コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

<英語読書チャレンジ 67-68 / 365> R. Green “True Crime”シリーズ

英語の本365冊読破にチャレンジ。原則としてページ数は最低50頁程度、ジャンルはなんでもOK、最後まできちんと読み通すのがルール。期限は2027年10月。20,000単語以上(現地大卒程度)の語彙獲得と文章力獲得をめざします。

Kindle Unlimited洋書版で発掘したTrue Crimeシリーズ。欧米社会を震え上がらせた猟奇殺人事件についてのノンフィクションで、表紙におどろおどろしい犯人(達)の写真や犯罪内容のイメージ画像などををつけている。

犯罪は「二度と繰り返さない」との決意のもと、一定期間ごとにドキュメンタリーなどで犯行詳細、防止策、被害者や遺族のその後がとりあげられ、しだいに社会全体の記憶となり、社会的同意が形成されればしばしば法規制さえ変える。日本でいえば、大阪教育大学池田小学校での児童無差別殺傷事件をきっかけに小学校防犯の見直しが行われたのが典型例だと思う。

しかし外国で起きた犯罪というのはよほどのことがなければ案外覚えていないもので、とくに本シリーズでとりあげられるのはいずれも日本では報道しづらそうなものばかり。いくつか選んで読んでみた。

ハロルド・シップマン。医師。この白黒反転した表紙からはおどろおどろしさを感じるが、ふつうのカラー写真で見れば、本書前書きにもあるように「孫煩悩の祖父、地域のおじいちゃん先生」という印象を受ける。しかし彼は本シリーズの第1作にふさわしい経歴の持ち主である。薬物注射という "modus operandi" (犯罪手口) で推定218人の患者を殺害したとされる、イギリス史上最悪の〈死の医師〉。

著者は、シップマンの犯罪が明らかになった後にあれこれ言うのは簡単だが、シップマンと一緒に働き、暮らし、治療を受けてきた人々が、彼の犯罪行為に気づかずにいたのはなぜなのか、そのことを掘り下げて考えなければならないと言う。心理学用語でいう「正常性バイアス」ーーなんだかおかしいなという気がしても、些細なことだと割り切り、なにもかも正常でうまくいっていると思いこもうとする人間の心理的傾向ーーのことであろう。

However, a really important part of figuring out how things like this can happen and of making sure they don’t happen again that is often overlooked is gaining an understanding of the processes that were at play in the minds of those who were living through the tragedy and yet were unable to see it. You can never predict it – any one of us can find ourselves in a similar situation someday, and we all need to be able to identify those thought processes that may blind us to what is happening.

ーーこのようなことがなぜ起きたのかはっきりさせ、同様の犯罪を二度と起こさせないために、真に重要で、なのに見過ごされがちなことがある。悲劇のただ中にいながらそれを見出すことができなかった人々が、どのような思考過程を経たのか、知り、理解することである。誰もがいつか似たような状況におかれる可能性があるーーそんなことは予測不能だ。私たちは、私たちを実際に起きているできごとから目隠ししているかもしれない考え方を、はっきりさせなければならない。

シップマンの場合、1975年にオピオイド系鎮痛剤乱用(モルヒネと同様依存性があり、日本では麻薬に分類されている)で警察の取り調べを受けているのだから、その時点で医師免許停止なり剥奪なりすればよかったのでは、と思わなくもない。シップマンが反省の態度をよく見せていたから、厳罰対象にしなかったのかもしれない。

いずれにせよシップマンは現場復帰し、30年以上にわたり患者を殺し続け、死亡診断書のダブルチェック制度は機能せず(一度だけ、死亡診断書の数が多すぎることをおかしいと感じたチェック担当医師が警察に通報したが、捜査の結果は「疑いなし」であった)、死亡者はみな高齢であったために老衰や心臓発作が死因であるというシップマンの主張はすんなり受け入れられた。シップマン自身が遺言書偽造などという失態をおかさなければ、事件は明るみに出なかったかもしれない。「なぜ気づかなかったのか?」身も蓋もない結論だが、おかしいと思わなければ見過ごされるのだから。

 

連続殺人犯夫妻、フレデリックローズマリー・ウェスト。本書では "one of Britain's most infamous killer couples" と呼ばれている。

1994年2月24日、イギリス、グロスター。ウェスト夫妻の長女シャーメインが行方不明となり、刑事たちは捜査令状を持ってクロムウェル・ストリート25番にあるウェスト夫妻の自宅を訪れる。そして彼らは庭から死体を発見するーー1人ではなく3人。のちに〈恐怖の家〉と呼ばれることになる古い邸宅で起きたことが明るみに出た瞬間である。

ウェスト夫妻については『ザ・ジグソーマン 英国犯罪心理分析学者の回想』という本で初めて読んだ(残念ながら邦訳は絶版したようだけれどすばらしい翻訳だった。原書はまだ入手可能。とても面白いので図書館ででも読んでほしい)。『ザ・ジグソーマン』で、ポールはウェスト夫妻を常習的殺人者と呼び、これまで発見された犠牲者が3人だけということだ、と断じている。

ポールの予言通り、〈恐怖の家〉からは次々死体が発見される。庭だけでなく家の中から。地下の秘密の拷問室から。ウェスト夫妻の性的欲望を高めるために弄ばれ、玩具にされ、拷問され、切り刻まれーー時には人肉食まで行われていた。最終的に発見された死体は12人分。全員若い女性で、夫妻の実娘と継娘(フレデリックの前妻の連れ子)もその中にいた。

多くの児童虐待者や性犯罪者がそうであるように、フレデリックローズマリーも幼少期に性的虐待を含む虐待を受けていると主張しているが、本書の著者によれば、少なくともフレデリックについては疑わしい。彼は大家族の長男であり、母親にことのほか気に入られ、過保護気味に育てられたが、17歳の時に交通事故で脳に損傷を負い、人格にもなんらかの障害があらわれたとの説を唱えている(交通事故の後遺症で、若い女性を誘拐して拷問死させるような人格変動があらわれるなんて聞いたことないけれど……)。いずれにせよフレデリックは獄中自殺、ローズマリーは仮釈放なしの終身刑となる。