コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

移民社会到来に備えた必読書〜中島和子『完全改訂版バイリンガル教育の方法』

なぜこの本を読むことにしたか

なぜわたしはこの本を読むために時間を使うのか。

①世界の見方を根底からひっくり返す書物、

②世界の見方の解像度をあげる書物、

③好きだから読む書物

この本は②。必要に迫られて読んだ。

本書の位置付け

著者はトロント大学東アジア研究科の教授として日本語教育に従事するかたわら、一児の親として子どもを実際に日英バイリンガルに育てた。学術面や個人生活面、双方での深い見識を通して、バイリンガル教育の現時点での研究成果とあるべき教育システムについて書いている。幼児期からの英語教育に熱心な親たちだけではなく、地域社会で外国人移民がますます増えることが予想される時代、すべての人にとっての必読書。

本書で述べていること

本書ではバイリンガルの歴史を以下のように説明する。

1920年代から1960年代までは、バイリンガルは知的発達の遅れ、学業不振、情緒不安定などと結びつけて考えられており、「バイリンガル否定論」が横行していた。それに対してバイリンガルになることがマイナス面よりもプラス面の方が多いという「バイリンガル肯定論」が提唱され始めたのは、1970年代である。そして、その契機となったのがカナダのイマージョン方式によるバイリンガル教育の研究成果であった。

バイリンガル教育を実践するにあたり、大原則は母語をしっかり育てたうえで第二、第三の言語を上乗せしていくこと。とくに幼児にとっては言語能力がそのまま社会能力や状況理解能力に直結する。どちらの言語も年齢相応まだ発達していない「ダブル・リミテッド」と呼ばれる状態では知的発達にあきらかにマイナスである。母語が年齢相応であれば、知的発達にはプラスもマイナスもみられない。

本書では バイリンガルのメリットやデメリットはなにか、家庭、学校、地域社会でどのようにバイリンガル教育に携わるべきかについて、カナダをはじめさまざまな言語環境、移民環境を比較しながら、学術研究の成果に基づく実践的方法を紹介している。

感想いろいろ

わたしにとってはなによりもこの一文を読めたことが重要であった。バイリンガルを育てるうえで、母語をまずしっかり育てなければならない、という。

バイリンガルを育てる上で一番大事なことは、子どもが初めて出あうことば、すなわち母語をしっかり育てることである。その努力はまず家庭で始めなければならない。母語は子どもの土台となることばであり、第2、第3のことばの基礎となるものである。親のちょっとした日常の配慮で毎日のやりとりを通して子どもの母語は育つ。この意味で一番はじめのことばの教師は親である。この母語の基礎の上に、学校や年齢相応の課外活動を上手に選び、海外体験を適時に加えることによってバイリンガルの基礎づくりができる。

わたしのまわりではバイリンガルといえば子どもを英語漬けにすること、あるいは海外留学をさせることと認識している人がまだまだ多い。

しかし、①第二言語には堪能になったけれども逆に母語ができなくなり、母語しかできない両親や祖父母とのコミュニケーションがままならない、②母語第二言語も中途半端で年齢相応にできず、同年代との遊びにも苦労する、という実例がわたしの身近にある。その人たちはこの本を読んでいなかったのだろう。

母語というのはなにも一番流暢なことばというだけではない。ことばは文化そのものだ。ことばを使い親から子へ伝えられる気持ち、慣習、行動規範、価値判断は、そのまま子のアイデンティティの中核に居座ることになるのだから。自分のアイデンティティの一番核心に居ることを許した言葉が、その人の母語だ。

バイリンガルは、その母語を複数持つことのみを意味しているわけではない(もちろん母語を複数持つ人はいるが)。バイリンガル教育をするからこそ、母語教育を「万金の重みがある」ものとして重視しなければならない。このことを学んだのはなによりの収穫だ。