コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

バフェット教授の教え〜D. Pecaut & C. Wrenn “University of Berkshire Hathaway”

 

なぜこの本を読むことにしたか

なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。

①世界の見方を根底からひっくり返す書物、

②世界の見方の解像度をあげる書物、

③好きだから読む書物

この本は②。世界で最も有名な投資家のひとりであるウォーレン・バフェットの投資理念についての本。

 

本書の位置付け

ウォーレン・バフェットが会長兼CEO兼筆頭株主、チャーリー・マンガーが副会長をつとめるバークシャー・ハサウェイ社は、世界最大級のコングロマリット(多業種間にまたがる巨大複合企業)である。バフェットは最も成功した機関投資家のひとりであり、バークシャー・ハサウェイの年次報告書でバフェットが書く「株主への手紙」が定期的に『バフェットからの手紙』として出版されているほか、バフェットの投資哲学、財務諸表の読み方、銘柄選択法などについて、数多くの本が書かれてきた。

本書もそのうちのひとつ。著者らも投資家であり、「株式の手紙」を読むだけでは満足せず、バークシャー・ハサウェイの株を買い、1985年から30年以上にわたって年次株主総会に参加してきた。本書は年次株主総会を大学講義、バフェットを大学教授に見立てて、30年間にわたって「バークシャー・ハサウェイ大学」で学んできた投資理念、思考方法、投資戦略などについて解説する。

 

本書で述べていること

1986年から2017年までのバークシャー・ハサウェイ株主総会において、バフェットとチャーリー・マンガーが語ったことを紹介している。年次報告は短時間で終わるが、質疑応答は数時間におよぶ。本書で主にとりあげられているのは質疑応答の部分。株主総会の開催場所、参加人数、その年の株価や上昇率、比較対象としてのS&P500指数年平均上昇率も添えられているため、バークシャー・ハサウェイの力強い成長を実感できる。

バフェットはバリュー投資家である。さまざまな業界で優良企業を探索し、株式を格安で取得することに力を注ぐ。優良企業かどうか判定するときには目に見える収益構造や事業内容だけではなく、競争優位性、経営陣の能力、ブランド力、"consumer franchises" (定期的に商品を買ってくれる顧客のこと。ちなみにバフェットはこのような顧客をつかむことにもっとも成功しているのはコカコーラだと評価している)など、いわば「無形の」資産も考慮する必要があり、バフェットはそのあたりを評価する能力が天才的だと著者は見ている。

一方、デリバティブは「財政上の大量破壊兵器」「ドブ呼ばわりするのは下水道に失礼」「(不思議の国のアリスの)いかれ帽子屋のお茶会のようなもの」と大変酷評している。

また、バフェットは金利景気循環、経済観測といったマクロ経済にはほとんど興味を示さない。たとえば1991年のソ連崩壊や、1997年のアジア通貨危機はほぼふれられていない。かろうじて1992年開催の株主総会で「(コカコーラのような世界情勢にあまり左右されない)優良企業の株式を所有することが重要であって、マクロ経済にはそれほど注意を払わない」という話が出てくるくらい。

代わりに言及されるのは、たとえば1991年前後では投資銀行ソロモン・ブラザーズ国債の不正入札が発覚して倒産危機に直面し、バフェットが暫定会長として「月給1ドル」で経営再建を引き受けたことである。ソロモン・ブラザーズ再建での活躍について問われたバフェットは、ある小話で応えた。ある水族館で、サメがうようよするプールを泳いで横断できたら賞金100万ドルをさしあげますが、あえてそうしようとした人はいません、とガイドが言った。すると水音がした。ある男が猛然と泳いでプールを渡り、ぎりぎりのところでサメに噛みつかれずに水から上がったのだ。ガイドが男をたたえ、100万ドルをなにに使うのか聞いたところ、男はこう答えた。「探偵を雇うぞ。おれを突き落としたくそ野郎を見つけ出すためにな」

こうした小話やたとえ話、引用などは、全体を通してよくでてくる。バフェット自体の名言もそこに含まれる。いくつか抜書き。和訳は意訳。

 

1987年開催の株主総会にて。この言葉は広く知られている。

... we simply attempt to be fearful when others are greedy and to be greedy only when others are fearful.

ほかの人々が貪欲になるときにわれわれは慎重になり、そしてほかの人々が慎重になったときだけ、われわれは貪欲になるよう心がけている。


1995年開催の株主総会にて。これは真理だと思う。学び続けること、なぜこのようなことが起こるのか問い続けることの重要性を、バフェットとマンガーは繰返し強調している。バートランド・ラッセルはイギリスの哲学者で論理学者、社会批評家であり、1950年にノーベル文学賞を受賞している。

He concluded, quoting Bertrand Russell, “Most men would rather die than think. Many have.”

彼(マンガー)は結びとしてバートランド・ラッセルの言葉を引用した。「頭を使うくらいなら死んだほうがましだという人間がほとんどだ。多くの人間はそのために死んだ」

 

2002年開催の株主総会にて。株式を所有することはビジネスの一部を所有することだということも、バフェットが繰返し口にしていることのひとつ。

...it is helpful to list the qualities you would want in a friend and then seek to instill those qualities in yourself.

友人に求める資質をリストアップし、それをあなた自身が身につけるよう努力するとよい。

The Rosetta Stone of investing is to remember that a stock is part ownership in a business.

株式を所有することはビジネスの一部を所有することだ。このことをわきまえるのが投資におけるロゼッタ・ストーン(※情報解読における決定的な鍵のこと)である。

 

2017年開催の株主総会にて。バフェットはこれまで、研究開発や設備投資に莫大な資金が必要だけれど、成功するかどうか予測がむずかしい、という理由でテクノロジー企業に投資をしてこなかった。しかしGAFAに代表されるソフトウェア産業はわずかな初期投資と運転資金で莫大な利益をあげることができる点で、従来のテクノロジー企業とは異なる。バフェットはそれを認め、アップル社の株式を購入した。ちなみにマンガーは「アップル社の株式を購入するなんて、ウォーレンは気が狂ったか学習したかだね。どうも後者のようだけど」というふうに茶化している。

These five companies (Alphabet, Amazon, Apple, Facebook, Microsoft) require no equity capital to run them. None.

It’s a very different world. It used to be that growing and earning larger and larger amounts of money required large reinvestments of capital. Not so with these top five, which generate almost infinite returns on capital.

これら五つの企業(アルファベット、アマゾン、アップル、フェイスブックマイクロソフト)は自己資本無しで運営できる。全く無しでだ。

これまでとはまったく違う世界だ。成長し、より多くのお金をもうけるためには莫大な投資が必要になるというのがこれまでであった。これらの上位五企業にとってはそうではない。資本に対するリターンはほぼ無限だ。

Buffett noted that intrinsic business value can only be calculated in retrospect: cash generated between now and judgment day discounted back to the present at an appropriate interest rate.

本質的なビジネス価値は従来のやり方でのみ算出できる。現在からこの世の終わりまでに生み出されるお金を、適切な金利で、現在価値に換算することだ。

(※原文のjudgetment day「審判の日」は、世界の終焉後に行われる最後の審判を意味する)

 

感想いろいろ

正直言うと、いまの私の投資知識レベルでは理解がむずかしいところもたくさんあった。保険業界の話題が多いのがなかなかおもしろい。

機関投資家(institutional investor)としてのバークシャー・ハサウェイは損害保険事業からあがる保険料を投資運用しており、1998年にはジェネラル再保険会社との大型合併(実態は全額株式交換による同社買収。ジェネラル再保険は現在では純保証保険料と資本における世界最大の再保険会社)を断行している。ウォーレン・バフェットの「株式の手紙」でもときどき保険業界の話がでてくる。たとえば2019年度の手紙でもふれられていた。

ウォーレン・バフェット 株主への手紙2019(3)保険会社のビジネスモデル、電力事業の強み | トウシル 楽天証券の投資情報メディア

損害保険事業に興味を持った理由は業界のビジネスモデルにあります。損害保険事業は保険料を前払いで受取り、保険金は後日支払います。極端な場合、アスベスト問題や深刻な労災などの為、保険金支払いが何年にも及ぶことがあります。

このようにお金を先に受け取り、支払いが後になるビジネスモデルは、損害保険会社に潤沢な資金―我々が「フロート」と呼んでいるお金―をもたらします。この資金はいずれ他人の手に渡りますが、それまでの間、自分の利益のためにその資金を運用する機会を与えてもらえます。

(余談だが、日本では年金機構が最大の機関投資家である。世界最大規模の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)をはじめ、年金基金による運用額は300兆円を超える。)

 

あわせて読みたい

『バフェットからの手紙』とあわせて読むのがいい。

1930年生まれのバフェットは2022年には92歳になる。後継者問題はしばしば株主総会で質問されることのひとつである。

本書の最終章にあたる2017年開催の株主総会で、バフェットはバークシャー・ハサウェイの後継者は「マネー・マインド」を持った者でなくてはならないと初めて口にした。そのことについて書かれた『バフェットのマネーマインド』が出ているのであわせて読みたい

ちなみにバフェットは「葬式ではどのようなことを言われたいか(どのような人間であったと評価されたいかという意味)」という質問に ‘I want them to all be saying that’s the oldest looking corpse I ever saw.’ (意訳で「これほど高齢の遺体は見たことないと言ってもらいたいね」=長生きしたいという意味)とユーモラスに言ったあと、教えることが好きで、教育面でよい仕事をしたと評価されれば喜ばしい、と答えている。