コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

ブロックチェーンとはなんだろう?〜杉井靖典『いちばんやさしいブロックチェーンの教本』

なぜこの本を読むことにしたか

なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。

①世界の見方を根底からひっくり返す書物、

②世界の見方の解像度をあげる書物、

③好きだから読む書物

この本は②。最近気になる投資分野として、IT関連技術についての初心者向け解説書を読んで勉強している。ちなみにほかに気になるのはエネルギー、化学産業(とくに医薬品)、食品。不動産はちょっと性格が異なるけれどこれも気になる。

 

本書の位置付け

さまざまな要素技術がからむ複雑系であるブロックチェーンを過不足なく説明することは簡単ではない。本書はブロックチェーンを技術畑以外の読者にも理解できることに挑戦した、初心者向け解説書。

 

本書で述べていること

広義のブロックチェーンは分散型台帳技術(Distributed Ledger Technology:DLT)の一種。なおブロックチェーンの特徴として、仮想通貨記録でいえば、記録されるのはウォレットアドレス間取引(トランザクションという)履歴だけである。ウォレットアドレスにある仮想通貨の総数は記録されず、取引履歴から都度計算される。

著者はブロックチェーンの特徴をまとめている。

  • データは複数の参加者に確認されルールに従った書式のものだけが記録されること
  • 参加者全員によって合意されたデータだけが有効となる約束で運用されていること
  • 耐改ざん性のあるデータ構造(ハッシュチェーン構造)を持っていること
  • 改ざんしようとすると即時検出され、そのデータが破損していると認識されること
  • 破損データは正常なデータを持つほかの参加者から取り寄せて自動復旧できること
  • 一度書き込まれたデータは変更も削除も誰にもいっさいできないこと
  • システム全体を止めることは誰にも不可能なこと

本書では、これらの特徴をそれぞれ技術面から説明することで、ブロックチェーンの全体像を示そうと試みている。要素技術として、改ざん検出の仕組み(ハッシュ関数)、電子署名の仕組み(文書のハッシュ値秘密鍵で暗号化したもの)、電子証明書の仕組み(公開鍵を本人確認とともに認証機関に提出し、公開鍵に必要情報を加えて認証機関の秘密鍵で暗号化したものを電子証明書として発行)、タイムスタンプの仕組みなどがある。

また、なぜ仮想通貨の登場が必然的であったかも解析している。すべての取引依頼はまず「トランザクションプール」に保管され、 マイニングが成功したマイナーによって承認されて初めてブロックチェーンに取り込まれる。このときある一定の手数料がマイナーに入る仕組みで、手数料がゼロだといつまでたっても承認されない可能性がある。

ブロックチェーンの最大の発明は、分散合意形成に経済インセンティブの概念を付与したことによって、母集団を特定しない不特定多数の参加者による実用的な合意形成を達成したことです。このために副産物として生まれた概念が「仮想通貨」(コイン)なのです。

 

感想いろいろ

少し前に、ドイツ警察がロシアの闇販売サイト “Hydra” の閉鎖及び2,300万€相当の仮想通貨押収に成功したというニュースを目にした。 “Hydra” はロシア語表記の不法物資販売サイト。捜査の末、ドイツのサーバー提供業者がホストであることが判明したという。手法についてはあまりくわしくふれられていないが、ある方法からウォレットアドレスを入手できたのであり、ブロックチェーンそのものの機密性が破られたわけではないらしい。

Hydra: How German police dismantled Russian darknet site - BBC News

ブロックチェーンのような優れた技術が実用化されれば、いうまでもなく、ブロックチェーンのような機密保持技術を破ったり、「自分の秘密は保持するが他人の秘密はのぞき放題」の状態に持ちこもうとしたりするのに情熱をかたむける人々がでてくるものだ。東野圭吾の小説『プラチナデータ』のテーマはこのまんまである。

ブロックチェーン自体を破るの不可能だとしても、ウォレットアドレスを入手できれば仮想通貨を盗むことはできる。仮想通貨取引所がターゲットになりやすいほか、ノードの役割を担うパソコンそのものをハッキングして仮想通貨を盗む事件が実際に起きている。たとえるならば、金庫破りは不可能でも、金庫の鍵を盗んだり、金庫所有者のふりをしたりしてお金を移動させるのはできるということか。

740億円相当の仮想通貨盗まれる、過去最大級の暗号資産ハッキング(Bloomberg) - Yahoo!ニュース

 

あわせて読みたい

ブロックチェーンの技術を語るうえで、もっとも重要な技術といえるのが「一方向ハッシュ関数」で、暗号技術分野で頻出する。『暗号技術のすべて』は外せない。以前読んだときの読書感想はこちら。

秘密を守るために読む本『暗号技術のすべて』 - コーヒータイム -Learning Optimism-

ブロックチェーンでよく使われるのは「楕円曲線暗号」(ECDSA)という公開鍵暗号だが、一般的なの仕組みを、アルゴリズムの面からわかりやすく解説している『世界でもっとも強力な9のアルゴリズム』もあわせて読みたい。読書感想はこちら。

【おすすめ】素晴らしく分かりやすいコンピュータのルールブック『世界でもっとも強力な9のアルゴリズム』 - コーヒータイム -Learning Optimism-

ブロックチェーンのもっとも有名な応用例である仮想通貨ビットコインについての解説書も必読。ビットコインは「マイニング」という計算競争作業(これ自体がブロックチェーン記録内容に関する合意形成アルゴリズムの一部分である)を行い、最初に答えを導き出した勝者に、ビットコインを新規発行し、ブロックを1つ作る権利が与えられる。計算競争であるから、使用されるコンピュータの性能と計算速度に大きく左右される。

私が読んだビットコイン解説書の感想はこちら。

1時間でわかるビットコイン入門 (小田玄紀著) - コーヒータイム -Learning Optimism-