コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

明日、会社がなくなっても、自分の名前で勝負できますか? (川上徹也著)

私はかつて、期間限定契約で雇われたMさんという人と仕事をしたことがある。会社があるプロジェクトのためにいくつか社内チームを立ち上げ、Mさんはリーダーとしてそのうちの一つに加わった。契約期間はプロジェクトが終わるまでだ。

Mさんは担当分野についての知識が豊富で頭の回転が速く、決断力があり、チームの成果は彼がいてこそだと誰もが認めていた。Mさんはそのことを熟知しており、自分の働きに見合う給料を望んだ。会社は彼に、自社経営陣よりも高い給料を払っているという噂がささやかれていた。

だが、契約期間が終わる前に、Mさんは契約を打ち切られた。ある日突然彼がいなくなることがチームメンバーに告げられ、席は片付けられた。さまざまな噂が飛び交ったが、会社から説明はなかった。Mさんが会社を去るまでの期間は、送別会すらできないほど短かった。それ以来会っておらず、どこでどうしているのかも知らない。

残念な結果に終わってしまったが、Mさんはまさに自分の名前で仕事している人間だった。

Mさんは、著者のいう「志をもつ人間」だった。著者は志こそが、ビジネスにおける最大の差別化戦略だという。Mさんは自分の仕事が世の中に必要なものであるという信念を持っていた。だからいつも強気の主張をしていた。それを好ましく思う人ばかりでなかったのは事実だが、Mさんは最後までその姿勢を変えなかった。

しかし、Mさんはその強気の姿勢ゆえ、著者がいう「まわりの人々が共感できるようなメッセージを発信し、その行動を応援したくなるような人間」ではなかった。傍から見ればMさんの仕事は社会的意義があり、応援したくなるものだった。だが一緒に働くプロジェクトメンバーとは、衝突が多かった。

Mさんの事例は、著者が主張することとすべて一致するわけではないが、ひとつだけ確かなものがあった。Mさんには志があった。それが、Mさんの自信の源であった。正しいことをしていると信じている人間はかくも強いものだと、彼の背中に教えられた。