コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

<英語読書チャレンジ 45 / 365> D. Simmons “Hyperion”(邦題《ハイペリオン》)

英語の本365冊読破にチャレンジ。原則としてページ数は最低100頁程度、ジャンルはなんでもOK、最後まできちんと読み通すのがルール。期限は2027年10月。

本書は超有名古典SFにして「徹夜本」といわれる傑作。英語版で少しずつ読み進めた。

星間旅行と超光速通信が実現され、銀河系にちらばるさまざまな惑星に人間が入植したはるか未来のお話(地球はなんらかの原因ですでに消滅していることがほのめかされている)。ある無人惑星で領事としておだやかな日々を過ごしていた男(名前は明かされない)が、上司命令で〈ハイペリオン〉という辺境の惑星に向かうことになる。目的は〈時間の墓場〉と呼ばれる場所の謎を解くこと。

領事は気が向かないながらも、〈シュライク〉と呼ばれる「物理法則を無視した」怪物(シュライク=百舌鳥という名前で、そいつが犠牲者になにをするのかがほのめかされている)が〈時間の墓場〉のまわりをうろつき、シュライクを荒ぶる神としてあがめるシュライク教団なる邪教集団が根付くハイペリオンを目指す。名目はシュライク教団に選ばれた巡礼者の一人である。同じ名目で宇宙船に同乗するのは領事を含む8人の男女(うち一人はまだ産まれてまもない赤ちゃん)。旅の途中、7人はそれぞれ、なぜ自分が巡礼者に選ばれたのかを語り始める。それはそのままそれぞれの半生記でもあったーー。


最初のホイト神父が語るオチでぎぃやああ!!以外の感想が浮かばないくらい衝撃を受けたが(マジで地獄第七層にたたきこまなくても……。「聖十字架に呪いあれ!その願望に災いあれ!」と叫びたくなる)、これはまだ1人目。詩人がハイペリオンでビリー悲嘆王と呼ばれる統治者の時代のできごとを詠み、学者が娘(巡礼の旅に連れてきた赤ちゃんである)にふりかかった過酷な運命を明らかにする。それぞれが紡ぐ想像を絶するものがたりの中で、〈時間の墓場〉の秘密、シュライクが「物理法則を無視した」怪物と呼ばれる理由がしだいに明かされる。伏線が張り巡らされ、謎が謎を呼び、やがて遭遇するであろうシュライクと〈時間の墓場〉が巡礼者たちに牙を剥く瞬間がすぐそこまで迫るーー。

 

ハイペリオン」「ハイペリオンの没落」「エンディミオン」はそれぞれイギリスの詩人キーツの作品名をなぞらえている。ハイペリオン (Hyperion) は英語読みで、ギリシャ語風にいえばヒュペリーオーンギリシャ神話にでてくるウラノスとガイアの息子の一人(ウラノスはクロノスの父、最高神ゼウスの父の父にあたる)の名前で「高みを行く者」の意味。7人の巡礼がそれぞれ物語を聞かせる構成はいうまでもなくチョーサーの《カンタベリー物語》のオマージュ。このように小説自体にもその背景にも二重三重の味わいがある。シリーズ1作目ゆえ続きが待ちきれない。