コーヒータイム -Learning Optimism-

18歳のわが子に読書をすすめるために、まずわたしが多読乱読しながらおすすめを探しています。英語書や中国語書もときどき。

【おすすめ】国際標準化という市場寡占の強力な武器〜原田節雄『実録交渉の達人』

 

なぜこの本を読むことにしたか

なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。

①世界の見方を根底からひっくり返す書物、

②世界の見方の解像度をあげる書物、

③好きだから読む書物

この本は①。国際標準化において「硝煙なき戦争」の最前線に立ちつづけた交渉人の記録。

中国ではこう言われる。三流企業が製品を製造し、二流企業が技術を開発し、一流企業が標準を制定する、と。本書を読めば、この言葉の意味するところがよくわかる。技術だけではなく、特許だけではなく、国際標準化もまた、市場獲得競争に勝つための強力な武器だ。

イムリーなことに、次世代暗号化通信方式の標準技術競争にNTTが惜しくも敗れたことが報道されたばかり。日本経済新聞報道のリンクを貼っておく。

量子時代のネット暗号にIBMの技術 NTT方式は落選: 日本経済新聞

 

感想いろいろ

正直言うと、まえがきでこの部分を読んだとき、ショックのあまり読むのをやめようかと考えた。

国際標準化という企業同士が争う戦場で力もカネも技術もない日本が勝利するのは、絶望的な状況になった。米国も欧州も中国も、すでにマイナーな日本の味方ではない。
本書で取り上げた事例は、日本にとって最後の輝きだったのかもしれない。

わたしは夢を抱いている。いつの日か国際標準をつくることに関わりたい、国際標準を使用する側ではなく、作成する側に立ってみたいという夢。しかしこの本の著者によると、日本にいれば、わたしの夢をかなえるのは絶望的だという。(それ以前にほぼ完璧な英語を操れることが交渉人の必須条件で、この点でもわたしは力不足だが)

それでも本書を読まずにはいられなかった。

読み終わり、読んでよかったと心から思えた。将来自分がどのような能力を身につけていなければならないか、そのためにいまからどんなことができるのか、はっきりと思い描くことができたから。

ほぼ完璧な英語。

国際標準案の内容を理解する専門知識。

搦め手をふくむ交渉術の心得。

敵を知り己を知り、全体像をつかむための調査力・理解力・洞察力。勝つ戦略を立てるための立案力。

海千山千のライバルたちを相手に、己の所属組織が最大限利益をもぎとるための戦いを仕掛ける度胸。

最低限でもこれだけの武器が必要だ。

この本を読んでいるとき、山崎豊子華麗なる一族』の主人公である阪神銀行の万俵頭取が、店舗新設のためにライバル銀行や大蔵省銀行局(当時)とギリギリの駆け引きを続ける部下にかけたひとことが、何度も思い起こされた。

「もちろん、最後は政治ベースの話合いになるだろうが、そこが君の腕の見せどころだ」

 

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【「スゴ本」中の人が薦める】技術書は教えてくれなかった。悩めるエンジニアに新たな考え方をもたらす6冊 | レバテックラボ(レバテックLAB)

記事のこの部分を見た瞬間、読もうと決めた。

この本を読めばわかる。かつてのわたしが失敗したのは、「なぜできないのでしょうか?」という質問に、答えようとしたからだ。

(......)

それは罠だ。できない理由を裏返すと、それさえクリアすればできるから、それをクリアするための方法を皆で考えよう、という流れになってしまうから。

正しくは、「その質問に、なぜ私が答えなければならないのか?」という視点だ。

私はこのことをある上司から学んだ。その人は社内では厳しいことで有名であった。なにかを問いかけられると常に「なぜこの質問が自分(もしくは自分の所属部署)に向けられたのか?」「この質問に自分が答える必要はあるのか?」「得られた答えはどんなことにどのように使われるのか?」を徹底的に確認して、納得出来なければ答えようとしなかった。

私自身は、聞かれるとつい答えようとしてしまうため、最初は上司がはぐらかしているようにしか思えず、なぜこのようなやり方をするのか理解出来なかった。いまなら、これがどれだけ大切な視点なのかわかる。5年以上にわたるつきあいで、これらの視点をたたきこんでくれた上司には感謝しかない。

議論の技術とはまたすこし違うものの、交渉の技術も役に立つことが多い。私が読んだ中で一番優れていると感じたのはこの本。読書感想を参考までに。

【おすすめ】交渉の達人 ハーバード流を学ぶ (ディーパック・マルホドラ、マックス・H・ベイザーマン著) - コーヒータイム -Learning Optimism-