いをしている。

とある知人はマスク不要論、規制反対論者で「若者は死者が出ていない」「イギリスではマスクなしでイベントを開催している」など主張しているが、イギリスが死者数十万人を出していることや厳しいロックダウンを実施していることを無視しており、都合良い情報ばかり拾いあげている(そして都合悪い情報にかぎって「エビデンス出せ」と吠える)。

とある親戚はワクチン打つのはいいけれどmRNAは嫌、という意見で、最新技術に不安があることに加えて「治験中の」ワクチンに緊急使用許可を与えたアメリカをはじめとする政府機関にも不信感を抱いている。

この人たちを説得しようとしてみたものの、みな自分の考えに執着する、自分の考えを補強してくれる情報にしがみついてほかは根拠がうすいだのなんだのと理由をつけて信用しない、と、共通の反応をみせた。こうなると議論自体がなりたたないので、話題を変えるしかない。

本書を読んでいて、なるほどとうなずかされることがたくさんある一方、この本を読んで納得する読者はすでにある程度知識があり、かつ思いこみがそれほど強くない、ただ最後の一押しが足りない人々であり、読者全員か納得することはありえないだろうということも容易に想像できた。すくなくとも上にあげた3名は考えを変えそうにない。なぜなら彼ら彼女らは、自分の考えに都合悪い情報を受けとることじたい、拒否しているようなものだから。

本書の末尾にあるコラム「身近な人が陰謀論にはまったときの対応」は、まさにこういうケースのことをとりあげており、説得ができないのなら相手の主張から肯定できるところを拾いあげつつコミュニケーションを保ち、相手の気が変わったときに人間関係を維持できるようにしよう、と書かれている。個人的にはここが一番心に響いた。

 

おまけの雑感。

【科学的知見は論文の形で発表して議論することで人類の知見の一部となる】

【人体という複雑なシステムを相手にする医療分野では『絶対』はなく、ある程度のリスクはかならず存在する】

【前後関係と因果関係はイコールではない】

専門家にとってはあたりまえであることを、広く理解してもらえれば、それだけでどれほど話が通じやすくなるだろう、と思う。実際にはこれがわかっていない人々は(かつての私含めて)なんと多いことか。

これらのこと理解させるためにはじっくり腰をすえて教育するしかないので、その間の時間稼ぎとして「デマを信じると自分が大損しますよ」と伝えることは有効かもしれないと思う。河野大臣(当時)は「ワクチンデマ」と題したブログで次のように書いている。

ワクチンデマを流す目的は、一、ワクチンを批判して、自分の出版物やオリジナル商品に注目を引き寄せて、お金を稼ぐ、二、科学よりも自分の信奉するイデオロギーに基づいて主張する、三、過去に誤ったことを発言したために抜け出せなくなっている、四、自分に注目を集めたい、ということが大きいと言われています。

デマにひっかかれば失われるのはお金だけではない。時間、そしてなにより大切な健康が損なわれるかもしれない。そのために心ある医師たちはデマが流れそうになるとこれを止めようと苦心し、さまざまな手段で正しい情報を広めようとしている。この本もそんな試みのひとつ。ほんとうにありがたい。

 

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最近読んだ関連本2冊をおいておく。