コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

<英語読書チャレンジ 12 / 365> D.Yergin “The Prize: The Epic Quest for Oil. Money & Power”(邦訳『石油の世紀: 支配者たちの興亡』)

思いつきで英語の本365冊読破にチャレンジ。ページ数100以上、ジャンルはなんでもOK、最後まできちんと読み通すのがルール。期限は2025年3月20日

本書の邦訳タイトルは『石油の世紀: 支配者たちの興亡』。原書タイトルは直訳すれば『報奨: 石油、カネと権力についての壮大な探究』というところ。

なぜこの本を読むことにしたか

なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。

①世界の見方を根底からひっくり返す書物、

②世界の見方の解像度をあげる書物、

③好きだから読む書物

この本は①。本書は近代歴史そのものを石油を中心に据えて再構築したもの。石油の存在により近代史がどれほど影響を受けたのか、目から鱗の一冊。

 

本書の位置付け

本書はいわば「石油の流れから見た近現代史」である。19世紀半ばから始まる石油産業が、各国政権や経済界、戦争推移にかかわりながらどのように発展を遂げてきたかについて、詳細までまとめている。著者によれば本書は「これまで石油がたどってきた歴史についての本というだけではなく、エネルギーがどのように世界をつくり変えるのかを理解するための本」。

内容はわかりやすいのだが、情報量がとてつもないので、初心者向けとはいえない。しかし持続可能性やら再生可能エネルギーやら水素社会やらの単語がメディアに登場しない日はないといっていいこの時代には、エネルギーの変化により世界がどのように姿を変えうるか探究するために、なくてはならない一冊であるといえる。

 

本書で述べていること

とにかく重厚長大本だから読むには時間がかかるが、著者は序章で3つの視点を示しており、本書もこの流れで石油の歴史を解説している。これをふまえて読めばわかりやすい。

 

1. 石油を「最重要かつ最大規模産業の主役」としてとらえる視点

初期の石油産業は、灯油や燃料油、潤滑油製造をもとに発展した。とくに灯油利用ーーすなわちケロシンランプーーが普及することでいわゆる「効果的な夜型生活」ができるようになり、産業社会の生産性が向上した。それまでもオイルランプ、松明、提灯などで明かりをとることはできたが、ケロシンランプの明るさと安定さは段違いであった。(その後電灯にとってかわられるのだが)

本書ではケロシン販売からはじまる石油会社の黎明期、各国でさまざまな国有企業や民間企業が設立され、ついに一大産業まで成長するさまが詳細に語られる。アメリカではかのロックフェラーがスタンダードオイルを設立するが、のちに分裂し、エクソン、モービル(いまは合併してエクソンモービルとなっている)など、21世紀まで続く世界的石油企業の前身となる。

 

2. 石油を「国家安全保障戦略や国際外交と分かちがたく結びついた戦略物資」としてとらえる視点

第一次世界大戦は人間と機械の戦争であった。機械は石油を動力源としていた。」

この言葉を始まりとして、本書は20世紀初めの海軍を皮切りに、軍事設備がそれまでの石炭から石油に切り替えていったプロセスをたどる。とくに第3部ではまるまる4章を割いて、第二次世界大戦頃の日本とドイツのエネルギー政策、石油確保手段を解説している。

満州事変直前の日本では、石油はエネルギー消費量の1割未満であったが、そのほとんどが軍事産業と船舶産業用であり、80%をアメリカからの輸入に頼っていた。日米間の緊張が高まるにつれて、アメリカは対日石油輸出制限を主張するようになる。1941年11月、東條英機首相は御前会議で「このままでは2年で軍事用石油は底をつく」と主張し、日米開戦を強硬に後押しした。真珠湾攻撃とほぼ時を同じくして、日本は石油を求めてオランダ領東インドニューギニア島西部を含む現在のインドネシア)に進出し、あらゆる手段で石油供給を確保しようとしたが、やがて著者が皮肉をこめて語るように「日本の石油タンクは空になってしまった」。

 

3. 石油を「社会活動で必要不可欠な物資」としてとらえる視点

第二次世界大戦以降、石油は燃料油としての利用だけではなく、石油化学製品の利用として、さらに需要を拡大させた。もはや石油製品は「あれば便利」ではなく「なくてはならない」存在となる。

 

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