コーヒータイム -Learning Optimism-

本を読むということは、これまで自分のなかになかったものを取りこみ、育ててゆくこと。多読乱読、英語書や中国語書もときどき。

“The Bone Collector" by Jeffery Deaver

 

初めて読む、ミステリーの大家ジェフリー・ディーヴァーの作品。これまで何度も図書館で見かけたけれど、「ボーン・コレクター」という快楽殺人犯を思わせる強烈なタイトルに、なんとなく手にできずにいた一冊。

洋書原文にしたのは、英語学習もあるが、kindle版で日本語版に比べて大幅に安かったからだった。そうしてよかったと思う。この本はスリリングな場面をとても短い英文で書き表していて、それが読みやすく、リズミカルで、効果的だ。

例えば冒頭でタクシーに乗った女性が異常に気づく場面。

The door handles too. -(車の)ドアノブも。

例えば婦警アメリア・サックスが死体の状態に気づく場面。

 And maybe still was. - もしかしたらまだ。

前者はあろうことかタクシーの後部座席のドアノブがなくなっていることに気づく場面(つまり自力で後部座席から出られないということ。もちろんまともな車がそうなっているわけはない)、後者は地面から手だけ突き出した状態で、まだ生きているかもしれないと思う場面だ(この後アメリアは猛然と土を掘り始める)。短文ではっと息をのませて、それから怒涛の展開にもっていくのがうまい。長文なら読み終わる前にのんだ息を吐き出してしまうが、それをさせない文章の短さとリズムがいい。

主人公のリンカーン・ライムは元ニューヨーク市警中央化学捜査部部長。事故で四肢麻痺になり、動かせるのは首・頭部・左手の薬指だけ。三年半をこの状態ですごした彼の望みは尊厳死。かつての同僚が事件の相談にきても興味を示さず、医師の訪問時間ばかり気にしていたが(医師には尊厳死の相談をしていた)、やがて誘拐監禁殺人事件に関わりを深くしていく。

リンカーン・ライムは寝室ーー彼はそこから動けないーーに科学分析装置一式と現場遺留物を持ちこませて、一つ一つ分析していきながらその意味を科学的に解き明かしていく。繊維、釘、土、木片……すべてがそれぞれの特徴をもち、犯人や被害者に結びつけられていくのは見事だ。時には証拠保全に注意を傾けるあまり他のことが目に入らなかったりする(彼がアメリアに実行させようとした手錠回収方法は、狂気の沙汰以外のなにものでもない)。ジェットコースターミステリーの名そのままに、物語は疾駆する。

謎解き読みあい頭脳勝負。探偵は動けないにもかかわらず、助手の目を通すことでまるで自ら見てきたかのように現場を把握する。その過程で助手にさせられたアメリアとの間に信頼関係が育ちはじめ、リンカーン・ライム自身の安楽死希望も少しずつ変わってくる。安楽椅子探偵好き、知能犯好き、人間関係描写好きの読者にはたまらない、スリリングな一冊だ。