コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

世の中先はわからない。これが本質である〜田淵直也『不確実性超入門』

なぜこの本を読むことにしたか

なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。

①世界の見方を根底からひっくり返す書物、

②世界の見方の解像度をあげる書物、

③好きだから読む書物

この本はダニエル・カーネマンの名著『ファスト&スロー』を読んだ人にとっては②であり、それ以外の人にとっては①であろう。

 

本書の位置付け

タイトルに「超入門」とあるように、不確実性というものの本質をなるべくわかりやすく、多少表現がぶれても読者にとどきやすくなるよう工夫された入門書である。それでもカーネマンいうところの「システム2」、すなわち論理的思考を意識しつつ、あれこれうるさい「システム1」、すなわち直感的思考を無視しながら読み進める必要がある。

著者は証券会社出身の現役トレーダーであり、本書は株式投資における不確実性をメインにとりあげているけれど、株式投資にかぎらず、プロジェクト遂行や経営一般でも学ぶべき内容となっている。

 

本書で述べていること

未来=〝すでに起きた未来〟(予測可能な未来)+不確実性(予測不可能な未来)

この公式の後半、すなわち不確実性はいつも過小評価されてきた。無理もない。人間にはもともとそういう心理的傾向がそなわるのだから。たまたま起こったできごとに理由を求め、未来は現在の延長線上にあると盲信し、充分な情報と計算能力があれば未来を精度高く予測できるはずだと信じこむ。とくにウォール街クオンツ(数学的手法を駆使して株価予測したり投資商品を開発したりする数学や物理学のエリートたち)は「ザ・トゥルース」、すなわち株価予測を完璧なものにする真の理論を追い求めているとまことしやかにささやかれる。

しかし、このアプローチは間違いである。不確実性、すなわち予測できないところは決してゼロにはならないものなのだから。

 

不確実性の性質として「ランダム性」「フィードバックが生み出すカオス的不確実性」がある。

ランダム性の世界では、サイコロ振りに代表されるように、ひとつひとつの出来事を積み重ねると、出来事の発生しやすさがある確率をもつことが明らかになる。しかしサイコロを振る前は6の目が出る確率は1/6だが、振ったことで6の目がでるとそれは「確定事実」になり、サイコロの目がそもそもランダムであることは無視され、後付け解釈で「なぜサイコロは6の目を出したのか」という分析が山のようになされるのが世の常。

ランダムなできごとは正規分布に従うが、実際には、ひどく低確率の出来事がわりと起こることがある。これを説明するのがフィードバックという現象。ある株価下落が投資家の売りを呼び、そのために株価下落がすすみ、さらに売りを呼ぶといういわゆる「悪循環」のように、結果が新たな原因となってある出来事がどんどん加速することである。フィードバックはわずかな差でどちらにころぶかわからず、そこにランダムな要因もからむため、個々のプロセスは原因と結果があって予測可能にもかかわらず、全体として予測不可能になり、原因と結果の大きさはしばしばつりあわない。これを物理の世界においたのが「カオス理論」であり、フィードバックが生み出す不確実性の正体である。

本書ではこの不確実性に「予測」をもって挑もうとするのは無理だと言い切り、予測不可能な出来事はそもそも起こるものだから、われわれにできることは、できるだけ多くの状況を想定しつつ、予想外の出来事が起きても一撃でノックダウンされないように備えることである、と説明する。

100%確実なことなどない。将来におけるすべてのことは確率的に捉える必要がある。そして、一回一回の結果ではなく、長い目で見たトータルの結果でその成否が判断されなければならない。これが、不確実性に対処する一大原則なのである。

不確実性への対処を考えるとき、時間軸を意識することはとても本質的で、重要なことである。不確実性のおかげで、短期的には、間違ったやり方でも成功することがあり、また正しいやり方でもうまくいかないことがあるからだ。原因と結果が直接的に結びつかない不確実性のもとでは、正しいやり方の効果は長期的にしか現れない。

 

感想いろいろ

不確実性に満ちているのが世の本質だが、人間はそれを理解しづらい精神構造(心理バイアス)をもつからいろいろややこしくなる、というお話。

そもそも不確実性が問題になるのは精度の高い未来予測をしたいと思うからで、その根底には科学技術の発展を過信したあげくの傲慢やら、未来予測で株式市場やギャンブルでひともうけしたいという欲望やらが横たわる。科学技術の最先端である量子力学では「物理の根底に、事前には確率しか存在せず、計算によって将来を正確に予測することが原理的に不可能であるという真のランダム性が存在することが明らかとなった」(本文より)という論理的帰結がでているのだが、たいていの人間がそれを理解できずに「数学的モデルをうまく組めば未来予測はできるはず!」と夢見続けるという皮肉付き。

わたしは本書のこの言葉が好きだ。

不確実な世界では、うまくいくこともあればうまくいかないこともある。うまくいくときにできるだけ波に乗るということも重要だが、その前にまず重要なのは、うまくいかないときに再起が不能になるほどの致命的な損失を被って、次にうまくいくかもしれない機会を永遠に失うことがないようにすることだ。 予想外に悪いデキゴトが起きたときにでも、損失が致命的なものにならないようにコントロールしていくことが決定的に重要になる。これが、リスク管理の本質だ。

 

あわせて読みたい

ダニエル・カーネマンの名著『ファスト&スロー』は必読。ブログ記事は以下のとおり。

【おすすめ】ひとはいつでも合理的、ではない〜ダニエル・カーネマン《ファスト&スロー》 - コーヒータイム -Learning Optimism-

ウォール街クオンツたちについて書かれた本も。

ザ・クオンツ 世界経済を破壊した天才たち (スコット・パタースン著) - コーヒータイム -Learning Optimism-