コーヒータイム -Learning Optimism-

18歳のわが子に読書をすすめるために、まずわたしが多読乱読しながらおすすめを探しています。英語書や中国語書もときどき。

<英語読書チャレンジ 37-38 / 365> J. Herriot “All Things Bright and Beautiful” “All Things Wise and Wonderful”

英語の本365冊読破にチャレンジ。原則としてページ数は最低100頁程度、ジャンルはなんでもOK、最後まできちんと読み通すのがルール。期限は2025年3月20日

イギリスの古き良き田舎町を舞台に獣医の奮闘を描くシリーズを読む。著者のジェームズ・ヘリオットはノースヨークシャーに住むベテラン獣医。本作は著者自身の体験を題材にした自伝的ノンフィクションで、人間も動物もとにかく個性豊かでめちゃくちゃ面白い。荒川弘の酪農漫画『銀の匙』『百姓貴族』が好きならぜひぜひ読もう。

シリーズ1冊目の読書感想を置いておく。

【おすすめ】新米獣医のあたふた奮闘記〜J. Herriot “All Creatures Great and Small” - コーヒータイム -Learning Optimism-

 

シリーズ2冊目。著者が本を書いた時点から30年ほど時をさかのぼり、1930年代頃に経験したことをまとめたもの。48篇の短篇からなり、ある程度時系列はあるものの、主要登場人物(著者自身と妻ヘレン、獣医診療所の共同経営者であるジークフリードとその弟トリスタン)をおさらいできれば、どこから読み始めてもそれほど支障はない。

1930年代といえばヨーロッパ中を第二次世界大戦の影が覆いつくそうとした頃だが、著者は戦争にはほとんどふれず、家庭生活、診療所生活、患畜(馬、乳牛、山羊、羊、犬などなど)とその飼主たちの思い出話をユーモラスにつづる。しかし避けられぬ結末 として、終章で著者は "call-up papers" ーー召集令状ーーを受け、愛する妻を残してロンドンに発つ。

そこに至るまでの日々は温かい記憶に満ちている。結婚前にヘレンの家を訪問したとき、ヘレンの父親と同席させられ、会話が盛り上がらずに冷や汗たらたらで緊張していた場面では、食事の描写が「イギリス料理は不味い」という思い込みを吹き飛ばす。

This wasn’t easy as the table was already loaded; ham and egg pies rubbing shoulders with snowy scones, a pickled tongue cheek by jowl with a bowl of mixed salad, luscious looking custard tarts jockeying for position with sausage rolls, tomato sandwiches, fairy cakes. In a clearing near the centre a vast trifle reared its cream-topped head. It was a real Yorkshire tea.

ーーテーブルの上はすでにいろいろあったから、ケーキを置く場所を見つけるのは簡単ではなかった。ハムと卵のパイは雪のように白いスコーンと肩をこすりあわせ、塩漬け牛タンとミックスサラダが盛られたボウルが密接し、美味しそうなカスタードタルトがソーセージロール、トマトサンドイッチ、パウダーシュガーを振りかけたカップケーキと場所をとりあう。テーブルのほぼ中央の空間にはクリームがかかった巨大プディングが鎮座している。これぞ本物のヨークシャー風昼食である。

夫に先立たれ、8歳、5歳、2歳の息子を抱えるダルビー夫人が、子どもたちのために女手一つで農場を経営しようとする話には感動せずにはいられない。呼吸器系を侵す寄生虫により牛を半分近く失い(初期症状が出てすぐ駆除するべきであったが、ダルビー夫人は経験不足のため治療のベストタイミングを逃した)、翌年に銅欠乏症で仔牛たちがひどい体調不良になるなどの災難に見舞われ、苦労に苦労を重ねながら息子たちをみごと育て上げ、引退した近隣住民の農場を買い上げて新婚の長男に住まわせている。そんなダルビー夫人の初登場場面から、著者は彼女のもてなしの心と芯の強さをとても好ましく思っているのが伝わる。

The hospitable Dales people were continually asking me in for some kind of refreshment—a “bit o’ dinner” perhaps, but if it wasn’t midday there was usually a mug of tea and a scone or a hunk of thick-crusted apple pie—but Mrs. Dalby invariably set out a special tray. And there it was today with a clean cloth and the best china cup and saucer and side plates with sliced buttered scones and iced cakes and malt bread and biscuits.

ーー親切な(ヨークシャー・)デールの住民はよく私になにかつままないか聞く。「ちょっとした昼食」にお呼ばれされるときもあるが、お昼時でなければ、たいていマグカップに入った紅茶とスコーンか分厚いアップルパイが一切れ出てくる。しかしダルビー夫人は必ず特別なお盆を出してくる。この日お盆には清潔なクロスが敷かれ、一番良い中国磁器のソーサー付きカップが乗っていた。そばの皿には薄く切られバターを塗られたスコーン、冷えたケーキ、麦芽パン、ビスケットが盛られていた。

著者は "Farmers? They were the salt of the earth."と書く。salt of the earthは直訳すると「地の塩」。新約聖書「マタイによる福音書」の第5章13節に、イエスの教えに従う者は地の塩のように貴重で価値があるという言葉がありーーもちろん人は塩なしで生きることができず、冷蔵技術が発展する前は保存食作製に塩が不可欠だったから、イエスの時代の塩はとてつもなく重要であったーー、転じて善良な人々を指す。ちなみにこの言葉が登場するのはある雪深いクリスマスのことを書いた章で、朝6時に電話でたたき起こされて往診先でさんざんな目に遭わされながら、やはり自分はこの地域に馴染んでいるのだとさとりを開く(?)場面。なかなか味わい深い。

 

シリーズ3冊目。妊娠中の妻ヘレンを残し、召集令状を受けて英国空軍二等兵 (Aircraftman 2) としてロンドンに出発したときから、除隊した日までを書く。

著者は、過酷な訓練の日々と、ヨークシャーで獣医と過ごした思い出の日々との間を行き来する。幸運にもヨークシャーが訓練場所に指定されたときにはこっそり外出して臨月のヘレンに会いに行き、産まれたばかりの我が子が(仔牛や仔馬に比べれば)あまりにもしわくちゃなのでどこか悪いのではないかと口走って助産婦を激怒させるなど、厳しい環境ながらどこかユーモラスで温かみのある文章が続く。