コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

<英語読書チャレンジ 36 / 365> M. Lewis “The Premonition: A Pandemic Story”(邦訳タイトル『最悪の予感 パンデミックとの戦い』)

英語の本365冊読破にチャレンジ。原則としてページ数は最低100頁程度、ジャンルはなんでもOK、最後まできちんと読み通すのがルール。期限は2025年3月20日

本書は新型コロナウイルスパンデミックにより広く読まれた。邦訳タイトルは『最悪の予感 パンデミックとの戦い』。原書タイトルも同様の意味。

本書は新型コロナウイルスパンデミックが起こる初期の物語。ウイルスがどれほどの伝染力をもち、どのような症状を引き起こしうるのかまったく情報がなく、アメリカではほとんどの人が中国でなにか病気が流行り始めたことを気にかけてもいなかったころ、ごく一握りの専門家がいちはやく危機感をもち、警告を発し、アメリカでのパンデミックを阻止しようと奔走していた。

これはそんな彼らの物語。無関心なホワイトハウス官僚主義で事なかれ主義のCDC (Centers for Disease Control and Prevention、アメリカ疾病予防管理センター)、公衆衛生というものをまったく重視せず定年までの腰掛けとしか思っていない医師たち、非協力的な同僚たち。彼らはウイルスよりもまず人間と戦わなくてはならなかった。
そもそもCDCの事なかれ主義は一朝一夕のことではない。カリフォルニア大学サンタバーバラ校で、学生たちの間で髄膜炎菌性髄膜炎の流行が疑われたとき、当時環境衛生官であったチャリティ・ディーンはCDCに連絡をとり、そのことを嫌というほど味わう。髄膜炎菌性髄膜炎と断定する証拠がない、このままなにもせずに状況観察をするべきだ、というCDCの回答に彼女は憤慨する。CDCは科学実験かなにかのように流行性髄膜炎がキャンパスにどのように広まるのか観察する気でいる。そんなことをすればどうなるか。髄膜炎菌性髄膜炎の潜伏期は2-10日、致死率は10-15%である。すでに重症化して両足切断した子がでているのだ!

The root of the CDC’s behavior was simple: fear. They didn’t want to take any action for which they might later be blamed.

ーーCDCのふるまいの根底にあるものは単純です。恐れです。どんなことであれ、後々責められるかもしれない行動は起こしたくないのです。

CDCに期待するだけ無駄だと見限ったチャリティをはじめとする専門家たちは情報収集に奔走する。中国からごくわずかずつ漏れ聞こえる現地状況、感染者が出たために横浜港で足止めを余儀なくされた豪華クルーズダイヤモンド・プリンセス号での感染者推移、中国から多くの観光客やビジネスパーソンが訪れるアジア諸国の水際対策。ドキュメンタリー仕立てで一気に読める内容ながら決して飽きさせることがなく、アメリカの公衆衛生対策の問題点、その中でできるだけのことをしようと奮闘する専門家たちの使命感は、コロナ禍の惨状、未だワクチン開発の見通しがたたない状況の中で際立つ。

ーー2022年11月17日現在、アメリカの累積感染者数は9,792万人、死亡者数は107万人(端数切捨て)である。