コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

業務効率化によく役立つけれど、唯一の解決方法というわけではない〜進藤圭『いちばんやさしいRPAの教本』

なぜこの本を読むことにしたか

なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。

①世界の見方を根底からひっくり返す書物、

②世界の見方の解像度をあげる書物、

③好きだから読む書物

この本は②。RPAは「Robotic Process Automation」(ロボティック・プロセス・オートメーション)で、「ロボットで業務プロセスを自動化する」という名のとおり、コンピューター上で各種の繰り返し作業を自動的に行ってくれるものとして、働き方改革の救世主のようにもてはやされており、私の在籍する企業でも導入がすすめられている。RPAの基礎事項をひととおり学ぶために、本書を読んだ。

 

本書の位置付け

本書はRPAの全体像、向いている作業、できることとできないことなどを、実務経験にもとづいて「しくじり先生」的に説明した入門書。

本書の特徴は、RPAの技術的説明や、すでにあるサービスの紹介にとどまることなく、どのように社内向け企画書をたてて稟議を通すか、RPA開発開始したらどのようなサポートを考えなければならないかなど、かなり実践的な部分まで踏み入れていることだと思う。

 

本書で述べていること

RPAは「データにもとづいて予測(推論)や分類を行う」AI(人工知能)より広い概念であると著者は解釈している。RPAが注目されている理由を著者はズバリ言い切る。

RPAが注目されている大きな理由は、「専門知識がなくても扱える」「さまざまなソフトウェアをまたいで複数の作業を一度に自動化できる」「既存のシステムを生かしたまま導入できる」という点が高い利便性をもたらすためです。

RPAが得意なのは、頻度が高く大量に発生する、操作もデータ形式も決まりきった、人間にとっては単純だけどめんどうな繰返し作業。教育コストが少ない(ITにくわしくなくても使える)、大きな投資やシステム改修が必要ない、業務変更が少ないなどのメリットがある。逆にこれにあてはまらない作業、すなわち【変更/例外処理が多い(いちいち組みなおさなければならずかえって手間)】【デザインやルールが複雑(処理が止まってしまうリスクが高まる)】【セキュリティレベルが高い(データアクセスそのものに制限が多い)】などの特徴がある業務には不向き。

本書では技術的側面のみならず、RPA導入企画書作成や現場意見のヒアリング、導入後のアフターケアまで、いわば「会社組織を動かすための」ノウハウまで説明している。

 

感想いろいろ

私の在籍企業では、現場主導で、自分たちの仕事を効率化するためにRPAを導入することとなった。そうなると(あたりまえだけれど)RPAを作成するめんどうさを利便性が上回らなければ、そもそも日々仕事に追われている従業員たちはRPA化などやろうとしない。

なにしろ、ざっと思いつくだけでもこれだけ仕事が増えるのであるーー

①自動化できる作業を洗い出す(しかも規模が大きすぎてはいけないから作業の一部分を切り出したりする)

②関連部署が納得するワークフローに落としこむ

③関連ソフトウェアやデータベースがきちんと整備されていることを確認する

④RPAロボが自動的にアクセスするのに問題無いかどうかすべてチェックする

⑤RPAを作成する

⑥テストする

⑦RPA管理部門に報告、登録する

⑧関連部署に実装して使用してもらう

⑨トラブルがあればアフターケアをする

⑩業務変更があればRPAをバージョンアップする。

(※しかもこれはあくまでRPA導入が決まったあとのお話のみで、全社的に見れば、RPAベンダーそのものの選定、起案、予算獲得、環境構築、管理体制作り、社内説明、リスク評価、内部監査、なんならデモンストレーション、ヒヤリング、試験的導入、問題点洗い出しなども必要になるんである)

これだけ手間がかかるのなら、めんどくせえ自分は知らん、と考えるのが人情ではなかろうか。実際、業務内容を熟知しているベテラン社員は忙しすぎてRPA化に時間をとられることを嫌がり、若手社員はワークフローがよくわかっていないからなにをどうすればよいのかわからず、結局効率的にRPAを導入出来ない、ということがあちこちで起こった。たぶんどの企業でもあるあるだと思う。

この本で提示している「小さな目標を立てる→短期間でRPA開発→検証する→変更点があればすばやく反映する」というやり方は、あくまでモチベーションありき。実際には若手社員がベテラン社員を拝み倒すようにしてほしい機能を聞きだし、RPA開発を行う、ということになるであろう。

となると、RPA開発はつまるところ、若手社員がどれほどしっかりした必要仕様を作成出来るか、ということを問うていることになる。ここをどう支援したものか……若手社員とベテラン社員のコミュニケーションのよしあしは企業文化にもよるだろうが、トップダウンで「この件については若手社員に全面協力すること」などと社長命令をだすのが現実的な方法だと思う。

このような面から考えると、本書で言及されている実務関連のノウハウは、若手社員にとっては相当助かる情報である。技術的にすぐれているだけではなく、会社という組織をどのようにして動かすべきかをていねいに説明してくれているところがミソ。お勤めの企業でRPA導入のうわさが聞こえてきたら、本書を一読しておくとけっして損はしない。