コーヒータイム

日々読んだ本の感想。時々日常。

「銃・病原菌・鉄(上)」(ジャレド・ダイアモンド著)を読んだ

どっしりとした名著を読みたくなって選んだ本。「東大の教師が新入生にオススメする100冊」などのリストの常連である名著だ。

一日で読了するにはあまりにも濃い内容だが、週末をかけて読み切ることに挑戦した。

 

本書で問われているのは「なぜ、人類社会の歴史は、それぞれの大陸によってかくも異なる経路をたどって発展したのだろうか?」ということだ。著者はそれにこう答えようとしているーー「歴史は、異なる人びとによって異なる経路をたどったが、それは、人びとのおかれた環境の差異によるものであって、人びとの生物学的な差異によるものではない」

ヨーロッパによる植民地政策の歴史は今更繰り返すまでもないが、そこには前提がある。征服される側が征服者よりも弱く、土地争奪戦に勝てなかったことだ。弱さには理由がある。ニューギニアは未だ石器しか持たず、ヨーロッパの鋼鉄製の武器に歯が立たなかった。インカ帝国はスペインから持ちこまれた天然痘に耐性がなく、王族の病死により混乱状態に陥り、スペイン征服者につけ入る隙を与えた。

だが、なぜ? 

最終氷河期が終わった紀元前一万一千年前の時点では、各大陸に分散していた人類はみな狩猟採取生活を送っていた。そこから同じ時間が平等にすぎていたのに、なぜヨーロッパは鋼鉄製の銃火器を手にし、ニューギニアは単純な石器しか手にしなかったのだろう? なぜスペイン征服者は天然痘に対する耐性を身につけ、インカ帝国にはまったくなかったのだろう?

 

著者は世界のさまざまな地域の人類発展史を縦横無尽に俯瞰し、これらの疑問に答えようと試みた。植物栽培と家畜飼育ができたユーラシア大陸は、「定住的で、集権的で、社会的に階層化された複雑な経済的構造を有する技術革新的な社会」の誕生の前提条件を満たしていたと著者は言う。余剰食糧があることで、食糧生産に従事しない王族、職業軍人、技術者、歴史家などが存在できるようになった。家畜伝染病の突然変異種が人間に伝染することで新たな伝染病が生まれ、やがて家畜飼育者たちはそれに対する耐性を獲得していった。食糧生産を先んじて始めた人びとが、他の地域の人びとより一歩先にそれ以外の技術を発展させ、やがてそれが大きな差になった。

だが、なぜある地域では食糧生産が始まったのか? 環境要因だけではない。事実、現在世界で最も肥沃な穀倉地帯とされている地域のいくつかは、近年農耕技術が持ちこまれるまで、農耕文化を発展させてこなかった。これに対して著者は、気候・土壌・植物相分布・狩猟採取で得られる獲物との対比などにおいて、ある地域がたまたま他地域より優れていたため、農耕文化発展が早かったのだと説明する。農耕文化が発展しなかった地域でも、今後数千年の時間をかければ農耕文化の発展が見られたかもしれない。だがその前に「農耕文化発展において一歩先んじた」他民族により征服されたことで、歩みが中断されてしまった。栽培されている植物の遺伝子解析から、この流れがある程度読み取れる。

上巻最後に書かれているのは病原菌の話題だ。なぜ、ヨーロッパは天然痘などの病原菌の耐性をある程度獲得でき、それがなかったインカ帝国の人びとを天然痘で殺すことができたのか。おぞましい話題だが、病原菌が人類史で果たしてきた役割は、避けては通れない。