コーヒータイム

日々読んだ本の感想。時々日常。

「人工知能 機械といかに向き合うか」(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部)を読んだ

やがて来る人工知能(AI)の時代、人々の関心が向いているのは人工知能をビジネスでどう利用出来るか、自分の仕事が人工知能に奪われることはないかということだろう。本書はマネジメント誌DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューに掲載され、反響を呼んだ論文を八本収録し、さまざまな方向から人工知能を論じている。

多くの論文では人工知能の能力と限界について説いている。全体把握・問題提起・課題設定・これまでにないものの発明やひらめき・対人コミュニケーション・感覚的判断(たとえば手触りがいい) などは人工知能による代替が難しく、今後人間にはこのような能力がますます求められるだろうと主張する。

この中で私がとくに興味深く読んだものを紹介する。

 

「オーグメンテーション: 人工知能と共存する方法」(トーマス・H・ダベンポート、ジュリア・カービー)

人工知能が人間の仕事を代替するのではなく、「補完」することにより、より優れた成果を得ることができると主張する論文。

文中で2014年に『ニューヨークタイムズ』紙に掲載された面白いエピソードが語られている。ある男性が転職直後に住宅ローンの借り換えを申請したが、却下されてしまった。彼は転職前まで政府機関で八年間、教員として二十年以上安定した仕事に就いており、また収入水準に対して十分余裕のある返済額だったが、自動審査システムは彼の新しい仕事には収入面での変動や不確実性があると判断したのだ。

この男性は誰かって? FRB (連邦準備制度理事会) 前議長のベンジャミン・バーナンキだ。彼の新しい仕事とは100万ドル以上の書籍執筆契約であり、高額な依頼料が約束された引く手数多の講演依頼だ。世界で最も高い信用水準を保持しているであろう人物であっても、コンピュータに言わせれば仕事が継続的に入ってくるとは限らないから、ローンを組むのを認められないというのである!

このエピソードは、コンピュータ評価指標の妥当性について疑問をもつきっかけになるかもしれない。人工知能機械学習により自分で評価指標を開発出来るようになった以上、こうしたことは起こりにくくなるかもしれない。それでも、人間の判断が介入することで、こうした笑い話が回避できるのなら、仕事として価値があるだろう。

 

「アリババの戦略はアルゴリズムに従う」(マーティン・リーブズ、曾鳴、アミン・ベンジャラ)

ますます複雑で変化に富む環境において、企業はビジョンとビジネスモデルそのものを常にセルフチューニング(自己調整) することで成功の可能性を高められる。中国のeコマースの巨人アリババがまさにこの点に力を入れ、ビジョンを再定義し続け、新しいビジネスモデルを実験することによって、1999年の創業後、またたくまに中国市場のシェアを拡大していったことを論じた論文。

これは中国という一党独裁国家の独特性にも一因があると思う。中国のビジネスルールはトップの政策変更によりしばしば大転換を強いられる。例えば、中国政府による外国人ランクづけ制度が始まり、ランクによっては例え現地法人社長でも国外退去対象になる仕組みが導入されたのは記憶に新しい。持続的なビジョンとビジネスモデルは安定した法規制と政策の上で初めて成り立つのであって、ルールが政府レベルで絶えず変化するようなビジネス環境では、今のビジネスモデルが5年後通用する保証はなく、絶えずセルフチューニングすることはもはや必須条件だろう。