コーヒータイム -Learning Optimism-

18歳のわが子に読書をすすめるために、まずわたしが多読乱読しながらおすすめを探しています。英語書や中国語書もときどき。

<英語読書チャレンジ 43 / 365> CSIS報告書 "The First Battle of the Next War - Wargaming a Chinese Invasion of Taiwan"

英語の本365冊読破にチャレンジ。原則としてページ数は最低100頁程度、ジャンルはなんでもOK、最後まできちんと読み通すのがルール。期限は2025年3月20日

なんかやばそーなんで、最近話題の台湾有事に関するCSIS (Center for Strategic and International Studies, 戦略国際問題研究所) 報告書を読んでみた。ことと次第によっては本気で日本脱出を考えた方が良いかもしれないし、どれくらいやばそうなのかを把握しておくためには必須

https://csis-website-prod.s3.amazonaws.com/s3fs-public/publication/230109_Cancian_FirstBattle_NextWar.pdf?WdEUwJYWIySMPIr3ivhFolxC_gZQuSOQ

報告書タイトルは "The First Battle of the Next War - Wargaming a Chinese Invasion of Taiwan" で、台湾有事はどのように進行すると考えられるか、机上演習をおこなった結果をまとめている。重要な章をいくつかピックアップし、通読して内容をまとめた。

 

Executive Summary

時間がない読者は、この章(たかだか5頁である)だけでもじっくり読めば、報告書のおおまかな内容を知ることができる。

CSISは中国が水陸双方から台湾侵攻を試みることを想定して、24ケースのwargame (*1) をおこなった。すべてのケースにおいてアメリカ/日本/台湾は中国を撃退できるという結果になる。ただしもちろん台湾が降伏せずに抵抗を続け、アメリカの援軍が駆けつけるまでもちこたえられれば、であるが (*2)

しかしたとえ勝利したところで "Pyrrhic Victory" (*3) 、つまり得るものの少ない勝利になりかねない。台湾国防部隊が大打撃を受けるほか、日本の軍事基地 (*4)アメリカの水上艦艇も中国の攻撃にさらされ、何十隻もの戦艦、何百機もの戦闘機、何万人もの兵士が失われ、台湾経済が破壊され、さらにアメリカの国際的プレゼンスの長期的低下が予測されるためである。代償は決して小さくないゆえ、勝てばよいわけではなく、抑止力向上が喫緊の課題。

(*1) 教育訓練・作戦研究などのために行われる机上演習。

(*2) 報告書には "There is one major assumption here: Taiwan must resist and not capitulate. If Taiwan surrenders before U.S. forces can be brought to bear, the rest is futile." と表現されている。個人的には、台湾では親中派が政権をにぎりつつあるし、中国の裏工作も相当浸透しているはずであるから、この仮定が成り立つかどうか疑問。アメリカもその辺のことを考えてTSMC半導体製作工場を誘致したのだろうか?

世界最大手の台湾TSMCが、半導体の新工場建設を「中国ではなく、日本やアメリカ」で検討するワケ 台湾と韓国への集中から、米国や日本などへの分散へ | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

(*3) ピュロスの勝利は、損害が大きく得るものが少ない勝利、つまり「割に合わない」という意味の慣用句。古代ギリシアのエペイロス王ピュロスの故事に由来する。

(*4) Chapter 5で後述。グアムと日本の米空軍基地が攻撃対象になることが想定されている。

 

Chapter 4: Assumptions―Base Cases and Excursion Cases

24ケースのwargameを設定するにあたりどのような仮定をおいたのかを説明する章。3つのパートに分かれている。

Grand Strategic Assumptions: Political Context and Decision

台湾防衛戦においてアメリカ軍は主に在日米軍基地から出動するため日本の関与は不可避だが、日本政府の政治的意思決定が迅速になされない可能性を指摘したうえで、報告書は東京(=日本政府)が ⑴ アメリカによる在日米軍基地へのアクセスを制限しない、⑵ 日本領域(在日米軍基地含む)が中国に攻撃された場合においてのみ自衛隊による迎撃を指示する、⑶ 自衛隊参戦後は日本領域以外での攻撃作戦に従事することを許可することを仮定している (*5)

the base case assumes that Tokyo: (1) allows the United States access to U.S. bases in Japan freely from the outset; (2) directs the JSDF to engage Chinese forces only in response to a Chinese attack on Japanese territory (to include U.S. military bases in Japan); and (3) allows the JSDF, after entering the war, to conduct offensive operations away from Japanese territory. (P.57)

(*5) Chapter 5で後述するように、開戦当初からグアムと日本の米空軍基地が空爆対象になることが想定されている。ここに述べる3つの仮定は、自衛隊の台湾有事参戦がほぼ避けられないこと、参戦後は攻撃を含む対中国軍事作戦に参加しなければならないことを意味している。まあこの仮定がなければ自衛隊は事実上やれることがほとんどなくなってしまうわけだが、報告書では、⑶ の許可がでないケースについても検討されている。

Strategic Assumptions: Orders of Battle, Mobilization, and Rules of Engagement

台湾有事はある程度緊張状態が続いたあとに起こると思われるが、中国が大規模軍事演習などを隠れ蓑にしてひそかに準備する可能性を考えなければならない。報告書では、台湾有事の30日前には中国側が作戦開始、アメリカや台湾が14日前にそれに気づくことを想定している。これを受けてアメリカは空母打撃群(Carrier strike group, CSG)を沖縄やグアムに送る。

In the base case, China takes measures to minimize warning time by, for example, using a large exercise to mask its preparation and delaying measures that would provide unambiguous warning, such as requisitioning large numbers of civilian lift ships, until late in the process.

中国のミサイル攻撃能力については公開情報欠乏により推測がむずかしいが、台湾有事において肝要であるためシナリオを複数検討している (*6)

(*6) 中国のミサイル攻撃により開戦数日で台湾の海軍・空軍戦力はほぼ壊滅すると予測されている。また、アメリカや日本の空軍基地もミサイル攻撃にさらされて大打撃を受ける。一説では、空軍戦闘機の9割は戦闘中ではなく、基地にあるときに爆撃されて失われるという。日本政府がJアラート整備を急いだのは理由のないことではない。

Operational and Tactical Assumptions: Competence, Weapons, and Infrastructure 

軍隊規模、ミサイルなど使用武器の攻撃能力、上陸作戦遂行能力(ノルマンディーや沖縄上陸作戦が参照されている)などについての仮定。米台が中心で、自衛隊についてはあまり言及されていない。

 

Chapter 5: Results

台湾有事が2026年に起こると想定するならば、以下の4つの条件が満たされれば、中国による台湾侵攻が成功することはむずかしいであろう。

  1. 台湾は中国侵攻に猛抵抗する。
  2. アメリカは遅延なく参戦し、全戦力投入する。
  3. アメリカは日本の軍事基地を利用する。
  4. アメリカは空中発射型の長距離対艦巡航ミサイル(Anti-Ship Cruise Missile, ASCM (*7) )を充分使用する

しかし勝利し台湾自治を維持できたところで、台湾軍や台湾経済が大打撃を受けるのはもちろん、日米側も何十隻もの戦艦、何百機もの戦闘機、何万人もの兵士が失われ、アメリカの国際的プレゼンスの長期的低下が予測される。

日本に限っていえば、比較的楽観的なシナリオでも20隻以上の戦艦、100機以上の戦闘機が失われることが想定される。上にあるように、アメリカは日本の軍事基地を利用できなければ効果的に反撃できない。逆に中国側は、紛争初日から在日米軍基地を狙い爆撃してくるであろう (*8)

The China team, confronted with the prospect of extremely high and rapid losses to its amphibious fleet, sought to mitigate those losses by attacking air bases in Japan and Guam from the first days
of the conflict. (P.95)

(*7) Long Range Anti-Ship Missile(長距離対艦ミサイル)。

(*8) ミサイル攻撃による可能性が高い。報告書では双方のミサイル攻撃能力が台湾有事の行方を大きく左右すると見ている。ちなみに市街地への誤爆は検討されていない(が、もちろんおきない起きないとの保証もない)。

 

感想いろいろ

以下は完全私見である。念のため。

言わせてもらうと、後世から見れば、台湾有事の遠因となったできごととして、2022年8月のアメリカ下院議長ナンシー・ペロシによる台湾訪問を外すことはできないだろう。

これまでアメリカは政府高官の台湾訪問を避けてきた。建前上「一つの中国」原則を受け入れている以上、中国の首都であり権力の中枢である北京をすっとばして、たかだか一地方でしかも分離独立運動の気運が絶えない(という位置付けの)「台湾省」を訪問するのは外交上ありえないためだ。

しかしペロシ下院議長がそれを変えた。彼女は北京を完全無視してそのまま台湾に着陸、国防上の重要課題について台湾高官と話したとふれまわったうえ、韓国・日本を訪問してそのままアメリカに帰ったのである。これは彼女が所属するバイデン政権が【台湾を中国と切り離して考えている】メッセージ以外のなにものでもない。

考慮しなければならないのは、中国共産党政権は決して一枚岩ではないということ。現在トップに立つ習近平主席はもともと強硬な台湾統一推進派である。その彼がここまで舐めた真似をされてなにもしなければどうなるか? 弱腰なリーダーだというレッテルを貼られるであろう。政党内に政敵を抱えた状態でリーダーが弱腰だとみなされればどうなるか? ほんのすこしでも中国の歴史を学んだことがあれば想像はむずかしくない。

台湾有事はもはやあるかどうかではなく、あるという前提で【いつあるか】【どう対処するか】を議論する段階である。

いったん始まれば、中国側に撤退はありえない。撤退はーー中国共産党一党独裁支配まで揺らぐことはないであろうがーーすくなくとも現政権維持をいちじるしく困難にさせる。しかも台湾は、軍事面では中国海軍の太平洋側玄関口であり、貿易海運面ではシーレーンの要にある。中国国益という点から考えても、台湾の実効支配権を失うことは許容できない。さらにいうと台湾有事は米中代理戦争であることがあまりにも明らかであり、ここで勝てばアメリカのプレゼンス低下につながり、将来的に中国が世界覇権をにぎるための布石になる。

中国はその気になればどれだけの犠牲を出そうとも損失度外視で台湾有事にかかるであろう。勝利すればそれだけのメリットがあるからだ。しかし日米台はそうはいかない。台湾有事はいったんはじまれば日米台にとってはデメリットだらけなのだ。だからこそ抑止力を呼びかけている。

とはいえ日本の空軍基地(と民間空港。報告書では日本の民間空港の軍事利用も想定されている)が攻撃対象になるのはほぼ確実なので、自分と家族が生きのびるためにはどう行動しなければならないのか、考えておく必要がある。こういう本も読んでおくといいかも。

 

<英語読書チャレンジ 41-42 / 365> S. Sutherland “How to Make Money in ISAs and SIPPs” & Miller “IRA: A Quick Reference Guide for 2020”

英語の本365冊読破にチャレンジ。原則としてページ数は最低100頁程度、ジャンルはなんでもOK、最後まできちんと読み通すのがルール。期限は2025年3月20日

なぜこの本を読むことにしたか

2024年よりあたらしいNISA (Nippon Individual Savings Account) 制度が始まる。金融業界で働く知人にこのことをどう思うか聞いてみたところ、こんな感想が返ってきた。

「ますます元となったイギリスのISA制度に似てきたね。イギリスでは日本のような全国民加入年金がないかわりに、こういう個人投資制度を整備してきた。日本でも年金危機が叫ばれて長いけど、いよいよ老後資金はできるだけ自分で準備しなさい、年金では支えきれないという金融庁からのシグナルかな?」

なかなか説得力がある感想である。あたらしいNISA制度の生涯非課税枠上限の1,800万円は、何年か前によくいわれた「老後資金は2,000万円必要」にも近い。その分の税収をあきらめるかわりに、年金受給開始年齢を後ろ倒しにするとか年金額を減らすとかして支出を縮小する。超高齢化&少子化社会の日本にありそうな話ではないか。

こういう会話があってから、収支のライフプランを作成したり、あたらしいNISAや企業型DC (Defined Contribution)、iDeCo (個人型確定拠出年金制度の英語表記(Individual Defined Contribution Plan)の略) などの制度について学んだりしているが、その一環として、先行するイギリスやアメリカではどのように制度運用されているのか知るべく本を読んだ。

 

本書の位置付け

今回読んだ2冊のうち、"How to Make Money in ISAs and SIPPs" がイギリスの制度解説であり、"IRA: A Quick Reference Guide for 2020" がアメリカの制度解説である。どちらも初心者向けのやさしい内容。"How to ~" の方は独学で投資を続けてきた個人投資家が書いてきた人気ブログ記事を書籍化したもので、英語表現も平易でわかりやすい。

本書で述べていること

イギリスの制度 (ISA / SIPP)

今回読んだ"How to Make Money in ISAs and SIPPs"はISAやSIPPsの制度紹介、主に税制面のメリットについてまとめている。

イギリスの現行制度では1会計年度(4/6〜翌4/5)にISAに投資可能なのは20,000ポンドであり、生涯投資額に上限はない。SIPPはもうすこしややこしい。SIPPに投資する際、その分の所得税は免除される (*1) が、この恩恵を受けられる金額には上限がある。たいていは年収額と40,000万ポンドのどちらか低い方が上限額になる。

ISAもSIPPsもいわばプレゼントボックスのようなものであり(著者は "wrappers" =包装紙と表現している)、この中にある金融商品の投資所得(SIPPsの場合は一部のみ (*2) )は課税されない。ただしもちろんプレゼントボックス自体が利益を出すことはなく、あくまでもうけを出すのは金融商品であるから、その分のリスクはとらなければならないし、金融商品売買手数料はかかる。

(*1) 納税者の手元にもどるわけではなく、SIPPへの投資金に上乗せされるという形。たとえばSIPPに2,000ポンド入金すれば、イギリス政府が所得税分の500ポンドを追加入金してくれるので、合計2,500ポンド入金したことになる。

(*2) SIPPは55歳以降に年金として受取可能になるが、非課税なのは総額の25%までで、それ以降は所得扱いとなり税金がかかる。


アメリカの制度 (IRA)

This soft cover book/e-book (book) is written as a quick guide to the common IRS rules governing the establishment, contributions and withdrawals, management and transference to beneficiaries of Individual Retirement Accounts, or IRAs.

このソフトカバーの本 / 電子書籍は、個人退職勘定 (IRA) の設立、寄付、引出、管理、および受益者への譲渡に関する一般的なIRS規則のクイックガイドとして書かれました。

今回読んだ"IRA: A Quick Reference Guide for 2020"はIRAの制度紹介のほか、トランプ政権のもとで2019年12月に改正されたSetting Every Community Up For Retirement Enhancement (SECURE Act) の変更点について解説している。かなり実践的なガイドブックであり、Form W-2(雇用主が発行する年間給与合計表で、米国個人所得税申告書に添付される)など、書類の具体的書き方までカバーされている。

アメリカの現行制度では、1/1〜翌年税申告期日 (通常4/15) に、IRAに投資可能なのは6,000ドルまでであり、生涯投資額に上限はない。ただしどのような収入からIRAに投資できるかは細かい規定がある (*3) 。また、136万ドルまではいわゆる連邦の保障対象になり、IRAを管理する投資会社が倒産しても保障される(これに州独自の保障額を上乗せすることもできる)。

72歳をすぎれば、毎年引き出さなくてはならない最低額が定められている (*4) 。これはIRAを利用して非課税で子孫に残す相続財産をためこませないようにするためらしい。面白いことに、IRAに投資可能な収入から投資していることを立証できれば (*5)、未成年であってもIRAを利用できるという。

(*3) たとえば給料収入はOKだが投資所得や年金などはNG。

(*4) さまざまなタイプのIRAの合計額÷平均余命で求められる額。なんとも合理的。計算のための平均余命表が与えられている。ちなみに2019年版では72歳受給者の平均余命は25.6年で男女区別なし。アメリカ人の平均寿命は2021年度で76.1歳だから、長めに取られてはいるようだ。

https://www.irs.gov/pub/irs-prior/p590b--2019.pdf

(*5) 文中では(おそらく知人友人の)ベビーシッターを引き受けることで得られる収入を例にあげている。しかし家庭内のお手伝いの見返りとしてもらえるお駄賃となればかなりのグレーゾーンで、それが「働きに見合う報酬である」ことを説明できなければならない。わずかな働きの見返りに大金を子どもに与えるようであれば、贈与税回避のためではないかと疑われるであろう。

 

感想いろいろ

なかなか面白いが、いずれも入門書なのでより深い学びが必要。インターネットではさまざまな制度解説が提供されている。たとえばイギリスのISA / SIPPs制度解説サイトはこちら。

Individual Savings Accounts (ISAs): Overview - GOV.UK

Personal pensions: Overview - GOV.UK

なお企業型DCやiDeCoについてよくまとまっている記事があるのでリンクを。

日米の確定拠出年金制度の位置づけ比較 - コンサルタントコラム 791 | マーサージャパン

[テーマ読書](未完 5 / 70)中国最高の現代小説70作品を読んでみた

2022年総集編。

2019年、中国政府が建国70周年を記念して、中華人民共和国最高の現代小説70作品を選出した。中国語を学ぶのによいし、政府がどのような価値観を推奨しているかを学ぶのにとてもよい。

目標は2030年までに全作読破。以下、選出された70タイトルとその作者。基本的に原文そのまま。邦訳があるものはそのタイトルも併記した。

 

1《風雲初記》


2《鉄道遊撃隊》


3《保衛延安》


4《三里湾》


5《紅日》


6《紅旗譜》


7《我們播種愛情》


8《山郷巨変》


9《林海雪原》


10《青春之歌》


11《苦菜花》


12《野火春風闘古城》


13《上海的早晨》


14《三家巷》


15《創業史》


16《紅岩》

未邦訳。1949年まで続いた第二次国共内戦(政権をめぐる国民党と共産党の内戦)の代表的な歴史小説。1961年に出版されてたちまちベストセラーとなった。作者らはその時期、共産党員として内戦に身を投じており、半自伝小説でもある。

舞台は1948年の重慶。当時政権をにぎっていたのは共産党と対立する国民党。迫害されていた共産党員たちが、新聞を地下出版する、国民党軍にゲリラ的襲撃をしかけるなどしてひそかに活動範囲を広めながら、国民党政府を打倒しようと地下活動するさまが主な内容。ちなみに軍事作戦は、小説終盤の集団脱獄をのぞいて正面切って描かれることはほぼなく、登場人物たちの会話や、捕らえられ監獄に収容された者の証言などとして間接的に語られる。

物語の半分近くは、当時重慶に実在していた政治犯監獄〈スラグ洞収容所〉〈白公館収容所〉を舞台にしているが、これは作者らが実際にそこに収監されており、集団脱獄にも加わったためである。

小説が書かれた動機は、監獄生活を通して知りあったすぐれた人々のこと、監獄内で繰り広げられていた政治闘争のことを後世に伝えるためである。共産党員たちは(寝返った者をのぞけば)英雄的存在として描かれ、共産党への忠誠心の深さ、どれほど心身を痛めつけられようとも理念をまげない心の強さ、大義のためなら己の生命をもかえりみない献身精神などが強調されている。一方、敵役となる国民党構成員は、政治犯を劣悪な監獄にとじこめて拷問や飢餓で虐待しながら、アメリカの政治顧問にはへこへこして取り入ろうとするなさけない姿として描かれる。

 

17《艶陽天》


18《大刀記》


19《万山紅遍》


20《東方》

 

21《青春万歳》


22《許茂和他的女児們》


23《冬天里的春天


24《沈重的翅膀》


25《黄河東流去》


26《蹉跎歳月》


27《新星》


28《鐘鼓楼》

 

29《平凡的世界》


30《第二個太陽》

 

31《紅高粱家族》

ブログ記事参照。

リアルな出来事に芸術的視点をまぶした印象派絵画のような小説〜莫言『赤い高粱』『続・赤い高粱』 - コーヒータイム -Learning Optimism-


32《雪城》

 

33《浴血罗霄》

 

34《穆斯林的葬儀》

 

35《九月寓言》

 

36《白鹿原》

 

37《長恨歌

 

38《馬橋詞典》

 

39《抉择》

 

40《草房子》

 

41《中国制造》

ブログ記事参照。

世紀末、中国長江沿いのある都市でのものがたり〜周梅森《中国製造》 - コーヒータイム -Learning Optimism-

 

42《尘埃落定》

 

43《突出重囲》

 

44《李自成》

 

45《歴史的天空》

 

46《亮剣》

 

47《茶人三部曲》

 

48《東蔵記》

 

49《雍正皇帝》

 

50《日出東方》

 

51《省委書記》

 

52《水乳大地》

 

53《狼図騰》

 

54《秦腔》

 

55《额尔古纳河右岸》

 

56《藏獒》

 

57《暗算》

 

58《笨花》

 

59《我的丁一之旅》

 

60《我是我的神》

 

61《三体》

ブログ記事参照。

SF小説、謎解きミステリー、哲学的思考実験としてもすばらしい〜劉慈欣『三体』 - コーヒータイム -Learning Optimism-

 

62《推拿》

 

63《湖光山色》

ブログ記事参照。

病めるときはそばにいたのに、健やかなるときはそばにいられなくなる〜周大新《湖光山色》 - コーヒータイム -Learning Optimism-

 

64《大江東去

 

65《天行者》

 

66《焦裕禄》

 

67《生命册》

 

68《繁花》

 

69《黄雀記》

 

70《装台》

[テーマ読書](未完 29 / 100)世界最高の文学100冊を読んでみた

2022年総集編。

ノルウェー・ブック・クラブが選出した「世界最高の文学100冊」(原題:Bokkulubben World Library)というものがあることを知り、全作読んでみることにした。

Library of World Literature » Bokklubben

目標は2030年までに全作読破。英語原著はできるだけ原文で読みたいけれど英語以外でも可。ルールはこれだけ。さらにせっかく読むのだから、読む前と読んだあとで自分の思考がどう変わったかをメモしておくと最高。

以下、選出された100タイトル。「ドン・キホーテ」が最高傑作であることを除けばとくに順番は定めていないらしいので、ウェブサイトで公開された順番そのまま。メモがないものは未読。

 

Chinua Achebe (b. 1930)
Things Fall Apart (Nigeria)(邦題《崩れゆく絆》)
ブログ記事参照。わたしたちが生まれ育ち、あたりまえだと信じている地域社会のありかたが、いかに簡単に崩れゆくか、なぜ崩れゆくか、植民地化前後のナイジェリアでの出来事を通して、考えさせずにはいられない傑作。わたしたちのやり方を、ほかの社会との相対的視点から見る必要があることを、いつでも思い起こさせてくれる名著。
ナイジェリアとイギリスの価値観が出会うとき〜チアヌ・アチェべ《崩れゆく絆》 - コーヒータイム -Learning Optimism-

 

Hans Christian Andersen (1805-1875)
Fairy Tales and Stories (Denmark)(邦題《アンデルセン童話集》)
子供の頃、最初に買ってもらったシリーズものがアンデルセン童話全集。全16冊。有名な人魚姫などの物語は1冊目にまとめてあったため、1冊目だけよく読んでボロボロになった。2冊目以降は大人向けの話が増えてきて、『雪の女王』『パンを踏んだ娘』『世界一の美しいバラの花』『食料品屋の小人の妖精』は何度も読み返した。子供の頃は意味がよくわからなかった。けれどいまならわかる。ある程度人生経験を積んでからわかるようになるのが、アンデルセン童話の魅力だと思う。

 

Jane Austen (1775-1817)
Pride and Prejudice (England) (邦題《高慢と偏見》)
ジェーン・オースティンの傑作恋愛小説。学生時代に読んだときには、娘たちに金持ちの夫をあてがってやろうと目の色変える主人公エリザベスの母親のあさましさにドン引きしたが、主人公一家が所属するジェントリ階級の女性は働くことができず、ほとんど財産も相続できず、裕福な男性に嫁がなければ生活が立ちゆかなくなる時代背景を知るにつれ、逆に資産家であるダーシーを拒むエリザベスこそがある意味変人だったのかもしれないと考えるようになった。頭の回転が速く、はっきりと物を言い、己の間違いから目をそむけないエリザベスは、わたしが想像する「いい女」のイメージにかなり影響を与えている。

 

Honoré de Balzac (1799-1850)
Old Goriot (France)(邦題《ゴリオ爺さん》)
初読時は主人公である没落貴族の末裔ラスティニャックが、ゴリオ爺さんの娘のひとり、ニュシンゲン夫人にあからさまに取り入るさまにドン引きした。しかし、当時のパリでは貴婦人たちがお気に入りの若者ーー美貌で聡明、野心あふれる者達ーーを恋人扱いし、見返りに出世を支援することがよくあったと知り、カルチャーショックを受けた。病死したゴリオ爺さんの墓前でラスティニャックが「成り上がってやる、勝負だ」などと独白したその足で、ニュシンゲン夫人との晩餐会に出かけるというラストシーンがなんとも気味悪く、貧乏で才気煥発な若者が、父親を金蔓としか思わず、金が尽きれば病死するにまかせるような女におべっかを使わなければ出世できない皮肉が忘れられなかった。社会の現実というものを考えるいいきっかけになったと思う。

 

Samuel Beckett (1906-1989)
Trilogy: Molloy, Malone Dies, The Unnamable (Ireland) (邦題: 三部作《モロイ》《マロウンは死ぬ》《名付けえぬもの》)

 

Giovanni Boccaccio (1313-1375)
Decameron (Italy)(邦題《デカメロン》)
 

Jorge Luis Borges (1899-1986)
Collected Fictions (Argentina)(邦題《伝奇集》)
 

Emily Brontë (1818-1848)
Wuthering Heights (England) (邦題《嵐が丘》)
エミリー・ブロンテの《嵐が丘》は英国文学史上最高傑作だと名高いけれど、初読時は異様にねちっこい性格の主人公ヒースクリフも、彼が執着する(あれを愛情とは思えなかった)キャサリンも狂気じみているとしか思えなかった。姉のシャーロット・ブロンテの名著《ジェイン・エア》初読時も、自分を世話する大人にいい顔すれば食べものをもらえるのにそうせず、変なプライドで意地張っているようにしか見えないジェインが好きになれなかった。ブロンテ姉妹の作品は、わたしにとって、喉に刺さった小骨のように不快感を残すけれど、なぜか忘れられない。ジェインやキャサリンのようになりたくないという意味で、思考に影響しているとは思う。

 

Albert Camus (1913-1960)
The Stranger (France)(邦題《異邦人》)
 

Paul Celan (1920-1970)
Poems (Romania/France)
 

Louis-Ferdinand Céline (1894-1961)
Journey to the End of the Night (France)(邦題《夜の果てへの旅》)
 

Miguel de Cervantes Saavedra (1547-1616)
Don Quixote (Spain)(邦題《ドン・キホーテ》)
 

Geoffrey Chaucer (1340-1400)
Canterbury Tales (England) (邦題《カンタベリー物語》)
 

Joseph Conrad (1857-1924)
Nostromo (England)(邦題《ノストローモ》)
 

Dante Alighieri (1265-1321)
The Divine Comedy (Italy)(邦題《神曲》)
 

Charles Dickens (1812-1870)
Great Expectations (England)(邦題《大いなる遺産》)

ブログ記事参照。ある程度人生経験を重ねてから読めばどんどん先に進まずにはいられなくなる。若いころに大切にしていたもの、軽んじていたものが、実は真逆であったと気づいたときには、たいていすでに取返しがつかない。《大いなる遺産》はこのことをこれ以上なく鮮烈に見せつける悲喜劇である。

<英語読書チャレンジ 3/100> Charles Dickens “Great Expectations”(邦題《大いなる遺産》) - コーヒータイム -Learning Optimism-
 

Denis Diderot (1713-1784)
Jacques the Fatalist and His Master (France)(邦題《運命論者ジャックとその主人》)
 

Alfred Döblin (1878-1957)
Berlin Alexanderplatz (Germany)(邦題《ベルリン・アレクサンダー広場》)
 

Fyodor M. Dostoyevsky (1821-1881)
Crime and Punishment (Russia) (邦題《罪と罰》)

 

The Idiot (Russia)(邦題《白痴》)

 

The Possesed (Russia) 邦題《悪霊》)

 

The Brothers Karamazov (Russia) (邦題《カラマーゾフの兄弟》)
ブログ記事参照。

【おすすめ】読まずに死ねない〜ドストエフスキー《カラマーゾフの兄弟》 - コーヒータイム -Learning Optimism-

 

George Eliot (1819-1880)
Middlemarch (England)(邦題《ミドルマーチ》)
 

Ralph Ellison (1914-1994)
Invisible Man (USA)(邦題《見えない人間》)
 

Euripides(ca. 480-406 BC)
Medea (Greece)(邦題《メディア》)
中野京子著「怖い絵」シリーズでメディアの絵が紹介されたことをきっかけに知った。夫であるイアーソーンに裏切られたメディアが、滾る怒りのままにイアーソーンが結婚しようとしていた王女とその父親である国王を焼き殺し、さらにイアーソーンとの間にもうけた子供二人までみずからの手で殺して、駆けつけたイアーソーンを「おまえのせいだ!」と痛罵して去る、という物語は、いざとなればここまでする女の怖さを凝縮して顔面めがけてたたきつけられるようで、鳥肌が立った。

 

William Faulkner (1897-1962)
Absalom, Absalom! (USA)(邦題《アブサロム、アブサロム!》)
 
The Sound and the Fury  (USA)(邦題《響きと怒り》)
 

Gustave Flaubert (1821-1880)
Madame Bovary (France)(邦題《ボヴァリー夫人》)

A sentimental Education (France)(邦題《感情教育》)
 

Federico García Lorca (1898-1936)
Gypsy Ballads (Spain)(邦題《ジプシー歌集》)
 

Gabriel García Márquez (b. 1928)
One Hundred Years of Solitude (Colombia)(邦題《百年の孤独》)
ブログ記事参照。

要約はできない。全文読むべし《百年の孤独》 - コーヒータイム -Learning Optimism-

 

Love in the Time of Cholera (Colombia)(邦題《コレラの時代の愛》)
 

Gilgamesh (ca. 1800 BC)
Mesopotamia(邦題《ギルガメシュ叙事詩》)
 

Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832)
Faust (Germany) (邦題《ファウスト》)
ブログ記事参照。初読時はグレートヒェンを妊娠させて不幸のどん底に落としておきながらのうのうと魔女の夜会に参加するファウストのことを最低野郎だと思っていたが、彼が選んだ「時よ止まれ、お前は美しい」という場面があまりに衝撃的で、ファウストが生きることをどう思っていたのか考えずにはいられなかったが、わたしにはまだわからない。

ゲーテ《ファウスト 第1部》 - コーヒータイム -Learning Optimism-

ゲーテ《ファウスト 第2部》 - コーヒータイム -Learning Optimism-

 

Nikolaj Gogol (1809-1852)
Dead Souls (Russia)(邦題《死せる魂》)
 

Günter Grass (b. 1927)
The Tin Drum (Germany)(邦題《ブリキの太鼓》)
 

João Guimarães Rosa (1880-1967)
The Devil to Pay in the Backlands (Brasil)
 

Knut Hamsun (1859-1952)
Hunger (Norway)(邦題《飢え》)
 

Ernest Hemingway (1899-1961)
The Old Man and the Sea (USA)(邦題《老人と海》)
老漁師の目に映る海の描写がすばらしくて、海に近いところで生まれ育った思い出がよみがえって泣きそうになる。貧困にあえぐ老漁師はある日、これまでにないほど大きい、漁船よりもまだ体長があるカジキに餌を食わせることに成功するが、なお体力衰えないカジキを相手に、老漁師の孤独な闘いが始まる。少年は涙を流し、疲労の極致にいたった老漁師は眠る。人は自然の摂理のなかにあり、老いること、力弱ること、奮いたつこともまた自然の摂理であるということを思い出させ、恐れることではないという気持ちにさせてくれる作品。

 

Homer (ca. 700 BC)
The Iliad (Greece)(邦題《イーリアス》)
大学時代にひまをもてあまして図書館で読んだ。トロイア戦争終盤、ある事件をきっかけにギリシャ勢の勇士アキレウス(アキレス腱の語源)と総大将アガメムノーンが喧嘩し、アキレウスが戦場放棄してテントにこもってしまうという、3000年近く前に書かれたとは思えないほど人間臭く共感しやすい物語。ギリシアの神々が各陣営にわかれて人間の戦争に肩入れするのが面白い。アガメムノーンとアキレウスの喧嘩場面は現代にもそのままありそうで、何千年経過しても人間変わらねーなーと心底思ったことを覚えている。


The Odyssey (Greece)(邦題《オデュッセイア》)
子どもの頃、児童向け文学全集で読んだ。オデュッセウスが航海中、部下6人を怪物に食わせるか、船ごと破壊されるかという残酷な二択を迫られ、嘆きながらも部下6人の犠牲を選んだところ。ここが一番衝撃的だった。子どもの頃は、オデュッセウスが下した選択のせいで部下が死ななければならないのかと理不尽に思ったものの、大人になってからは、「効率良く味方を殺す」ことができなければ全滅するしかないときもあるのだと知った。早々に現実の冷酷さを思い知らされたといえる。

 

Henrik Ibsen (1828-1906)
A Doll's House (Norway)(邦題《人形の家》)
 

The Book of Job (600-400 BC) (Israel)(邦題《ヨブ記》)
 

James Joyce (1882-1941)
Ulysses (Ireland)(邦題《ユリシーズ》)
 

Franz Kafka (1883-1924)
The Complete Stories (Bohemia)

 

The Trial (Bohemia)(邦題《審判》)

 

The Castle (Bohemia)(邦題《城》)
 

Kalidasa (ca. 400)
The Recognition of Sakuntala (India)(邦題《シャクンタラー》)
 

Yasunari Kawabata (1899-1972)
The Sound of the Mountain (Japan)(《山の音》)
ブログ記事参照。

流れゆく時からふと汲みあげた小説〜川端康成《山の音》 - コーヒータイム -Learning Optimism-

 

Nikos Kazantzakis (1883-1957)
Zorba the Greek (Greece)(邦題《その男ゾルバ》)
 

D.H. Lawrence (1885-1930)
Sons and Lovers (England)(邦題《息子と恋人》)
 

Halldór K. Laxness (1902-1998)
Independent People (Iceland)
 

Giacomo Leopardi (1798-1837)
Complete Poems (Italy)
 

Doris Lessing (b. 1919)
The Golden Notebook (England)(邦題《黄金のノート》)
 

Astrid Lindgren (1907-2002)
Pippi Longstocking (Sweden)(邦題《長くつしたのピッピ》)
 

Lu Xun (1881-1936)
Diary of a Madman and Other Stories (China)(邦題《狂人日記》他)
ブログ記事参照。
家畜の安寧に甘んじるなという叫び〜魯迅《小説集・呐喊》 - コーヒータイム -Learning Optimism-

 

Mahabharata (ca. 500 BC) (India)(邦題《マハーバーラタ》)
 

Naguib Mahfouz (b. 1911)
Children of Gebelawi (Egypt)
 

Thomas Mann (1875-1955)
Buddenbrooks (Germany)(邦題《ブッデンブローク家の人々》)


The Magic Mountain (Germany)(邦題《魔の山》)
 

Herman Melville (1819-1891)
Moby Dick (USA)(邦題《白鯨》)
 

Michel de Montaigne (1533-1592)
Essays (France)
 

Elsa Morante (1918-1985)
History (Italy)(邦題《イーダの長い夜 ― ラ・ストーリア》)
 

Toni Morrison (b. 1931)
Beloved (USA)(邦題《ビラヴド》)
 

Shikibu Murasaki
The Tale of Genji (Japan)(《源氏物語》)
日本人なら説明不要の超有名古典だけれど、通読できた人はそれほどいないと思う。わたしもあらすじはわかるけれど読み通せたのはほんのわずか。けれど、《源氏物語》をきっかけに王朝文化に興味をもつようになったのだから、影響ははかりしれない。

あなたの知らない平安時代へようこそ〜山本淳子『平安人の心で「源氏物語」を読む』 - コーヒータイム -Learning Optimism-

 

Robert Musil (1880-1942)
The Man without Qualities (Austria)(邦題《特性のない男》)
 

Vladimir Nabokov (1899-1977)
Lolita (Russia/USA)(邦題《ロリータ》)
 

Njals saga (ca. 1300)  (Iceland)
 

George Orwell (1903-1950)
1984 (England)
ブログ記事参照。不快極まりないディストピア。これ以上説明する気にもなれない。けれど私はこの本を忘れることができないだろう。目を背けたい真実を突きつけられるからこそ不快極まりないのだから。

身震いするほどの不快感〜ジョージ・オーウェル《1984》 - コーヒータイム -Learning Optimism-

 

Ovid (43 BC-17 e.Kr.)
Metamorfoses (Italy)(邦題《変身物語》)
 

Fernando Pessoa (1888-1935)
The Book of Disquiet (Portugal)
 

Edgar Allan Poe (1809-1849)
The Complete Tales (USA)
ブログ記事参照。

さまざまなジャンルの小説の原型を打ち立てた傑作たち〜エドガー・アラン・ポー《全集》 - コーヒータイム -Learning Optimism-

 

Marcel Proust (1871-1922)
Remembrance of Things Past (France)(邦題《失われた時を求めて》)
 

François Rabelais (1495-1553)
Gargantua and Pantagruel (France)(邦題《ガルガンチュワとパンタグリュエル》)
 

Juan Rulfo (1918-1986)
Pedro Páramo (Mexico)(邦題《ペドロ・パラモ》)
 

Jalal ad-din Rumi (1207-1273)
Mathnawi (Iran)
 

Salman Rushdie (b. 1947)
Midnight's Children (India/England)(邦題《真夜中の子供たち》)
 

Sheikh Musharrif ud-din Sadi (ca. 1200-1292)
The Orchard (Iran)
 

Tayeb Salih (b. 1929)
Season of Migration to the North (Sudan)
 

José Saramago (b. 1922)
Blindness (Portugal)(邦題《白の闇》)
 

William Shakespeare (1564-1616)
Hamlet (England)(邦題《ハムレット》)
"Frailty, thy name is woman." "To be or not to be, that is the question."などの名台詞がとても多い、シェークスピア最高傑作のひとつ。復讐者ハムレットが、結局は自分自身が殺したポローニアスの娘、愛するオフィーリアを自殺で失い、息子レアティーズの復讐によって死亡するという連鎖的結末がひどく皮肉。なんともいえない後味悪さ。


King Lear (England)(邦題《リア王》)
あどけない子供時代にはじめて触れた「善人が報われない」お話が《リア王》だった。読んだ当時は言葉にできなかったけれど、「理不尽」「不条理」ということを感じたのは《リア王》が人生最初だった。とはいえ、たかだか末娘コーディリアが父親リア王への愛情を美辞麗句で飾り立てなかったくらいのことで、激怒して絶縁宣言するリア王がその後受ける仕打ちは、自業自得だといまでも思う。


Othello (England)(邦題《オセロー》)
恐怖。オセローが狡賢いイアーゴーの作り話に騙されて、新妻デズデモーナが浮気したのではないかと疑い始める瞬間がとてつもなく怖い。オセローがムーア人(北西アフリカのイスラム教徒のこと。とはいえオセロー自身はキリスト教に改宗している)で肌黒く、年配であることから、ヴェネツィア出身の若く美しい白人女性であるデズデモーナが本気で愛してくれているのか自信をもてなかったことが、彼女の浮気を疑った根本的原因である。そこを容赦無くえぐる悪魔のごときイアーゴーのやり口は、人間に疑いの心を起こさせ、操り、間違いをおかさせるのがいかに簡単かを見せつけているよう。恐怖にわななきながら一気読みした。

 

Sofokles (496-406 BC)
Oedipus the King (Greece)(邦題《オイディプス王》)
父親を殺し、母親を娶り、そのことが発覚してみずからの両眼を突いて失明したオイディプス王の衝撃もさることながら、フロイトが「父殺しは人がもつ根源的欲望である」などと説明したおかげで、空恐ろしいほどの影響をもつようになってしまった。スター・ウォーズからエヴァンゲリオンシリーズまで、息子が父親を越えようと悪戦苦闘する物語は星の数ほどあるけれど、オイディプス王はこれらの物語に〈核〉を与えたのだろう。

 

Stendhal (1783-1842)
The Red and the Black (France)(邦題《赤と黒》)
 

Laurence Sterne (1713-1768)
The Life and Opinions of Tristram Shandy (Ireland)(邦題《トリストラム・シャンディ》)
 

Italo Svevo (1861-1928)
Confessions of Zeno (Italy)
 

Jonathan Swift (1667-1745)
Gulliver's Travels (Ireland)(邦題《ガリヴァー旅行記》)
子どもの頃、児童向け文学全集で読んだ。「一本の麦、一本の草しか生えぬ荒れた地に、二本の麦、二本の草を生やすことができる人物……そういう人物こそ、つまらぬ政治の書物を何十冊も読んだ者よりも王にふさわしい」という巨人国の国王の言葉がひどく印象的で、それがわたしの読書経験の根底にあると思う。読書は必要だ、だが実践に勝てるものではない、と。

 

Lev Tolstoj (1828-1910)
War and Peace (Russia)(邦題《戦争と平和》)
ブログ記事参照。これは長編小説ではなく、ナポレオンのロシア侵攻という歴史事件を、分解し、解析し、歴史をつくるのは英雄ではなく無数の意志をもつ無数の人々であるという視点から再構築するという挑戦そのもの。主人公のひとりピエールがヘタレすぎるが、流されやすく、思いこみが激しく、常に自分の代わりにものごとを決めてくれる人を探しているようなピエールのふるまいは、わたしにも身に覚えがあることばかりでいたたまれなくなる。

歴史に人々が流されるか、人々が歴史をつくるか〜トルストイ《戦争と平和》 - コーヒータイム -Learning Optimism-


Anna Karenina (Russia)(邦題《アンナ・カレーニナ》)
ブログ記事参照。

男と女の視線がからみあうとき《アンナ・カレーニナ》 - コーヒータイム -Learning Optimism-

 

The Death of Ivan Ilyich and Other Stories (Russia)(邦題《イワン・イリイチの死》)
ブログ記事参照。

【おすすめ】最後まで読むには勇気がいる〜トルストイ《イワン・イリイチの死》 - コーヒータイム -Learning Optimism-

 

Anton P. Tsjekhov (1860-1904)
Selected Stories (Russia)
ブログ記事参照。さまざまな短編小説と戯曲の多くは「ここではないどこか」「いまの生活ではないなにか」を求める人々の苦難と葛藤を描写している。中年過ぎればめちゃくちゃ刺さる。「いま、ここを離れればきっとなにもかもうまくいく」という夢が、家庭、子供、仕事……などにとりこまれてしだいに消え失せ、ついには何者にもなれないまま、いまの境遇を受け入れざるを得なくなるから。
ここではないどこか、いまの生活ではないなにか〜アントン・チェーホフ《チェーホフ全集》 - コーヒータイム -Learning Optimism-

 

Thousand and One Nights (700-1500) (India/Iran/Iraq/Egypt) (邦題《千夜一夜物語》または《アラビアン・ナイト》)
子どもの頃、「イスラム教」という言葉すら知らないときに児童向け文学全集で読んだ。私がはっきり覚えているのは海の信心深い人魚アブドーラと陸の信心深い人間アブドーラの物語。人魚アブドーラは、人間アブドーラの信心深さを好ましく思い、友情を育むが、人間アブドーラが、人間たちは葬式で泣くのだと語ることで人魚は激怒する。うろ覚えだがこんな言い分だったと思う。

「死ぬことは神さまに生命をお返しすることですよ!海ではみんな死ぬことを喜ぶのです。お葬式は、お祭りですよ!神さまに生命をお返しすることを悲しむなんて、それでよく信心深いと言えたものですね!おおいやだ!おまえさんとは、もう、これっきり!」

かんかんに怒って海に帰ってしまう人魚の言い分が、子どものころの私には全然理解出来なかった。いまでも理解出来るとは言いがたい。ただ、〈千夜一夜物語〉に繰返し出てきて、あこかれをもって語られる繁栄都市バグダッドを、幼い日の私は記憶にとどめた。

 

Mark Twain (1835-1910)
The Adventures of Huckleberry Finn (USA)(邦題《ハックルベリー・フィンの冒険》)
ブログ記事参照。黒人奴隷と交流すること自体が恥ずべきことだと考えられていた南北戦争前後、白人少年ハックルベリー・フィンが逃亡奴隷のジムとしだいに心を通わせながらも宗教的良心に苦しむところは、いかにその時代の価値観から逃れることが困難であるのかをわたしたちに見せつける。無自覚にすりこまれる価値観だからこそ恐ろしい。そのことを自覚させてくれるすばらしい物語。

黒人として、友達として〜マーク・トウェイン《ハックルベリー・フィンの冒険》 - コーヒータイム -Learning Optimism-

 

Valmiki (ca. 300 BC)
Ramayana (India)(邦題《ラーマーヤナ》)
 

Vergil (70-19 BC)
The Aeneid (Italy)(邦題《アエネーイス》)
 

Walt Whitman (1819-1892)
Leaves of Grass (USA)(邦題《草の葉》)
 

Virginia Woolf (1882-1941)
Mrs. Dalloway (England)(邦題《ダロウェイ夫人》)
ブログ記事参照。

「意識の流れ」という新手法〜ヴァージニア・ウルフ《ダロウェイ夫人》 - コーヒータイム -Learning Optimism-


To the Lighthouse (England)(邦題《灯台へ》)
 

Marguerite Yourcenar (1903-1987)
Memoirs of Hadrian (France)(邦題《ハドリアヌス帝の回想》)

<英語読書チャレンジ 39-40 / 365> B.Gaskey “ Captain Sally’s Book of Fire Service Wisdom”

英語の本365冊読破にチャレンジ。原則としてページ数は最低100頁程度、ジャンルはなんでもOK、最後まできちんと読み通すのがルール。期限は2025年3月20日

本書は未邦訳(だと思う)。タイトルは直訳すると『キャプテン・ソルティの消防隊のための賢者の書〜消防士試験を突破し、初期キャリアを最大限生かすための実践ガイド〜』(長い!)

著者は消防士は古い男社会で、家族に消防士がいる屈強な男でさえ溶けこむのに苦労することを率直に認め、この本はそんな新米消防士とその予備軍たちに、自分たちが入ることになる世界の現状を包み隠さず示すことが目的であると述べる。

過激な言葉や、男女差をはっきり表す言葉ーーたとえば消防士を "firefighter" ではなく "fireman" と呼ぶなどーーを使うことがあるが、それこそが消防士の世界で現実的に使用されている言葉である。著者は皮肉をこめて、政治的動向とか感情を害されたなどの理由で(消防士の世界は)変化することはないだろうと述べている。わざとらしいもってまわった言い回しながら、女性や有色人種の割合を何%にするべきだの、LGBTを差別してはならないだの、そういう政治的傾向を一蹴している。

But we should all be more concerned about having the right people for a specific job, rather than the one that has the correct amount of melanin in their skin or uses a different bathroom than other members of a crew.

特定の仕事には、肌にメラニン色素が適切量含まれるとか、ほかのメンバーと違うトイレを使うとか、そういう者ではなく、その仕事にふさわしい人間が就くようにわれわれは気を配るべきだ。

内容としては意外に昭和的。新人は早めにきて消防器具を点検しろ、キッチンに汚れた食器があれば洗え、絶対嘘をついたりごまかしたりするな、小さなことから信頼を積み重ねなければ生命を預けあうこともある消防隊員の仲間になることはできない、ということが平易な英語表現で書かれている。この辺は昔読んだノンフィクション『9月11日の英雄たち』にでてくる情景そのままでやはりなかなか伝統的な世界なのだ。

 

あわせて読みたい

この機会にアメリカの消防関連基準であるNFPA  (National Fire Protection Association、全米防火協会) Codesも読んでみた。本ではないけれど、100頁を余裕で越えるものばかりなので読破した英語本の数にカウントする。

いわゆる日本の消防法にあたるものはアメリカ連邦法にはなく、州ごとに権限が委ねられている。州が作成する法律は、民間機関による基準や規格に基づいている。広く採用されている基準として、国際建築基準(International Building Code、IBC)と国際防火基準(International Fire Code、IFC)があり、これらは国際基準評議会 (International Code Counsil, ICC) が作成している。また、労働安全に係る防火安全規制については、米国連邦規則に労働安全衛生規則(29CFR Part1910 Occupational Safety and Health Standards、OSHA 規則)がある。

州の防火安全規制にしろ、連邦規則の労働安全衛生規則にしろ、消防用機器の基本的な基準を定めるのみである。詳細仕様を与える規格のひとつがNFPA Codesであり、ほかには保険業者安全試験所(Underwriters’ Laboratories、UL)規格、工場主相互保険(Factory Mutual、FM)規格など。

ICCシリーズとNFPAシリーズはいわゆる「合意に基づいて (consensus based) 」作成される規格であり、業界団体や有識者から広く意見を取り入れて更新するというアメリカ特有のやり方で管理されている。それ自体に法的拘束力はなく、どのように適用されなければならないかは州法規次第。内容、適用範囲、更新手続などでちがうためしばしばややこしい事態を引き起こす。
ICC and NFPA Codes and Standards: A Basic Guide

 

NFPA 1 Fire Code

この規格が定められた目的は、火災、爆発やほかの有害状況から人命や資産、公共財を守ること。さまざまな施設における消防設備や避難施設などの検査・試験、事故 (incidents) 調査、設備計画検討、訓練、許可 (permission) が必要になるものなど、人命保護 (life safety) や財産安全 (property safety) かかわる事項全てについて包括的に定めている。

歴史的経緯でいえば、この規格はもともと別組織により作成され、のちに全米防火協会に移管された。NFPAシリーズの基盤と位置付けられ、ほかのNFPA Codeにある重要条項はすべて引用や参照、ときどき補足、というかたちでまとめられているため、本文だけでも数百頁というとんでもない分量。人命・財産保護を語る際に知るべきテーマが全て挙げられているといえる。このNFPA 1に補足条項をつけてカスタマイズし、独自基準とすることもできる(マサチューセッツ州はそうしている)。クリスマスツリーを置いていいかどうかまで定めているのはなかなか笑える。ちなみにホテルは生木禁止らしいので作りもののクリスマスツリーになる。残念。

<英語読書チャレンジ 37-38 / 365> J. Herriot “All Things Bright and Beautiful” “All Things Wise and Wonderful”

英語の本365冊読破にチャレンジ。原則としてページ数は最低100頁程度、ジャンルはなんでもOK、最後まできちんと読み通すのがルール。期限は2025年3月20日

イギリスの古き良き田舎町を舞台に獣医の奮闘を描くシリーズを読む。著者のジェームズ・ヘリオットはノースヨークシャーに住むベテラン獣医。本作は著者自身の体験を題材にした自伝的ノンフィクションで、人間も動物もとにかく個性豊かでめちゃくちゃ面白い。荒川弘の酪農漫画『銀の匙』『百姓貴族』が好きならぜひぜひ読もう。

シリーズ1冊目の読書感想を置いておく。

【おすすめ】新米獣医のあたふた奮闘記〜J. Herriot “All Creatures Great and Small” - コーヒータイム -Learning Optimism-

 

シリーズ2冊目。著者が本を書いた時点から30年ほど時をさかのぼり、1930年代頃に経験したことをまとめたもの。48篇の短篇からなり、ある程度時系列はあるものの、主要登場人物(著者自身と妻ヘレン、獣医診療所の共同経営者であるジークフリードとその弟トリスタン)をおさらいできれば、どこから読み始めてもそれほど支障はない。

1930年代といえばヨーロッパ中を第二次世界大戦の影が覆いつくそうとした頃だが、著者は戦争にはほとんどふれず、家庭生活、診療所生活、患畜(馬、乳牛、山羊、羊、犬などなど)とその飼主たちの思い出話をユーモラスにつづる。しかし避けられぬ結末 として、終章で著者は "call-up papers" ーー召集令状ーーを受け、愛する妻を残してロンドンに発つ。

そこに至るまでの日々は温かい記憶に満ちている。結婚前にヘレンの家を訪問したとき、ヘレンの父親と同席させられ、会話が盛り上がらずに冷や汗たらたらで緊張していた場面では、食事の描写が「イギリス料理は不味い」という思い込みを吹き飛ばす。

This wasn’t easy as the table was already loaded; ham and egg pies rubbing shoulders with snowy scones, a pickled tongue cheek by jowl with a bowl of mixed salad, luscious looking custard tarts jockeying for position with sausage rolls, tomato sandwiches, fairy cakes. In a clearing near the centre a vast trifle reared its cream-topped head. It was a real Yorkshire tea.

ーーテーブルの上はすでにいろいろあったから、ケーキを置く場所を見つけるのは簡単ではなかった。ハムと卵のパイは雪のように白いスコーンと肩をこすりあわせ、塩漬け牛タンとミックスサラダが盛られたボウルが密接し、美味しそうなカスタードタルトがソーセージロール、トマトサンドイッチ、パウダーシュガーを振りかけたカップケーキと場所をとりあう。テーブルのほぼ中央の空間にはクリームがかかった巨大プディングが鎮座している。これぞ本物のヨークシャー風昼食である。

夫に先立たれ、8歳、5歳、2歳の息子を抱えるダルビー夫人が、子どもたちのために女手一つで農場を経営しようとする話には感動せずにはいられない。呼吸器系を侵す寄生虫により牛を半分近く失い(初期症状が出てすぐ駆除するべきであったが、ダルビー夫人は経験不足のため治療のベストタイミングを逃した)、翌年に銅欠乏症で仔牛たちがひどい体調不良になるなどの災難に見舞われ、苦労に苦労を重ねながら息子たちをみごと育て上げ、引退した近隣住民の農場を買い上げて新婚の長男に住まわせている。そんなダルビー夫人の初登場場面から、著者は彼女のもてなしの心と芯の強さをとても好ましく思っているのが伝わる。

The hospitable Dales people were continually asking me in for some kind of refreshment—a “bit o’ dinner” perhaps, but if it wasn’t midday there was usually a mug of tea and a scone or a hunk of thick-crusted apple pie—but Mrs. Dalby invariably set out a special tray. And there it was today with a clean cloth and the best china cup and saucer and side plates with sliced buttered scones and iced cakes and malt bread and biscuits.

ーー親切な(ヨークシャー・)デールの住民はよく私になにかつままないか聞く。「ちょっとした昼食」にお呼ばれされるときもあるが、お昼時でなければ、たいていマグカップに入った紅茶とスコーンか分厚いアップルパイが一切れ出てくる。しかしダルビー夫人は必ず特別なお盆を出してくる。この日お盆には清潔なクロスが敷かれ、一番良い中国磁器のソーサー付きカップが乗っていた。そばの皿には薄く切られバターを塗られたスコーン、冷えたケーキ、麦芽パン、ビスケットが盛られていた。

著者は "Farmers? They were the salt of the earth."と書く。salt of the earthは直訳すると「地の塩」。新約聖書「マタイによる福音書」の第5章13節に、イエスの教えに従う者は地の塩のように貴重で価値があるという言葉がありーーもちろん人は塩なしで生きることができず、冷蔵技術が発展する前は保存食作製に塩が不可欠だったから、イエスの時代の塩はとてつもなく重要であったーー、転じて善良な人々を指す。ちなみにこの言葉が登場するのはある雪深いクリスマスのことを書いた章で、朝6時に電話でたたき起こされて往診先でさんざんな目に遭わされながら、やはり自分はこの地域に馴染んでいるのだとさとりを開く(?)場面。なかなか味わい深い。

 

シリーズ3冊目。妊娠中の妻ヘレンを残し、召集令状を受けて英国空軍二等兵 (Aircraftman 2) としてロンドンに出発したときから、除隊した日までを書く。

著者は、過酷な訓練の日々と、ヨークシャーで獣医と過ごした思い出の日々との間を行き来する。幸運にもヨークシャーが訓練場所に指定されたときにはこっそり外出して臨月のヘレンに会いに行き、産まれたばかりの我が子が(仔牛や仔馬に比べれば)あまりにもしわくちゃなのでどこか悪いのではないかと口走って助産婦を激怒させるなど、厳しい環境ながらどこかユーモラスで温かみのある文章が続く。

 

<英語読書チャレンジ 36 / 365> M. Lewis “The Premonition: A Pandemic Story”(邦訳タイトル『最悪の予感 パンデミックとの戦い』)

英語の本365冊読破にチャレンジ。原則としてページ数は最低100頁程度、ジャンルはなんでもOK、最後まできちんと読み通すのがルール。期限は2025年3月20日

本書は新型コロナウイルスパンデミックにより広く読まれた。邦訳タイトルは『最悪の予感 パンデミックとの戦い』。原書タイトルも同様の意味。

本書は新型コロナウイルスパンデミックが起こる初期の物語。ウイルスがどれほどの伝染力をもち、どのような症状を引き起こしうるのかまったく情報がなく、アメリカではほとんどの人が中国でなにか病気が流行り始めたことを気にかけてもいなかったころ、ごく一握りの専門家がいちはやく危機感をもち、警告を発し、アメリカでのパンデミックを阻止しようと奔走していた。

これはそんな彼らの物語。無関心なホワイトハウス官僚主義で事なかれ主義のCDC (Centers for Disease Control and Prevention、アメリカ疾病予防管理センター)、公衆衛生というものをまったく重視せず定年までの腰掛けとしか思っていない医師たち、非協力的な同僚たち。彼らはウイルスよりもまず人間と戦わなくてはならなかった。
そもそもCDCの事なかれ主義は一朝一夕のことではない。カリフォルニア大学サンタバーバラ校で、学生たちの間で髄膜炎菌性髄膜炎の流行が疑われたとき、当時環境衛生官であったチャリティ・ディーンはCDCに連絡をとり、そのことを嫌というほど味わう。髄膜炎菌性髄膜炎と断定する証拠がない、このままなにもせずに状況観察をするべきだ、というCDCの回答に彼女は憤慨する。CDCは科学実験かなにかのように流行性髄膜炎がキャンパスにどのように広まるのか観察する気でいる。そんなことをすればどうなるか。髄膜炎菌性髄膜炎の潜伏期は2-10日、致死率は10-15%である。すでに重症化して両足切断した子がでているのだ!

The root of the CDC’s behavior was simple: fear. They didn’t want to take any action for which they might later be blamed.

ーーCDCのふるまいの根底にあるものは単純です。恐れです。どんなことであれ、後々責められるかもしれない行動は起こしたくないのです。

CDCに期待するだけ無駄だと見限ったチャリティをはじめとする専門家たちは情報収集に奔走する。中国からごくわずかずつ漏れ聞こえる現地状況、感染者が出たために横浜港で足止めを余儀なくされた豪華クルーズダイヤモンド・プリンセス号での感染者推移、中国から多くの観光客やビジネスパーソンが訪れるアジア諸国の水際対策。ドキュメンタリー仕立てで一気に読める内容ながら決して飽きさせることがなく、アメリカの公衆衛生対策の問題点、その中でできるだけのことをしようと奮闘する専門家たちの使命感は、コロナ禍の惨状、未だワクチン開発の見通しがたたない状況の中で際立つ。

ーー2022年11月17日現在、アメリカの累積感染者数は9,792万人、死亡者数は107万人(端数切捨て)である。