コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

現代サラリーマンあるある!?〜フランツ・カフカ《城》

ノルウェー・ブック・クラブが選出した「世界最高の文学100冊」(原題:Bokkulubben World Library)の一冊。《審判》(または光文社古典新訳文庫によれば《訴訟》)と同じくフランツ・カフカの小説で、晩年に書かれた未完長編。

ある城を囲む雪深い寒村に、測量士ヨーゼフ・Kがやって来る。よそ者を警戒する村民たちに、Kは城の城主ヴェストヴェスト公爵に要請されてきた測量士だと説明する。しかし城からは城に来なくていいと電話で言い渡され、村の長官クラムからは村長を上司として仕事するようにとの伝言があり、仕事内容も報酬条件も明らかにされない。Kはなんとか城に行こうとするが、城からのお墨付きがはっきりせず、来たばかりで村長ら有力者とのつながりもうまく構築できていないKに、村民たちは協力的とはいえない。Kは村を歩きまわるうちに、村に張り巡らされた見えない蜘蛛の糸のような人間関係のもつれに絡みとられていく。

《訴訟》と同じく《城》も、主人公には理解できず明らかにされることもないなんらかのロジックで動く人々を相手にむなしく右往左往する物語。なぜか地位と名声がある男性の助けはディスりまくるのに(プライドのためか?)酒場の給仕女など社会的地位が低い女性の助力を必要以上にありがたがるのも同様。

しかし読めば読むほど、ど田舎あるある、それどころか現代のサラリーマンあるあるに思えてならない。内輪に閉じてよそ者に冷たい組織、だれが上司でだれが怒らせてはならない実力者なのかわからない状況、よそ者が有力者(クラム)の機嫌を損ねることをしでかしたと言いがかりをつけてくる腰巾着、意味不明な地元ルールを守らなかったとキレてののしる下っぱ(酒場主人とおかみ)、逆によそ者に色目をつかいトラブルに巻きこむ水商売女(某有力者のお気に入りであるとの噂までがお約束)。カフカの心情描写と情景描写が見事過ぎて、あたかも読者自身が追体験しているかのよう。

小説自体は未完だけれど、一説によれば、カフカはKが死ぬ結末を考えていたという。死ぬまでには至らずとも、失意のうちに村を去ることになるのは確かだろう。Kには城とその城下村のロジックがまったく理解できていないのだから。