コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

<英語読書チャレンジ 8/100> E.Brown “To Raise a Boy”(邦題『男子という闇』)

思いつきで英語の本100冊読破にチャレンジ。ページ数100以上、ジャンルはなんでもOK、最後まできちんと読み通すのがルール。期限は2023年3月末まで。

本書の邦訳タイトルは『男子という闇』。原書タイトルは直訳すれば『男の子を育てるということ: 教室、ロッカールーム、寝室、そして隠されたアメリカにおける少年時代の葛藤』。

 

なぜこの本を読むことにしたか

なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。

①世界の見方を根底からひっくり返す書物、

②世界の見方の解像度をあげる書物、

③好きだから読む書物

この本は①。著者はワシントンポストの記者で一男一女の母親。男性による性的虐待事件の報道にショックを受け、自分の息子がこうならないよう育てるにはどうすればよいか調べ始めたが、やがて、男性もまた暴力や性的被害にさらされていること、それにもかかわらず「男は強くあれ、弱音を吐くな、助けを求めるな」というステレオタイプにかくれて被害が見えなくなっていること、そうした被害者の一部がやがてみずから暴力事件や性的虐待事件を起こしてしまうことを知る。

 

本書の位置付け

タイトルこそ子育て本のそれだが、内容はいわゆる子育て本ではなく、社会問題を扱った本。記者が書いただけありとても読みやすい。専門家を含む複数の関係者に取材し、未成年男子や成人男性を被害者とする暴力事件や性的虐待事件の実情、問題の背景にひそむ社会のありかたの欠陥をさぐる、典型的なドキュメンタリー仕立て。

 

本書で述べていること

未成年男子の6人に1人はなんらかの性的被害を受けたことがあり、性的被害者の75%は加害者が同年代であった、という、かなりショッキングな統計情報から本書は始まる。性的快楽のためではなく、支配欲を満足させ、力関係を見せつけるために、下級生男子をビリヤードキューなどで虐待する上級生もめずらしくない。

しかし性的被害がからむ事件では「男は加害者、女は被害者」の図式が強すぎるうえ、未成年男子の場合、加害者はしばしば同じ学校の生徒やスポーツクラブのチームメンバーであるため、性的被害を訴えたところで「悪ふざけをしていただけだろう」と、あまり真剣に受けとられないのが現実だ。

とりあげられているテーマには身近なものが多く、読みやすい。日本では「しごき」「可愛がり」とも呼ばれる部活動などでの暴力行為。男の子に多様性を認めず男らしさを強要する教育。性教育不足やポルノなどによる偏った性知識。地域や人種によっては13歳になる前に25%の男の子が性体験をするといわれる若者の性体験問題。未成年へのセクハラ問題などなど。本書はアメリカのデータを参照することが多いが、複数国にまたがる調査をした研究者によると、男性にありがちなさまざまな問題は、居住国や人種、文化などによらず普遍的にみられるという。

著者が強調しているのは、子どもたちに性について教える責務は大人にあるということ。No means no. (嫌と言ったら嫌)というようなフレーズで教えた気になるのは間違い。二人ともーー男性側も女性側もーー「性体験したい」ときちんと思えているのでなければ性体験をするべきではないし、相手を思いやり、相手の言葉や身ぶりなどから気持ちをきちんと汲みとるべきである。このようなことは繰りかえし教え、話しあい、意見を交わして初めて身につくものであり、子どもたちが自分自身を性被害や性加害から守るために、なくてはならない知識である。

 

感想いろいろ

この本は、男性は女性に対する一方的な加害者ではなく、男性自身が被害者になりうるものであり、しかもその被害は明るみに出ないことが多いという点を示すことで、男性のあり方についての私の考え方を大きく変えた。

著者はこの現象を「男らしさにこだわりすぎる」ためであるとして、そのような価値観は知らず知らず刷りこまれる、と指摘する。

結局のところ、子どもたち自身がどのような人間になりたいかを大人がきちんと聞くべきだし、自分自身やパートナーを守るための性知識をきちんと教えなければならない。非常にセンシティブな話題であることは間違いないけれど、避けていてもはじまらない。これが本書のメッセージであろう。実際のやり方についてはいくつかヒントが与えられているものの、結局は家庭それぞれになるのかもしれない。